表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/20

3

46匹目のゴブリンを斬り倒した瞬間



――――――――――――――――――――――――――――


[レベルアップしました!]


――――――――――――――――――――――――――――



どこからともなく女の声が聞こえ、ウィンドウが出現した。


(それにしてもレベルアップまで知らせてくれるのか……)


謎の声もウィンドウも思ったより便利だ。


本来レベルアップとはこんな簡単なものではない。


恐怖を乗り越え、プレッシャーに耐えながら戦い続けた先に訪れるものだ。


にもかかわらず――


「まるで作業感覚だな」


過去に倒したゴブリンも含めれば、通算50匹倒したことになる。


自分でも信じられない。


「といっても【オートバトルモード】が倒してくれた、って感じなんだが……」


ちょっとズルした気分にならなくもない。


(けど金持ちもちょっとズルっぽいんだよな……)


親の金でラストダンジョンに挑むかのような装備一式を揃え、チュートリアルに臨む者もいるという話だ。


(普段着で戦わないといけない俺とはえらい違いだな……)


ほとんど怪我することなく何十匹も倒し、レベルアップまでしたので、油断しきっていた。


「キシャァ――ッ!」


生き残りの4匹のうちの1匹が身の毛がよだつような奇声を上げる。


たいていの人間は立ちすくむだろう。


だが――


横合いから迫る体当たりじみた気迫の突きを、俺の身体は自動的に難なく躱し、流れるようにカウンターを決める。


レベルアップによるステータス上昇によって加速した剣閃。


それがゴブリンの喉元を斬り裂く。


不意を突いたはずの仲間があっさり瞬殺され、残りの3匹は見るからにビビっている。


【オートバトルモード】に導かれるまま気楽ともとれる足取りで3匹のもとに歩み寄っていく。


「ギィ?」


不審そうなゴブリンの呻き声。


まるで散歩するかのように歩いてくる人間に戸惑ったらしい。


――シュッ、と。

ほとんど音もなくゴブリンの喉をまたも斬り裂く。


急所攻撃に連続で成功したのは偶然ではない。


動きを阻害する緊張などが抜けたせいだろう。


無駄な力が抜けたため【オートバトルモード】の動きがさらに冴えわたっている。


試してみてわかったが、【オートバトルモード】の最中でも身体の一部を自分の意志で動かすこともできる。


動かしたい部分に意識を集中するだけでいい。


ただ戸惑ったり混乱したりして無意識に身体を動かそうとすると、【オートバトルモード】の動きを邪魔してしまうらしい。


そういう時は動きが鈍るのだ。


10度目のゴブリン5匹組の掃討に成功した。


スマホで時刻を確認する。


(だいたい1時間ってところか)


その間、倒したゴブリンの数は50匹。


チュートリアルを終了したばかりの新米冒険者が倒したとはとても思えない討伐数だ。


「もう1時間も経ったのか」


これに比べたら丸一日の肉体労働のほうがよほど辛い。


「どうやらゴブリンの出現も打ち止めらしいな。これで終わりか」


(妹の見舞いに行く予定もあるし、ちょうど良かったな)


そんなことを考えていると、【オートバトルモード】のアイコンが勝手に灰色に変わる。渦を巻くモーションもゆっくりになる。


(なるほど。周囲に敵がいなくなると自動的に解除されるのか)


「戦闘してて思ったけど、このアイコンやウィンドウって消せないのかな?」


一定時間が経過すると、最初に出現したウィンドウはなくなった。


しかしできればすぐ消せるようになりたい。


改めてじろじろと見てみると、ウィンドウの右上に小さく「-」と「×」というボタンらしきものがある。


たぶん「最小化」と「消す」のボタンだろう。


試しに「-」をタップすると消えた。


正確には最小化されて視界左下に収納されているようだ。


そこをタップするとまた先程のウィンドウが表示された。


「やっぱそうか。じゃあ、これならどうだ?」


今度は心の中で念じてみる。


(消えろ)


すると完全に消すことができた。


「×」をいちいちタップする必要はないらしい。


「戦闘時には大助かりだな。それにしても――」


まじまじとアイコンを見つめる。


「思考でも操作できるのか。ちょっと信じられないほど凄いな……」


もしこんなものが実用化されていれば、スマホも不要になり、世界的な大ニュースになっているだろう。


「それがないってことは、これもダンジョン絡みってことなのかな……?」


科学だけで説明するのは無理っぽい。


むしろ魔法などのあるファンタジーな世界に馴染み深い気がする。


クリアになった視界に、ほっと息を吐く。


これでいつも通りだ。


「念じるだけでたいてい操作できるとか親切設計だな。……誰が親切なのかは知らないけど」


冒険者カードを確認する。



――――――――――――――――――――――――――――


名前:時堂千斗

性別:男

年齢:20歳

ランク:F

職業:無職

レベル:2

HP 10/12

MP 2/2

筋力:8

耐久力:6

知力:5

敏捷性:7

魔力:1

魔法:なし

スキル:なし

称号:なし


――――――――――――――――――――――――――――



謎の女の声が知らせてきたとおり確かにレベルが上がっている。


HPとMP、それに筋力と敏捷性が上昇したようだ。


(HPは2ポイント、他は1ポイントのみの上昇か……)


総じてステータス値が低いが、どうやら剣などで戦うことに適性がありそうだ。


それとも剣でゴブリンを倒し続けた影響だろうか。


(冒険者ギルドで教えてもらえるのは基本中の基本だけ。ネットの情報はガセも多いらしいし、鵜呑みにできない。……やっぱちょっとずつ自分で確かな情報を収集していくしかないか……)


情報は武器だ。


(高額でやり取りされるシークレットなものもあると聞くし)


「それにしても、初日にたった1時間でレベルアップした奴なんていないんじゃないか?」


他人に自慢したくなる。


しかし――


1時間近く戦ったことで気づいたが、どうやら【オートバトルモード】は最適な行動を選択してくれるが、顔は無表情のままらしい。


ある意味、次の行動が読まれにくい、という意味では『最適』なのかもしれないが……


(無表情で淡々とモンスターたちに突っ込んで殺す姿を見られたら……絶対に正気を疑われるな)


『チュートリアルで病院送りになった男』というあだ名をつけられてショックを受けたが、今度は『殺人マシーン』とか呼ばれそうだ。


俺も他人がそんな無表情で殺しまくる姿を見たら、ドン引きすることだろう。


モンスターの死体は爆散するように粉々になり、ダンジョンの壁に吸い込まれていくように消えていった。


あとに残されるのはモンスターの心臓部分に相当するといわれる魔石だ。


魔石は必ず残るわけではない。


それでも10個以上の魔石が床に転がっている。


最下級のF級モンスターから取れた最安値のF級魔石。


F級魔石といえど、これだけの数があれば、俺の工事現場の日当の数倍くらいにはなるだろう。


床に散らばった魔石を拾い集めると、冒険者ギルド地下に作られたチュートリアルダンジョンの出口に向かう。


「とりあえず【オートバトルモード】は内緒にしたほうがいっか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新を楽しみにしてます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ