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王宮。

広間に臨時に作られた合議のための空間。

奥には王族用の席が、その左右には、役人や関係者が座る席が設けられていれてた。

王族の対面には、元老院の席、その後方柵がされており傍聴席となっていた。

傍聴席は王宮に入れる資格のある人間なら参加できるとあって、混み合っていた。

私は父と母、兄と共に広間の席につく。

その正面には法務関係の役人の他に、ランバルト侯爵、その横にガルシア公爵が着席している。

ガルシア公爵は国王の弟だ。

その横にオドオドして挙動不審なのはマデリーンの父、スキッペ男爵か。

スキッペ男爵の隣にマデリーンが不貞腐れたように座っている。

本当は王族の方の席に座れるとでも思っていたのだろう。

彼女がここに入って来た時は、「何で私の席がこんな位置なのよっ!?」と大声で文句を言っていた。

男爵令嬢なのだから末席になるのは当たり前なのだが、ナイヴスの婚約者気取りの彼女には屈辱だろう。

「皆さん、静粛に」

広間全体に声がかかる。

王族が広間に入ってくるのだ。

まずはマリーナ側妃とアルマイト。

その次にナイヴスが入ってくる。

私を見つけたナイヴスが勝ち誇ったような表情を見せた。

王族たる者、表情を読み取られることかあってはならない、なんて常識さえもできてないらしい。

マデリーンがナイヴスに手を振って、それにナイヴスが嬉しそうに頷いた。

ここにはあの王妃の夜会に出席してなかった多くの貴族がいる。

ナイヴスとマデリーンの関係を初めて目にする者も多い。

二人の仲をわざわざ見せつけられ、良識ある貴族達が眉を顰めていた。

そして、国王と王妃が入ってくる。


「それでは、先に公示しました通り、ナイヴス殿下の婚約及び、王太子についての公開合議を致します」

法務大臣が前へと出てくる。

「ナイヴス殿下及びキャサリン・フォードムとの婚約についての議題に参ります」

「私も王妃も、ナイヴスとキャサリン嬢との婚約は継続しても良いものだと考えておる」

国王は終始、私とナイヴスとの婚約破棄に反対だった。

王妃は婚約破棄を推進するのかと思ったけれど、王妃は私というナイヴスを支える人材がいなくなるから手放したくないのだろう。

私に自分の仕事のいくらかを押し付けていた王妃だ。

私がいなくなると困るのは王妃なのだ。

「何故ですか?キャシーは私の婚約者には不適格だと申したはずです!」

ナイヴスが声を上げる。

国王とナイヴスの親子間の意志は統一されてなかったらしい。

不用意な発言をするナイヴスを国王がひと睨みする。

「よろしいですかな」

父が手を挙げる。

「我が娘キャサリンとナイヴス殿下が婚約した時に取り決めた約束には、『どちらかが相手を酷く侮辱するようや行為をした場合婚約を破棄できる』とあります。ナイヴス殿下は先の夜会にて娘を侮辱し、婚約破棄をすると宣言なされました。よって、この取り決めに従い、こちらはナイヴス殿下との婚約を破棄させてもらいます」

「たかが、夜会の戯言ではないか!たったそれだけで大事な王家との婚約など破棄できるはずがなかろう」 

王妃はあの夜会でのナイヴスの婚約破棄宣言に緘口令を敷いていた。

しかし、それを誰も守るものではなく、噂としてもこの場にいる者誰もが知っていることだ。

王妃の言は無茶苦茶だ。

「もちろん夜会でのナイヴス殿下のご発言だけではございません。そこに座るマデリーン・スキッペを始めとするナイヴス殿下のご相手をなさった方数人も調査で判明しております。このように娘には冷たくあしらう一方で、多くの女性と共にしているナイヴス殿下との婚約を、私はキャサリンの父として続けることは承服できません」

役人が国王と王妃に近寄り、書類を手渡す。

それは、ナイヴスが今まで手を出してきた女性のリストだ。


「元老院より報告いたします」

元老院の末席に座っていた人間が立ち上がり、一つの書類を持って皆に見せる。

「元老院の裁決の結果、元老院はナイヴス殿下とキャサリン・フォードムとの婚約の破棄を賛成多数で議決いたしました」

その書類を法務大臣が受け取る。

「ナイヴス殿下が婚約における約束を数項目破ったことが確認されましたので、ナイヴス殿下の瑕疵によりナイヴス殿下とキャサリン・フォードムとの婚約は破棄されます」

法務大臣が婚約破棄の書類にサインするよう、父と国王にそれぞれ持っていく。


「なんでオレの瑕疵なんだよっ!キャシーがオレの婚約者に相応しくないから婚約を破棄するのにっ」

ナイヴスが納得がいかないと叫ぶ。

「キャシー、お前、ハメたな?いつもいつもオレのことをバカにしくさって…」

ついに、衆人環視の前でナイヴスが王子らしからぬ言動をしてしまった。

王妃は慌ててナイヴスを宥めるが、すでに時は遅し。

「何が面白いんだ、キャシー!」

思わず漏らしてしまった笑みをナイヴスに見られてしまったらしい。

今までナイヴスは公式の場では口数が少ない王子として振る舞っていた。

その横で婚約者の私が色んな人々と会話する。

多くの貴族が見てきた王子とその婚約者の姿は、幻影だっだのがバレてしまった。

どんどん墓穴をほっていくナイヴスに、王妃は居た堪れないらしく、握る扇子に力が籠もっている。

ナイヴスがキャンキャンと吠えている間、粛々と婚約破棄の手続きは進んでいた。

「陛下……」

どうしても婚約破棄の書類にサインをしたくない国王のペンが止まっている。

「署名をお早く」

法務大臣に促され、渋々国王がサインする。

それをサッサと法務大臣は回収し、これでようやく私はナイヴスとは正式に婚約破棄できたことになる。

この国の国王の意志だけでは決定一つ覆すことがままならない現実を見たようだった。

誰も国王の意志など尊重しない。

でも、そんな扱いにしたのは国王自身だ。


「それでは、ナイヴス殿下の瑕疵による賠償についての議題に移ります」

粛々と続けられ、国王が顔を引き攣らせる。

「キャサリン嬢には賠償について何か希望がございますか?」

そう問いかけられ、私は席を立ち中央へと進み出る。

「私は王子の婚約者として、妃教育を受けて参りました。その成果なのか、まだ婚約者なのに王族に準じた扱いをしていただき、ナイヴス王子の仕事を手伝ってきました」

ザワリと背後の貴族がざわめく。

まさかナイヴスが王子の仕事を一介の婚約者に押し付けていたなんて、たいていの貴族は知らないだろう。

「時に王妃様の仕事も手伝うこともございました。ですから、これらの苦労が無駄にならぬような賠償を私は望みます」

壇上の国王を見上げる。

たとえ政治の決定権のすべてがなくても、国王はそして王族は自分達に課せられた仕事は全うしなくてはならない。

ただサインして、ニコニコ笑っていればいい存在ではないのだ。

そのサインすらしていなかった王子もいるが。


「そのまま続いて、王太子の選定について発議いたします」

何故そのまま、という疑問符を王妃が浮かべている。

国のこの先を決める大事な王太子選定だ。

このナイヴスに不利な流れで王太子選定の議論が始まり、王妃は不安そうだ。

チラチラと兄であるランバルト侯爵の方を見ているが、ランバルト侯爵は視線を合わせることをしない。


「元老院から、王太子に相応しい人物を推挙いたします」

元老院の議長が立ち上がる。

「キャサリン・フォードムを王太子とする旨を上申いたします。この決定は我々元老院の満場一致の意見であり、五公十侯爵全員が賛成いたしました」

議長が恭しく礼をするが、会場にいる人間は誰一人それを見てはいない。

「キャサリン嬢を王太子にとはどういうことだ?」

衝撃から立ち直った国王が議長に問う。

「そうよ!王子が二人もいるのにたかが公爵令嬢が王太子なんて、おかしいじゃないの!?」

王妃が声を張り上げる。

「お兄様!!」

王妃が兄であり、唯一反対の意を出すだろうランバルト侯爵を見る。

注目を浴びたランバルト侯爵がゆっくりと立ち上がり、傍聴席を見て、王族の席を見た。

「王妃様、先程議長のお言葉を聞いておりませんでしたか?五公十侯爵家の当主が全員、キャサリン・フォードムの王太子への推挙に賛成しております。それは、ランバルト侯爵の当主である私も当然に含まれております」

「そんなこと、許すものかっ!!」

傍聴席の一番前から、老人が叫ぶ。

「お静かに願いますか、前ランバルト侯爵。あなたは引退した人間だ。あなたには何か意見を言う権利などないのだっ!」

ピシャリとランバルト侯爵が父であるその老人に言う。

老人でありランバルト侯爵と王妃の父親は、ワナワナと震えながら、悔しそうに息子を睨む。


「では、ランバルト家から一つ提案がございます」

静かになった前ランバルト侯爵を一瞥する。

「キャサリン嬢が王太子になられますと、王家の血が薄くなってしまいます。その側面を支えるために、キャサリン嬢の婚約者をアルマイト殿下とすることを提案いたします。将来的にお二方に御子がおできになれば、現王の血筋の者が再びその玉座にお座りになられることでしょう」

ランバルト侯爵の提案に、私の父やガルシア公爵、そして元老院の人間達が拍手をして賛成を示す。

その拍手は傍聴席の貴族達へと広がる。

「やめよ、やめよっ!!?」

前ランバルト侯爵が叫ぶが、拍手が止むことはない。


「静まれっ」

国王が一喝し、広間に静けさが戻る。

「元老院の提案は相分かった。しかし、キャサリン嬢の前には王位継承権の高い人間がおる。それを抜かして、王太子などと……」

「王位継承権については、私から説明いたしましょう」

そう言って立ったのはガルシア公爵だ。

「皆さんご存知の通り私は王の弟だ。臣籍降下しガルシア公爵となった折に、私は王位継承権の辞退を申し出ている。王位継承権を有する資格は、国内在住で10歳以上の王族の血を引く伯爵家以上の人間である。現在、私の息子はまだ7歳であるから、継承権は有していない」

ガルシア公爵が法務大臣に書類を渡す。

「だが、7歳であろうとも、物事の通りはわかる。10歳になった暁には書き換えさせるが、吾が息子は王位を望まないと述べている」

ガルシア公爵が渡したのは、自分の息子の王位継承権を辞退する誓約書だった。

「ここに、現在王位継承権第二位のアルマイト殿下、第三位となるギデオン・フォードムの王位継承権の辞退の誓約書がございます。これにより、現在、王位継承権を辞退していない上位の継承権者は、ナイヴス殿下、その次にキャサリン・フォードムなりますことを、確認できました」

法務大臣が皆にわかるように、アルマイトとギデオンの継承権辞退の誓約書を掲げる。

これで、現在王位継承権を持つ上位者は私とナイヴスのみになった。


「恐れながら、陛下に申しあげます」

法務大臣が新たな書類を手に取る。

「王妃様及びナイヴス殿下には、アルマイト殿下暗殺の容疑がかかっております。逮捕状はここに」

「はっ!?俺がアルマイトを殺すわけなかろう!!」

ナイヴスは慌てて弁明するが、法務大臣は首を横に振る。

「先日捕まえた賊より、ナイヴス殿下がただ一人の王子となるためにアルマイト殿下が目障りになったという証言を得ております。また、彼らを直接雇ったのは王妃様であるという証拠も得ております」

「なっ!そんなことは私は聞いておらぬ!!何故そのように重大なことを私に知らせておらぬのだ!」

国王は自分の妻と息子が暗殺に関わったなどと言われて激昂してしまったようだ。

「……それはあなたが仕事をしていないからだ」

ランバルト侯爵が冷徹な声で指摘する。

「あなたは実務などなさってらっしゃらない。だから、あなたのもとに情報が来ることはないのです」

「謀ったのか、ランバルト!」

「いいえ、陛下。あなたが常日頃から、きちんと責務を果たしていたらこのようなことにはならなかったのです」

ランバルト侯爵が私を見る。

「仕事をしない王族などいらないのですよ、陛下。それならば、王族の代わりに仕事をなさっていたキャサリン嬢が王となるのが道理というものでしょう」

私がナイヴスや王妃に仕事を押し付けられていたように、ランバルト侯爵も国王の仕事を肩代わりしてきた。

それが彼の仕事といえばそうなのだけれども、ランバルト侯爵は頼りにならない国王を支えたくはないのだと、そう私に耳打ちしたことがあった。


「その地位に固執している王妃と、何もわからず快楽に生きる王子。そして、嫌なことからは逃げる王など、この国には不要ではないのかと私は思うのです」

それは、ランバルト侯爵の叛意とも取れる言葉だった。

「残念ですわ、陛下。我々臣下はあなた方王族を支えることに疲れてしまいました。そうですわね……私への慰謝料はナイヴス殿下が王子から退くことといたしましょう」

この場に力のある人間は王族ではない。

「慰謝料の約束、お守りいただけますわよね?」

私は慰謝料に関することを書いた書類を手に取る。

そして、国王の前にその書類を置いた。

「陛下は私にナイヴス殿下の代わりに公務を頼むとおっしゃいました。これからも私はその約束をお守りしますわ」

私はちゃんと約束を守りますもの。

「では王妃様、ナイヴス殿下、お話をお聞かせ下さい」

法務大臣が合図をすると、広間に騎士がやってきて、王妃とナイヴスを連行していく。

「無礼だぞ、私はこの国の王子だぞ!!触るなっ」

ナイヴスと王妃が騎士に捕らえられる。

それをアルマイトとマリーナ妃は哀しそうに見つめている。


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