トライアングルレッスンU〜ポリス編〜
「なぁ、ゆいこ〜、お前、本気で俺んちに泊まるの?」
地方に赴任したたくみに会いに来たわたしを駅まで迎えに来てくれたたくみ。
感動的な再会・・・かどうかはわからないが、無事再会を果たし、わたしの荷物を抱えながら、たくみが不満げに言う。
「なんで?泊まるよ?たくみもいいって言ってたじゃん。」
「言ったけど〜・・・やっぱり女の子が一人暮らしの男の家に泊まるってさ〜、その・・・危ない、じゃん?」
「たくみとわたしだよ?大丈夫でしょ?・・・警察官なんだし・・・信頼してるよ?」
「いや、警察だからって信用されても・・・」
「迷惑?でも・・・せっかく会いに来たのに・・・」
「いや、迷惑ってゆーか・・」
敢えて、あざとさすら感じる上目遣いで懇願の顔つきをして見せると、たくみが深くため息をついてうなだれた。
「わーかったよ!わかったからそんな顔すんなっ!」
あ〜とわめきながら先に立って歩き出すたくみについて行きながら、思わずペロッと舌を出した。
ごめん、たくみ。
家にどうしても泊まりたいのには訳があるんだ。
出勤する姿が見たい!
たくみの制服姿が見たいんだよ!
想像していた通り、たくみの警官姿は最高にかっこよかった。
満足げに微笑んでたくみを玄関で見送るわたしに、たくみが怪訝な顔をしていた。
幸せな時間はあっという間に過ぎてしまう。
3日前、幸せな気持ちでたくみと再会したその駅のホームに、わたしは1人立ち尽くす。
田舎町の小さなその駅には、人っ子一人いない。
なんだか薄気味悪くて、小さく身震いした時だった。
「ゆいこ!!」
大好きな声が響いて来て、一人の警官がこちらへ全力疾走してくるのが見える。
「たくみ!」
わたしも思わず大声で彼を呼び、駆け寄った。
「はぁはぁはぁ・・・間に合ってよかった。仕事抜けて来た。」
たくみが膝に手をついて肩で大きく息をする。
と同時に、ホームに電車が滑り込んで来た。
この電車に乗らなければ、明日の朝まで電車はない。
わたしは、まだ荒い息を整えようと俯いているたくみと、ドアを開いて待ち構えている電車を見比べた。
帰りたくない・・・っ
わたしは、思わず少し汗の匂いがするたくみの胸にしがみついた。
「お、おい、ゆいこ!?」
びっくりしたたくみが体をビクッと震わせる。
背後で発車を知らせるベルがジリリリリッと耳を劈くような音を立てていたが、わたしはたくみから離れられずにいた。
「・・・ゆいこ」
たくみの声が耳元で響く。
好き・・・っ
溢れ出しそうな想いを堪えて奥歯を噛み締める。
「・・・ゆいこ」
たくみが優しく微笑んだ。
その目元にはこの2日間、眠れなかったのであろう証が黒々と見て取れた。
「また、来いよ。待ってるから」
たくみらしからぬその優しい言葉に、堪えきれない涙が頬を伝った。