第53話 洞窟
第53話 洞窟
次の日、私たちは竜山街道を北上していた。
金竜山脈からの心地よい風。
日の光が反射し、ダイヤモンドが無数にきらめいているような水面。
湖面に咲く花から漂う甘い香り。
綺麗な景色に囲まれ、私は相変わらず旅行気分となってしまう。
しかし、これから大切な事が控えているのだ。
気を引き締めなくては。
しばらく行ってから、セントレア湖の湖岸近くに移動し、目的の洞窟の入り口を探した。
「あの旅行記の内容からすると、この辺りなんだけどな…」
湖岸近くは、背の高い雑草が生い茂っており、歩くのも一苦労だ。
「旅行記には、洞窟の入り口はかなり狭く、人目につきにくいと記されていたわ。この雑草で余計に見つけるのが困難になっているわね。魔法で焼きはらってしまう?」
「だめよ、オリビア。消火が大変なんだから…」
「消火の問題なのか?自然破壊の…」
「ゲイリー、静かにして。ここを見て、穴があるわ。一人ずつなら這いつくばって中に入れるんじゃないかな?」
「旅行記には、入り口が狭いとあったけど這いつくばって入るとは書いてなかったけど?」
「でも、その旅行記が書かれてからずいぶんと年月が経っているもの、入り口が変化していてもおかしくないわ。とりあえず、中に入って調べてみましょう」
「…じゃあ、まず僕が中に入ってみるよ」
「ゲイリー、いつもありがとうね」
「任せてよ」
ゲイリーは匍匐前進しながら、穴の中に入っていった。
しばらくすると、「みんな聞こえる?狭い部分は1m程で終わっていて、奥に入ると立って移動できるくらいに広いよ。ここが目的の洞窟かもしれない」
「みんなで行く?誰か見張りに残る?」
「中はいろいろな仕掛けがあるみたいよ。みんなで行きましょう」
みんな一人ずつ順番に中に入っていった。
私はライトの魔法を唱えた。
「本当ね。外からは想像できないくらいに広い洞窟だわ」
「さあ、奥に進んでいきましょう」
こういった洞窟には動物や魔物が住み着いていることが多い。
この洞窟に関しては、入り口が狭い上に、雑草で隠されており、足跡や糞なども無かったため、その可能性は低い。
とはいえ、慎重になってなりすぎるということはないのだ。
私たちはゆっくりと奥に進んでいった。
かなり進んでいくと、少し広い空間になって、行き止まりとなっていた。
「この洞窟が目的の洞窟だとして、旅行記によると、この辺りのどこかにテレポーテーションが発動するスイッチがあるはずよ。探してみましょう。怪しいものを発見してもうかつに触っちゃ駄目よ」
「了解」
みんなでしばらく周囲を探していると、地面にある岩の一つが、円形のボタンのような形をしている。
「この岩はスイッチに見えない?」
「確かに怪しいね」
「本当だわ。みんな近くにかたまって。触ってみるわよ」
岩を触ると、それは地面に入り込んだ。
「飛ばされるわよ。注意して!」
私たちは、テレポーテーションが発動したときの浮遊感を感じた。
飛ばされた先は、直径15m程のほぼ円形の部屋だった。
私たちが飛ばされた場所から、円の中心部に向いて丁度対面側に、小さな祠のようなものがある。
「きっと、あれが旅行記にあった魔法のある場所ね」オリビアが呟いた。