第52話 重力魔法
第52話 重力魔法
お茶を飲んで、歓談しながら、久しぶりにゆっくりとした時間を過ごした。
そのまま、夕食を摂り、イオタの別荘で一泊した。
久しぶりのベッドでの就寝である、ぐっすりと眠れた。
やっぱりベッドは良いものだ。
次の日、私とオリビアは、イオタの案内で書庫を探して回ったが、この地方に伝わる強力な魔法の情報は無かった。
「特別な魔法なら、何かしら情報があっても良さそうなのにね…。魔王討伐に有利になる魔法か…。ベス様が誤った情報を与えるはずが無いし、かといって当てもなく探し回るのも願い下げだわ…」
「ルナ、もう少し時間をかけて、書庫を探してみましょう」
「そうするしか無いわね。それにしても、魔王にも効果が期待できる魔法か。ニュークリア・バーストの魔法よりも期待できるのかしら?ベス様が、わざわざ教えてくださったのだから、そうなんでしょうね。でもそれこそ、ニュークリア・バーストの魔法よりも強力な魔法が、この近くのどこかに眠っているなら、情報が無いのはおかし過ぎるわ…。どういう事だろう?ねえ、魔王は、ケイオス・ストームだったわよね?ケイオス・ストームの特徴を教えてくれない?」
「いいわよ。ケイオス・ストームは、混沌から生まれ出る悪魔で、この世界に実体はない、霊的な存在。それ故に物理攻撃はほぼ無効で、魔法により攻撃するしかない。その反面、名は体を表すというけれど、ストームつまり暴風雨の形態を取っているの」
「霊的な存在なのに暴風雨の形態をしているの?それってどういう事なの?」
「私も伝え聞くだけだから、分からないわ。でも、混沌と暴風雨はなんとなく相通じるものがある。混沌がこの悪魔の本質なら、暴風雨の混沌こそが、この世界での悪魔の存在場所なのかな…」
「ねえ、混沌に秩序をもたらす魔法ってある?つまり、暴風雨のエネルギーを収束させるような魔法」
「そんな魔法聞いたことも無いわ…。…待って。あれはどうかしら?昨日見つけた本にあった魔法」
「どんな魔法?」
「重力魔法のスペリオル・グラヴィティよ。たしか、この辺りにあったはず…」
「あった。この本よ」
その本は、この辺りを旅した古の魔法使いが記した旅行記だった。
魔法使いが、セントレア湖畔で偶然見つけた洞窟に、従来の魔法体系にはない魔法があったと記されている。
その魔法は強力な重力を発生させることが出来るが、攻撃魔法としてはダメージ効率が悪く、効果範囲も狭いため、相手を足止めするのに使える程度で、あまり利用価値がないと書かれていた。
「つまり、古の魔法使いは、使えない魔法と判断した訳ね。そのため、人々の興味を引くことも無く、あまり記録に残っていないのかも…」
「でも、強力な重力を暴風雨にかければ、どうなるかしら?暴風に舞う雨粒やいろんな物は地面に押さえ込めるわね。暴風はどうなるかな?暴風は気圧の変化で生じるものだから、重力が気圧にどのような影響を与えるのかを考える必要があるわ。気圧は分子の運動が大本だから、ごく小さな質量の分子にまで影響を与える程の重力場が発生すれば、暴風も止んでしまうかも…。それこそブラックホールまでは行かなくても、強力な重力が発生すれば…、そうすれば、悪魔も存在できなくなる?」
「ルナ!さっきから何を言っているのか分からないわ。それは前世での知識?」
「あっごめん。そうなの、前世での知識よ。スペリオル・グラヴィティがどの程度の重力を発生させるか分からないけど、使いようがあるかもしれないわ。それで、その本には洞窟の場所が書かれているの?」
「おおよその位置は分かるわね」
「それは良かった。じゃあ、明日にでもスペリオル・グラヴィティの魔法を習得に行きましょう」
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