第12話 苦悩
第12話 苦悩
僕とエライザは自分たちの部屋に戻ってきた。
「じゃあ、あっちの分身体と入れ替わるよ。こっちにも分身体を残しておくから、何かあれば戻ってくるよ。入れ替わりの合図は覚えているよね?」
「大丈夫よ、覚えているわ。気をつけて行ってね。会えないのが淋しいわね」
「エライザ…」
「…じゃあ行ってくるよ」
僕は分身体と入れ替わった。
僕は、未踏の森の近くの草原を歩いている。かなりホクト海の近くまで来ていて、エルフの里があるという“帰らずの森”も近い。
この辺りは、丁度あのとき魔族に襲われた近くだ。
…二人程、僕について来ている者がいるな…。
反国王派の差し金か?
少しこのまま様子をみよう。
それよりも、リンのお墓に寄っておこう。
僕は草原に咲く黄色いかわいい花を何輪か手に取り、リンのお墓に向かった。
お墓につくと、花を添えて、リンの冥福を祈った。
リンとのいろいろな思い出が蘇る。
あのとき、確かに魔族を憎んだ。
でも、その憎しみは、ルナ達と出会った事により、薄れている。
魔族も僕達と変わらない。
好んで殺し合ったわけでは無い。
女神様のために戦おうとしていたのだ。
でも、女神様を恨む気持ちにはならない。
気持ちが行き場をなくして、彷徨ってしまいそうだ…。
僕自身も、まだ心の整理が出来ていないんだな…。
メンデス達、特にサーシャやレイリアはどう思うだろう?
無理に説得するべきなんだろうか…。
それとも、彼女たちの思うがままに任せるべきなんだろうか…。
ルナ達に会わせるのも良いのかどうか…。
メンデス達とのパーティーを解散すべきなのか…?
答えは出てこない…。
そんな考えにふけっている時である、背後に気配がした。
僕が振り返ると、二人の男が立っていた。
僕をずっとつけてきた二人だ。
「僕の後を追っているようだけど、何か用かな?」
「へっ、気付いているなら話は早い。俺達について来て貰おう」
「どうして僕がついて行かなければならないんだ?」
「うるさい!嫌なら力尽くでも連れて行くぞ」
「本当にそんな事が出来るとでも?」
僕は、少し機嫌が悪すぎたのかもしれない。
僕は、時空間操作スキルを発動させ、二人の背後にまわり、致命傷にならないように注意しつつ、手刀で攻撃した。
相手にとっては気付かぬうちに、背後より斬られていたのだろう。
背部を斬られた痛みにあえぎながら、膝をついている。
「どうします?まだやりますか?」
「てっ、てめえ、何をしやがった」
「あれ?思ったよりも元気ですね。じゃあ放置しても大丈夫かな?」
「僕の連行を諦めてくれるなら、治してあげますよ?どうします?」
そう話をする間に、相手はポーションを取り出している。
「ポーションを持っているんですね。それなら大丈夫かな。これ以上僕に付き纏わないで。それでは」
僕はその場を後にした。
結局、結論が出ないままになってしまったじゃ無いか…。
僕は走りながらも、途方にくれていた。
でも、しばらく全力で走ってみて、少し頭がすっきりしたようだ。
結局は、ありのままを説明するしか無いよね。
後は、彼女らの判断に任せよう。
僕はそのまま北上を続け、ホクト海までやって来た。
ユリアス大陸の北側の海岸は、崖になっているところが多く、この辺りも高い崖になっている。
海を見ながら、左手に目をやると、ユラグ半島が遠くに見える。
ユラグ半島の付け根の辺りに、目指すべきベックの迷宮があるはずだ。
僕はそちらに向かって歩き出した。
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