第54話 精霊
第54話 精霊
私たちは祠の所まで歩いてやって来た。
両開きの小さな扉は開いており、その中にクリスタルが安置されていた。
私がクリスタルに触れようとすると、クリスタルが突然輝きだした。
私は、思わずクリスタルに触れるのをやめ、様子をうかがうことにした。
クリスタルの輝きが徐々に増していき、部屋中を光で満たす程に明るくなった。
眩しすぎる!そう思ったとき、唐突に光が消失した。
ようやく目が慣れてくると、そこには、どこか儚げな少女が立っていた。
「誰じゃ?妾の眠りを妨げるのは?」
「私はルナ。女神ベス様のお導きにより、魔王討伐の切り札となる魔法の習得に参った者」
「女神ベス様のお導きじゃと?……成る程、おぬしにはその資格があるようじゃ」
「資格とは?」
「ふん、気にする必要は無い。魔法が欲しければ、その力を示してみよ」
少女は私たちを威嚇するように、全身にオーラを纏った。
いきなり戦闘となってしまった。
突然のことに思考がついて来ていない。
しかし、戸惑っている暇はない。
意を決して、私とゲイリーは剣で斬りかかっていった。
イオタやオリビアは呪文の詠唱を開始した。
しかし、剣で攻撃を加えても、全く手応えがない。
相手がスペリオル・グラヴィティの呪文を唱えた。
その途端に、強力な重力場にとらわれる私たち。
私はその時、時の流れが干渉を受けたときの感覚を覚えた。
本能が警鐘を鳴らしている。
このままでは危ない!
私は直ぐにスロー・タイムを発動させ、間髪入れずにストップ・タイムも発動させた。
それと共に時間の流れが停止する。
止まった時間の中で、相手の少女がこちらに歩いてきた。
私は身構えたが、それを無視するように、少女は私に話しかけてきた。
「強力な重力が発生すると、その中では時の流れが速くなる。それを感じ取って、時間を止めた。試験は合格のようじゃな」
「それはどういう事?」
「今言ったとおりじゃよ。強力な重力は時の流れをねじ曲げる。その中では、知らぬ間にとんでもない時間が流れてしまうんじゃ。それを阻止するためには時間に干渉するしかない。おぬしはその術を持ち、そのことに気づいて対処してみせたのじゃよ。さて、魔法を解くとしよう」
強力な重力が消失した。
私も時間への干渉を止めた。
「さて、資格を有するおぬしには、スペリオル・グラヴィティの魔法を授けよう」
そう言うと、私に手をかざし、呪文を唱えはじめた。
それと同時に、私の意識の中に、魔法が入ってくるのが感じられた。
しばらくじっと待っていると、その感覚は消失し、体内で魔力が高まるのを感じた。
「良いか、スペリオル・グラヴィティは、停止した時間の中でしか使ってはならん。それはさっき言ったことで理解できるじゃろ?それではもう行け。妾は眠りの続きをするとしよう」
「待って。呪文を授けてくれてありがとう。それで、あなたの名は?」
私が問うと、少女は意外そうな表情を浮かべ、こう言った。
「呪文を受け取って、尚、妾に対する興味を失わぬとは…。面白い。よかろう、妾は時の精霊女王エタニスじゃ。魔王討伐とやら頑張るのじゃぞ」
その言葉と共に精霊が消え、テレポーテーションが発動した。
そして私たちは、洞窟の入り口近くに飛ばされた。
*
これは、とある一室での会話。
「その後、どんな感じ?」
「うん、上手くいっているよ」
「そうか…、じゃあ頑張れよ」
「勿論。期待して良いよ」
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