第19話 絶望
第19話 絶望
僕はメンデスにペインキラーの魔法を唱えた。
その後、メンデスの足に乗っている岩を取り除こうと試したが、重くて動かすことができない。
そこで僕は、少しだけ右人差し指に魔力をチャージし、岩に向けて魔弾を放った。
魔弾が岩に当たると、衝撃で岩は粉々に砕け散った。
よし、上手くいった。
残った石や砂を取り除くと、メンデスの両足があらわになった。
メンデスの両足は、重い岩で押しつぶされ、ボロボロで酷い状態だ。
出血も止まっていない。
僕は急いでプチヒールの魔法を唱えた。
プチヒールの呪文で、何とか出血が止まったので、次は完治するよう十分にイメージし、時間をかけ再度プチヒールの呪文を唱えた。
今度の呪文は上手く作用し、メンデスの両足をほぼ完治することが出来た。
「レン、助かったよ、ありがとう」
「うん。助かって良かったよ。ところで、他のみんなは?」
「分からない…。ただ、ここの崩落が起こったとき、みんなが崩落に巻き込まれるのが見えたんだ…。この岩を取り除いていこう。もしかしたら、閉じ込められているかもしれない」
「分かった。みんなで岩を取り除いていこう」
「みんな?」
「ああ、ちょっと待ってて」
僕は岩の向こうのエライザ達に呼びかけ、向こう側からも岩を取り除く様に指示した。
ルナには、改めて重力魔法を唱えて貰い、通常では動かせない大きな岩を取り除いていった。
しばらく岩を取り除く作業を続けていると、地面と岩の間から、赤黒いものが見えてきた。
血液だ…。
その部分の岩を急いで取り除いていくと、血液の匂いが周囲に広がった。
更に岩を取り除く作業を続けると、傷ついた手のようなものが見えてきた…。
誰かが、岩の下に…。
メンデスと共に、一生懸命に岩を取り除いていった。
岩を取り除いたそこには、既に原形をとどめていない誰かが、横たわっていた…。
この装備はサーシャだ…。
あふれ出す涙を抑えることも出来ないまま、僕達は、サーシャの冥福を祈った。
そして、絶望に打ちひしがれながらも、周囲の岩を取り除く作業を再開した。
僕達は喋ることもなく、淡々と岩の除去を進めた。
あふれ出す涙は、いつまで経っても枯れることはなかった。
岩の除去が進むにつれ、それまでの絶望に更に追い打ちをかけるように、新たな絶望が襲いかかってきた。
…結局、誰一人として、生存者はいなかった。
ただ、傷つきボロボロになった、かつて仲間であった何かが、そこに残っているだけだった…。
僕とメンデスは、その何かを一つ残らず丁寧に集めてきた。
その間に、向こう側から岩を取り除いていたエライザ達がやって来た。
エライザ達は、僕とメンデスの姿を認めると、すべてを悟ったようだ。
僕達に声をかけることも出来ず、ただ静かに涙した。
会ったこともないルナ達魔族の人たちも、例外なく、涙した。
そして、サーシャ、レイリア、ミーニャの冥福を祈った。
「どうして、僕だけ助かったのだろう…。僕こそが死ぬべきだった…」
「メンデス、自分を責めてはいけない。メンデスのせいでこうなったわけじゃないんだ」
「いや僕があのとき、ビリー達の探索に行かずに迷宮外に出る決断をしていたなら、こんな事にはならなかったのに…」
「何を言っているんだ。災害の時、他のパーティーの探索に行く判断は、絶対に間違っていない。僕達冒険者は、みんなそうするのが当然だ」
「…分かっている。それでも…僕は…」
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