第58話 魔王
第58話 魔王
スロー・タイムを発動しても、何も起きなかったように思えた。
それならば、これではどうだ?
今度は、私はストップ・タイムを発動させた。
すると、自分の身体に変化が生じた。
時間停止が上書きされ、動けるようになったのだ。
咄嗟のことで、魔王から放たれた鞭を避けることが出来た。
魔法の詠唱はまだ続いている。
詠唱に時間がかかるのだろうか?
その間にいたぶってやろうと考えたのかもしれない。
何とか鞭の攻撃を避けた私は、ニュークリア・バーストの魔法を発動させた。
魔法の炎に包まれる魔王、しかし、ケイオス・ストームが魔力を増大させると、周囲の空間に暴風雨の領域を形成し、ニュークリア・バーストの炎は消失してしまった。
その間も魔王ケイオス・ストームの詠唱は止まらない。
やはり通常の魔法では効果が期待できないのかもしれない。
そう悟った私に出来ることは、たった一つだけ。
私はスペリオル・グラヴィティを発動した。
強力な重力場が形成され、その影響でケイオス・ストームを取り囲んでいた暴風雨の領域は消失した。
しかし、ケイオス・ストームの詠唱はまだ続いている。
私はもう一度スペリオル・グラヴィティを発動させた。
重力場が更に強力なものとなり、魔王の魔力が大きく削がれたのを感じた。
魔法の詠唱もたどたどしくなっている。
後、もう少しだ…。
私の魔力の残量は、次のスペリオル・グラヴィティを放てば、ほとんど尽きてしまうだろう。
それでも他に方法はない。
意を決して、最後のスペリオル・グラヴィティを発動させた。
ケイオス・ストームを取り囲む重力場は更に強力なものとなり、魔王を捕らえ続けている。
その効力により、魔王の存在が揺らいでいる。
魔王の身体は陽炎のように揺らぎながら、半透明となっていった。
そして、この世界での魔王のコアが目に見えた。
しかし、それでも詠唱は止まらない。
私は魔力切れ寸前となり、頭がクラクラし、吐き気を催してきた。
「くっ!後、もう少し!」
これ以上の魔法攻撃はもう出来ない。
ならば剣を振るうのみ。
私はふらつく身体に鞭を打って、剣を構え、何とか魔王の下までやって来た。
私が魔王の前に立ち、剣を振り上げたその時、魔王の顔が勝ち誇ったようになり、魔法の詠唱を終えた。
それと共に、魔王の手から魔法の圧力が出現し、それが球状に見えるまでに時間はかからなかった。
さらにその球は大きくなり、極限を迎えようとしていた。
もう駄目かもしれない…。
そう思ったときに、奇跡が起こった。
魔王の動きが静止したのである。
ストップ・タイムで時を止めておける時間は、魔王と私でほぼ同じだったようだ。
先に時間を止めた魔王が、先に時間への干渉力をなくしたのだ。
私はふらつきながらも、目の前のコアを思いっきり剣で斬りつけた。
剣で斬りつけられたコアは、破壊され音もなく消失した。
それと共に時間がゆっくりと流れ出した。
ストップ・タイムが終了し、スロー・タイムの影響が出てきたのだ。
魔王の消失を確認した私は、限界を迎え、その場で倒れ込んでしまった。
それと共にスロー・タイムの影響も消失し、時間の流れが正常となった。
「ルナ!」皆の叫ぶ声が遠くに聞こえた気がした。
でも、今は、答える気力もない…。
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