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来るはずも無い春

作者: 州遙

俺の名前は淡川萩也(あいかわしゅうや)。ごく一般の会社勤めをする二十三歳だ。これは俺が残した日記の切れ端。こんな黒歴史、誰かに見られることになるなんて思ってもみなかった。さて少々恥ずかしいが今から俺の話をしよう。



  第一章 好き嫌い


 四月 日常


 大学卒業してもう一年、あっという間だと感じながら満員電車に乗り込んだ。

 会社に着くと、今日も上司の前倉さん(まえくら)のいびりを聞き続けている。前倉さんを毛嫌いしている人は多いみたいだ。なんでも、自分がやりたくない仕事は人に押し付けて楽をするし、自分に理があるのは人の仕事でも奪って手柄にする。また、常に理不尽にキレてくる。特に、俺がこの会社に入社してから俺ばかりキレてくる。正直、俺も前倉さんは苦手だ、前倉さんがキレる度、右から左に聞き流す様にしている。そして今日も、無理難題を押し付けられ、夜中まで残業をする。帰っても数時間後には出勤するなんて俺にとっては普通だった…


 五月 仲間


 ゴールデンウィークが明け、またいつも通りの日常に戻った。

 会社内はゴールデンウィークの話で持ち切りだった。俺は前倉さんの仕事を家で持ち帰ってやる始末、休みなんてなかったのも同然だった。

 ある日の昼間、同僚の(さとる)が俺の所へ来た。理は、この会社に入社して研修期間中初めて気が合った奴だ。理は研修後、違う部署になってから会う機会があまりなかった。互いに忙しいと理解していたからか会いに行かなかったし会いにも来なかった。その理が珍しく来た。大体理が来る時は、どこの部署も暇だと認知していたが、今年は前倉さんの仕事量が昨年よりも増えたらしく、そのため俺の仕事量は必然的に増えた。だからそんな事さえも気付きもしなかった。本当は休憩なしで前倉さんの仕事を片付ける様に指示されていたが、前倉さんに無理を言って五分だけ休憩を貰い理と話をした。


 六月 出会い


 ある日、珍しく前倉さんから押し付けられた仕事が少なく、残業を片付けてすぐ退勤できた。そういえば前に理に食事に誘われたが俺の仕事が落ち着くまで保留になっていた事を思い出し理に電話を掛けた。近くの広場で合流した俺達は理おすすめの居酒屋へ向かった。

 居酒屋に着くととある席に理が案内される。そこには二人の女性が座っていた。後から理に話を聞いた所、二人の内の一人は女友達だそうで、もう一人の女性は女友達の友達だそう、その子は伊織ちゃん(いおり)と言う名前らしい。伊織ちゃんは物静かだがとても優しい子で、俺は人生で初めて一目惚れをしてしまった。そして、何度か食事に誘ったりもして俺は伊織ちゃんと付き合うことが出来た。


  第二章 後悔


 七月 温もり


 相変わらず社内では忙しい日々を送っている。そんな毎日だが、唯一、伊織と出掛ける休日が毎週の楽しみだ。伊織には、俺の仕事の関係で色々な場所に連れて行けないのが少しばかり歯痒い。それでも伊織は喜んでくれた。

 ある休日、伊織がやけにそわそわしていた。何故かというと今日は俺の誕生日だからだと思う。思うと社会人になってからまともに祝っていなかったと感じた。昔は家族や友達に祝ってもらっていたが、社会人になってからは無縁だった。

 伊織と過ごす内に、人の心はこんなにも暖かいものなんだと知った。子供なら親から愛情を沢山貰うけど、社会人になってからというもの愛情の欠片も無かった。俺は、伊織の様に誰かの為に喜び、泣ける、そんな優しい人間ではなかった。だから伊織の事は本当に尊敬していた。

 だが、その時はこんなことになるとは想像もしていなかった。


 八月 再会


 世の中は今夏休みだろう。昨年のこの時期は家でゆっくりしているはずだったんだが、何故俺はここ連日会社のデスクの前なんだ…。

 あれから突然前倉さんから連絡があって、また仕事を押し付けられてしまったのだ。今回のは骨が折れそうなぐらいの書類量で、お陰でここ連日家に帰れていないし、唯一の楽しみ、伊織と出掛けることも俺が仕事だから行けていない。伊織に会う為頑張って書類を片付けるがその度に前倉さんは、追加の書類を持ってくる。正直苛立ちを我慢することができなくなってきた。だが、直属の上司には向かったところで後々何をされるか分からん。伊織には申し訳ないと思う日々。

 ある盆の日ファミレスにて、俺が着いた時には二人は既に席に着いていた。互いに挨拶を交わし俺も席に着いた。二人は高校時代からの付き合いで男の方は利匡(としまさ)、女の方は月麦(つぐぎ)。利匡はガラの悪いただのクラスメイトだったが、ある冬にたまたま同じ電車に乗っていたところ、そこで痴漢を目撃してしまった。俺は体が勝手に動いた。だが俺以外にも痴漢を止めた奴がいた、それが利匡だった。そして助けた女の子が月麦だった。俺達はそれ以来登下校も一緒にする程、仲良くなった。俺にとっては高校で出来た初めての友達。そんな二人とは高校卒業以来初めて会った。昔の話や仕事の話をし、互いに大人びたと感じた。そして二人に伊織についても相談した。その結果伊織と別れる事になった。伊織は泣いていたが俺には謝ることしか出来なかった。悲しみに暮れる矢先、電話が掛かってきた。


  第三章 前触れ


 九月 運命


 電話の相手は父だった。一週間前に母が倒れ今も入院しているらしい。母は昔から風邪を引くと一週間寝込む程体が弱かった。だから俺は母のことだから風邪を拗らせたんだろうと想像して空返事をした。後日病院に様子を見に行った。そこに居た母は沢山の医療機器がある病室のベッドで眠っていた。父に母の事を尋ねると、先生からはガンだと診断されていてその治療費、入院費含め数百万掛かったが、父は今年定年したばかりで、退職金は多少あるだろうが、自分の生活費もある。流石に無理がある。父に母を任せて、俺は日中の仕事に加えアルバイトアルバイトをする様になった。アルバイト先では別れたはずの伊織の姿もあった。話を聞くと伊織には姉弟がいるらしく両親も頑張っているみたいだが、間に合っていない状況らしい。なんせ四人も妹に弟がいる上で伊織は長女だから無理もない。だが何故、同じバイト先なんだ。つくづくついていない。


 十月 少年


 最近、前倉さんのいびりと押し付けが日に日にひどくなってる。それに加えてアルバイトし毎日が忙しい。

 ある日、バイト先に新人が入って来た。名前は創くん(はじめ)。来年大学に入学するらしく、先月大学に合格したからその大学に行く為の資金を貯めているみたいだ。なんせ俺を一番に慕ってくれている様で嬉しい限りだ。創くんはバイト以外でも俺の大学時代や仕事の話を嫌な顔をせず、真剣に聞いてくれる。なんて良い子なんだ。俺はその頃自分でなんとかしようなんて考えもしなかったから我ながら年下に深く感服した。だが最近、体が重たい気がする。


  第四章 別れ


 十一月 繋がり


 ある日、会社で俺のデスクの上に付箋が貼ってあった。大抵は連絡とかだが、そこには社長室まで来る様に長尾(ながお)と書かれていた。長尾さんはこの会社の社長だ。長尾社長は社員達からはものすごく人気である。見た目は怖いが中身はとても面倒見が良く、上に立つ人間を生き写した様な人だから、社長に憧れて入社した人は多いそうだ。俺はその付箋を見て頭の中が真っ白になった。社長とは入社式以来会っていないから何かミスをしているなら先に前倉さんにめちゃくちゃ怒られるが、前倉さんはいつも通り他の社員に絡んでいた。俺は急いで社長室に向かい、恐る恐る長尾社長と話をすると、俺の体調の話だった。確かに周りに痩せてきている、ガリガリだと心配されることが明らかに増えた。最近まともに食事を摂っているかも分からないくらい忙しいから、自分が、ガリガリになっていることさえも気付きもしなかった。社長はそのことを気に掛けてくれていたみたいで食事に誘われた。だがその日もバイトが入っていたので、長尾社長は俺のバイトが終わるまで待っていてくれた。そして帰りにラーメンを食べに行った。初めは緊張していたが世間話をするぐらい打ち解けられた。俺にとっては少しばかりの息抜きになった。


 十二月 思い


 会社では、前倉さんのいびりや押し付けも酷いが、もう苛立ちも感じなくなった。理もあれから何度か食事に誘ってくれたが、忙しくて全く行けていない。今度はちゃんと行こう。社長も良くしてくれているが話が頭に入ってこない。利匡達にも会っていないな。今度はいつ会えるのだろう。バイト先ではミスも増え創くんにフォローされる日々が続いていた。家に帰るとゴミの山と洗い物の山が待っていた。前までは伊織がやっていれていたのにな…。母さんの治療費も、もうすぐ貯まる…これで父さんも安心だろう…母さんの見舞いも行けていないな…来週に行くか…だが少し疲れた、寝るか…明日も仕事だからな……

 

 誰か俺を呼んでいるのか。五月蝿い、疲れているし身体も重たいんだから寝させてくれ……

……十二月〇〇日〇〇県〇〇市内で二十代の男性の遺体が発見されました。〇〇警察は、死因は過労死と見て調査を進めている様です。また第一発見者は死亡した男性が働いていたバイト先の方だったそうです。

 そのニュースが流れた時、彼ら皆、その場に立ち竦んだ。

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― 新着の感想 ―
グラから教えてもらって拝読させて頂きました。 文章の書き方のルールがあります。例えば、…は……と二マス使います。あと読点の位置も少し手を加えれば、さらに読みやすい文章になります。 人のグリンブスを書く…
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