第22話 パラレルワールド
第22話 パラレルワールド
僕達は、最短距離で移動するため、リベリス王国の穀倉地帯を、南に進んでいた。
周囲は広大な麦畑が広がっている。
左側にはうっすらと森林が見え、右側にはリベリス山脈の高い山々が見える。
その山頂付近には、積雪が見られ、青い空とのコントラストが綺麗だ。
僕が歩きながら景色を楽しんでいると、突然に地面が揺れた。
少し油断をしていた。
まだまだ余震は続いており、時々大きな揺れが起こっている。
まだまだ警戒を解いてはいけない。
自然は、しばしば人の思いを裏切るものだ。
「まだまだ余震が続きそうだな」僕がなんとなく呟いたのに、ルナが反応した。
「日本でも時々大きな地震があったわね。しばらくは余震への備えが必要だった。ここでもやっぱり同じなのね…」
僕は、ルナが僕と同じような知識を有していることに興味がわいた。
仮説ではあるが、パラレルワールドという考え方がある。
パラレルワールドが本当に存在するとすれば、それは無限に存在するはずであり、似たような世界もあれば、かけ離れた世界もある。
それならば、同郷であるとは言え、全く常識が違っていてもおかしくはない。
ルナがいた並行世界は、僕がいた世界と近かったのかもしれない。
「ルナ、パラレルワールドって知っている?」
「急にどうしたの?並行世界の事よね?何となくは、知っているわ」
「そう並行世界のこと。いや、さっきのルナの言葉で、僕達が住んでいた前世の世界は、意外と近い世界だったのかもしれないと思ってね…。何か恣意的なものを感じるな…。まあもっとも、女神様が恣意的に選んだんだから、それも当然かもしれないけど…」
「確かにそうね。それはそうと、どの程度の差があったのか、興味があるわね。確認してみない?」
「うん、いいよ。じゃあ僕の住んでいた日本について話そうか?」
「いや、私が話すから、レンは違いが出たら教えて」
「了解」
「私がいた日本は、地球の極東にある島国で、私が生きていたのは令和という時代だった。あまり良い時代じゃなかったかもしれない。新型のウイルスが、世界に蔓延して混乱を引き起こしていたし、大国が小国に戦争を仕掛けたりしていた」
「それは新型コロナウイルスとロシアのこと?」
「その通り。へえー、ここまで同じなのね。私が住んでいたのは、日本の中でも九州と呼ばれる地域の○×県という所。そこで銀行員をしていたわ。ある日、勤務中に銀行強盗に殺されてしまった…、今でも悔しい。それで、女神様に召喚されてこの世界に来たの」
「○×銀行!?」
「そう!」
「○×銀行襲撃事件。確か、令和○年○月○日。僕が死ぬ約半年前に起こった事件だ…。結局、銀行員が多数殺されてしまった恐ろしい事件だ。日本でそんな恐ろしい事件が起こったことが信じられなくて、よく覚えている」
「そう、確かにその日付だったわ。…私以外にも被害者が沢山出てしまったのね…」
「ひょっとしたら、僕たちは、本当に同じ時代の同じ世界から来たのかもしれない…」
「…そうかもしれないわね…。…ところで、レンはどうして死んだの?」
「僕は○△府で外科医をしていたんだ。癌で亡くなられた患者さんの家族に恨まれて、背中から刺されて死んでしまった。その時の医学ではどうしようもない程進行した癌だったから、仕方が無かったんだけど、家族の人は分かってくれなかった…」
「そうだったのね…。お互いに、理不尽な殺され方をしたものね…」
沈黙が訪れたその時、突然に、轟音と共に地面が揺れ、ユリアス山脈の最高峰であるピレーネ山が噴火した。
吹き上がる溶岩や煙。
流れ出す溶岩流や火砕流。
…降り注ぎはじめた噴石や火山灰…。
それと共に巨大なドラゴンが出現した。
それが、高く舞い上がったと思うと、何度か旋回し、西へと飛び去っていった。
あの方向にはドワーフ王国やレットン帝国がある。
噴火によるものでだけでなく、ドラゴンによる被害も出るかもしれない。
僕達は、西へと進路を変更した。
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