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前回の話の終わりのほうを書き直しました。ストーリーは同じですが、ちょっとだけ内容が変わりました。

お嬢様言葉などリアルで話せばイタい奴と思われそうなものだ。


しかし彼女の気品にマッチしている。


「いくらゴブリンしか出現しない最下級のダンジョンとはいえ、初めての探索がソロというのはいただけませんわ」


高圧的な物言いと違い、その瞳は心配そうだ。


どうやら俺の後ろに並んでいた時、受付での会話が耳に入ったらしい。


「そう……ですよね」


(確かに予想とはだいぶ違う雰囲気だけど、油断は禁物だ)


「じゃあ、お願いできますか?」


「もちろんですわ」


大きな胸を叩いた戦乙女の腰の細剣レイピアが揺れる。


輝いたように見え、太陽光を反射したのかと思った。


(アレ……? あの細剣レイピア、淡い靄のような輝きをまとってないか……?)


目の錯覚かと思い、目元をこするが消えない。


(えっ、マジか……!?)


魔力を帯びた武器。


「――まさかそれってミスリルですか!?」


1000万円はする希少金属でできた武器に、俺は驚きの声を上げる。


「ええ。そうですわ」


あっさりと首肯するお嬢様。


(金ってあるところにはあるもんなんだなぁ……)


俺の工事現場の日給1000日分である。


「わたくしはエリーティア。貴方は?」


「俺は時堂です」


「ジドーですね」


流暢に思えたが、固有名詞の発音はまだ苦手なようだ。


「えっと、エリーティアさんはなぜこのダンジョンに?」


美人すぎる彼女に緊張しながらも尋ねる。


「ダンジョンにはストレス発散に来てるだけですわ。ジムよりもいい汗を流せますもの」


(金に物を言わせて最高の装備を揃え、F級ダンジョンでストレス解消する。そんな金持ちがちらほらいるというのは聞いたことがあったが……)


どうやら彼女もそういうタイプらしい。


(……まさか「どうせ倒すなら人型のモンスターがいい」なんて物騒なことを考えて、ここを選んだんじゃ……)


ちなみに俺は少しでも慣れたモンスターがよくてここを選んだ。


しゃべっているとあっという間に、ダンジョンの入口に着いた。


「ここが……!」


初めて間近で見た。


一見すると、ありふれた洞窟のようだ。


だが出入り口を虹色の膜が覆っているのだ。普通ではない。


その向こうはしゃぼん玉を通して見た風景のように屈折し、よく見通せない。


「このF級ダンジョン【ゴブリン王の根城】は洞窟のようなダンジョンですわ。階層は地下1階のみ。光源はありませんが、なぜかぼんやりと内部は見通せます」


「【ゴブリン王の根城】……そんな名前だったんですね。詳しいんですね」


「冒険者ギルドで購入したマップに書いてありましたわ」


エリーティアは羊皮紙を取り出す。


かすかに淡い輝きを宿している。


この羊皮紙は、魔石や素材のようにダンジョンで取れたものらしい。



――――――――――――――――――――――――――――


名称:【ゴブリン王の根城】

ランク:F

主な出現モンスター:ゴブリン


――――――――――――――――――――――――――――



概要に加え、地図も記載されている。


「やや蛇行してるけどシンプルな一本道なんですね」


「ええ。最奥までたった100メートルですわ。まさに初心者にうってつけですわね」


「あの、これって魔法的に作り出されたアイテムですよね?」


「その通りですわ。冒険者ギルドに所属する魔術師にマッピングの魔法で作ってもらったものです」


「高かったんじゃないですか?」


「いいえ。最下級のダンジョンということで、Fランクの魔術師に頼みましたし、それほどでは。確か羊皮紙などの材料費込みで10万円ほどだったはずです」


(やっぱ凄い値段だな……)


冒険者ギルドからダンジョンに関する情報を購入することはできるが、どれも俺には手が出せない値段だ。


(いや、俺だけじゃないか)


一般的に冒険者になる理由は、お金のためだ。


このF級ダンジョンが「ただのゴブリンの多いダンジョン」という認識なのは、マップを購入するような冒険者が少数派だからだろう。


羊皮紙をしまったエリーティアに俺は質問を投げかける。


「あの……いくつか質問していいですか?」


「いいですわよ。もし質問や不安な点があるなら、入る前に言ってくださいな」


「ありがとうございます。……それで、このダンジョンの名称なんですけど、どうして『ゴブリン王』なんて物騒な名がついてるんです?」


「さあ?」


小首をかしげたエリーティアの長い金髪が揺れる。


「わたくしも疑問に思って、マップを作り出した魔術師に質問しましたの。でも『魔法によって羊皮紙にこのように浮かび上がってきただけで、理由まではわからない』そうですわよ。『高レベルの魔術師に依頼すればわかるかもしれない』とは言われましたけど、そうなると値段の桁が一つ増えるらしいですわ」


「なるほど」


魔法によるマッピングは念写みたいなものなのかもしれない。写すことができても、その意味まではわからないのだろう。


「確かゴブリン王って、ゴブリンの種族の中で唯一、ランクDでしたよね?」


「そうですわね。でも、わたくし、ここをスポーツジム代わりに利用してますけど、普通のゴブリンしか見かけたことありませんわ」


「だったら万が一の時もすぐに引き返せますね」


「ええ。たった100メートルですし、余裕ですわ。ゴブリンの出現頻度もチュートリアルダンジョンより少ないくらいですし」


「そうですか、安心しました」


(俺にとっては油断できるほどではないけど……まあ、レベル2に上がったしな)


「直線100メートルのコースで、挟み撃ちの危険性もなし。行って帰ってくるだけなら簡単ですわ。わたくし一人で何度も繰り返してますし」


エリーティアの話を聞き、『ゴブリン王』という名称を聞いた時の不安感は薄れていく。


しかし胸の奥底にくすぶるような何かは消えない。


(【ゴブリン王の根城】……まさかこんな名前だったなんてな……ちょっと不吉な予感がするんだが……)


病室で半透明に透けている妹、綾芽の姿が蘇る。


(けど迷ってる暇はないな――)


俺が決心を固めた瞬間、背後から声をかけられた。


「お二人さん。なんかずいぶん熱心に話し合ってるみたいだけど、不安なら俺らと一緒にパーティー組まない?」


声のほうを俺とエリーティアは振り向いた。


「俺は軽井沢。こっちは反田。どっちもレベル3だし、ここなら何度も来てるし余裕だよ」


よく似た茶髪の男2人がそれぞれ自己紹介してきた。


どちらもロングソードにブレストアーマーとそれなりに充実した装備をしている。


「俺も反田も彼女の誕生日が近くてさー、そのプレゼント代を稼ぎに来たんだ」


「違うぞ。付き合って5年目の記念日だ」


「そだっけ? まあ、どっちにしろ臨時収入ほしくてダンジョンに来たんだよ」


話はすぐまとまり、彼ら2人もパーティーに加わることとなった。


「わたくしはエリーティア。レベル4ですわ。ジムで汗を流すよりダンジョンでストレス発散も兼ねてエクササイズしておりますの」


「レベル4!?」


エリーティアのレベルに俺は驚いた。


軽井沢と反田も目を丸くしている。


華奢な美女だが、今回のパーティーメンバーの中で最もレベルが高い。


「ではわたくしがパーティーのリーダーですわね」


最も能力が高く、経験が多いのだから、当然の流れだった。


俺はレベル2だ。


何気なく冒険者カードに表示されたステータスを見る。


偶然、それを目にしてしまったらしいエリーティアが声を上げた。


「ひっく!? あまりにも低すぎですわ! 平均より上回ってるのは筋力だけじゃない……!」


妹の入院費などを稼ぐため日雇いの仕事をこなしていた。


そのため一般的な男性に比べれば筋力はやや高いが、エリーティアの言う通り最弱クラスだった。

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