第7話 インフォームドコンセント
第7話 インフォームドコンセント
「癌という概念を知っていたから、文明の発展度合いが近いとは思っていたけど、まさか同じ日本から召喚されていたとは…」
「でもそれなら話は早い」
「僕は、前世では外科医をしていた。癌の手術も沢山手がけていたよ」
「でも、ゲイリーは向こう、日本でも助けられない程、進行しているのでしょ?」
「そう。ルナさんがどの程度の医学的知識を有しているか分からないから、どこまで鑑定できたかは不明だけれど、進行癌ということは分かったんだね?」
「それは、分かったわ。所で、話がそれてしまうけど、同じ鑑定スキルでも、鑑定できる内容が変わるの?」
「知識に応じて、鑑定結果の詳しさが変わるようだね。造詣が深ければ深い程、より詳しい結果が分かるみたいだよ」
「そうなの…。それじゃあ、私に分かるように説明してくれない?」
「勿論。インフォームドコンセントは大切だからね。あっインフォームドコンセントというのは、十分に説明して同意を得ることね」
「S状結腸は分かるかな?大腸の一部分で、主にお腹の左下の方に位置する部分だね。ここに癌が出来ている。それもかなり大きくて、通過障害を来す程に…。ほとんど詰まりかけているようだから、食事がとれない、吐き気がする、腹痛がするなんかの症状があったんでは無いかな?癌は時間が経つと転移をおこす性質を持っていて、ゲイリー君の場合は、腹膜播種性転移を起している。この言葉は難しくて分からないかもしれないから説明する。癌は腸管の一番内側に発生するんだ。それで、進行と共に腸の壁深く潜り込んでいく。癌を長期間放っておくと、やがて深く潜り込んで腸管の外側に到達し、露出する。癌細胞同士はくっつく力が弱くてね、腸管の外側に癌細胞が露出している状態が続くと、癌細胞がこぼれ落ちるようにして、お腹のあちこちに転移を起してしまうことがある。ゲイリー君はそういう状況になってしまっているんだ」
「この状態だと、進行度はⅣで、お腹のあちこちに転移を起しているから、手術で取り切れない、つまり根治できない状態だと判断される」
「それで、普通なら、どうにも出来ない状態な訳ね」
「そう。でもね、僕は腹膜播種性転移を起している場所がすべて鑑定で分かる。癌本体を切除した上で、腹膜播種性転移もすべて切除することができる。幸いにして、その他の転移は無いようだから、大きなものはすべて切除可能だよ。後の問題は、お腹の中や血液中にある、目に見えない癌細胞だけとなる。お腹の中の癌細胞は十分に水で洗浄することと、クリーン・アップの呪文で除去できると思う。血液中の癌細胞については、時間を止めた上で、くまなく血管内にクリーン・アップの呪文を唱えることで除去できると思う」
「!!あなたも時間を停止できるの?」
「ああ。ということは君も出来るのか…」
「それなら、治せるかもしれないわね。それなら、何が問題なの?」
「ああ、手術に伴う魔力の消費量が馬鹿にならなくて、魔力が切れてしまうかもしれない…。それに、クリーンアップの呪文で目に見えない癌細胞が除去できるという推測で、確証は無い」
「前代未聞の方法だものね、確証が無くて当たり前だわ…」
「それに、手術に百パーセントは無い…。時間を止められる以上、前世の手術より安全性は高いかもしれないけどね」
「成る程…。治療しなければ予後は不良だもの、賭けてみる価値はあるわね」
「そう思うよ」
「…ちょっと、ルナ。何を言っているのかさっぱり分からないわ」
「それは、仕方が無いでしょうね。説明するのは難しいわ」
「それで、道具とかはどうするの?」
「それは、あるものを使うしか無いよ」
「それで大丈夫なの?」
「まあ、何とかするよ」
「それについては大丈夫だと思うわよ。実は、以前に私もレンに手術して貰ったのよ。今ではすっかり完治している。信用して欲しいわね」
「あなたもレンの手術を受けたの…?分かったわ、あなたを信用して、お願いする」
「分かったよ」
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