第16話 転移
第16話 転移
「…ということで、ベックの迷宮に向かうわ」
「レンのパーティーメンバーが、危険にさらされているかもしれないのね?急がなきゃ。ここからどのくらいの時間がかかるの?」
「3日くらい…」
「それでは遅いわ…」
「でも、仕方が無いでしょ?」
「私が先行して、みんなを誘導するわ」
「ルナさん、それはどういう…」
「私が時間を止めつつ、できるだけ進む。ある程度進んだら、座標を確認してから、転移して戻る。それからみんなを連れて、確認した座標まで転移する。これを繰り返すのよ」
「魔力は大丈夫なの?」
「魔素を吸収しながらするから大丈夫。大陸の地図を頂戴。直ぐに出発するわ。みんなは、私が帰るまでここで待っていて」
「…お願いするわ。気をつけて」
私は、スロー・タイムを発動させ、更にストップ・タイムを発動させた。
時の流れが停止し、周囲の何もかもが動かなくなった。
私は、その中を懸命に走り続けた。
体感的に3分ほど経過し、ストップ・タイムが終了した。
時間がゆっくりと動き出しても、私は走るのをやめず、がむしゃらに走った。
5kmは進んだだろうか、私は座標を確認し、みんなの下に転移した。
その後、みんなを連れて座標まで再転移した。
ここまで、実際の時の流れは60秒にも満たない。
魔力にはまだ余裕があるが、スロー・タイムのクーリングタイムが明けない。
私は仕方が無く、クーリング時間の合間に、魔力の吸収を行った。
スロー・タイムが使えるようになったら直ぐに、同じ事を繰り返した。
何度も何度も繰り返した。
今ので、今日何度目の転移をしたのだろう?
もう分からなくなった。
でも、そのおかげもあって、ベックの迷宮までたどり着くことが出来た。
精神的には疲れているが、魔力は先ほど吸収したので大丈夫。
エライザが、宿泊施設のギルド職員から状況を教えて貰った。
今のところは、あまり良い状況ではないようだ。
レンも先行して迷宮に潜ったようだが、まだ帰ってきていないという。
私たちも、直ぐに迷宮に入ることにした。
レンの分身体もこっそりとついて来ている、レンが無事なのは確実だ。
近いうちにレンからの連絡があるだろう。
迷宮の第一層に入った私たちは、その酷い状況に驚愕した。
天井の崩落が、あちらこちらに見られ、通路を塞いでいる。
地面が割れ、その奥が見渡せない。
もし、こんなところに落ちたら、どこに行き着くのだろう。
みんなが無事でいてくれることを祈るばかりだ。
私たちは、声をかけながら、慎重に進んでいった。
しばらく進んでいくと、冒険者のパーティーが向こうからやって来た。
「大丈夫ですか?」エライザが声をかけた。
「ああ、大丈夫だ。先ほどレンという冒険者に助けられた。君たちも助けに来てくれたのか?」
「そうよ」
「ありがとう。僕達は大丈夫だ。僕達以外にも迷宮に潜っているパーティーがいる。早く助けにいってやってくれ」
「分かったわ。気をつけて外を目指して」
「ああ」
どうやらレンに助けられ、治療を受け、外を目指しているパーティーのようだ。
このパーティーは、このまま自力で脱出が出来るだろう。
私たちはそのまま先に進んだ。
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