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幼女神

 天思兼命様は一方的に命令を下し、消えてしまいました。


 残された小さな女の子。幼稚園児くらいに見える。

赤い短め和服姿で、おかっぱ。無表情。

 この子も神様らしい。

それも、スサノオ様の隠し子……。


「え~と、なんだかよく分かんないことになっちゃいましたが、多喜ハルカと申します。こ、これから、よろしくお願いします」


 私は取り敢えず布団から出て、床に正座し、幼女に頭を下げました。

 だって、この子は、あの乱暴な神として知られるスサノオ様の子なんだってことですから…。


「ふんっ! 何で私がお前のような小娘ごときに取り憑かなければならないのだ。頭にくる。

しかし、ジジイの命令に従う誓約をさせられてしまっておる。ジジイからは、お前に憑くように命じられた。仕方がないから取り憑いてやる」


 ジジイって、思兼様の事よね。口悪い子だなあ。

 それにしても、「取り憑く」「取り憑く」って、そんな、悪霊じゃあるまいし。

一応、神様でしょ? 何の神様か知らないけど……。

 そうだ、スサノオ様の隠し子だってことだけで、何の神様なのか、どんな名前なのかも聞いていない。


「私は神様のことを、どう呼んだらよろしいでしょうか?」


 恐る恐る訊ねます。

「神様」と呼べばよいのかもしれませんが、神様はたくさんいらっしゃる。

他の神様の前だと、ややこしいことになってしまいます。

お名前くらいは伺わないと……。


「呼び方か? 好きにしろ……っと言っても困るか。

そうだな。最近は、貧乏神と呼ばれて居るが……」


 は?!


 ・・・い、今、何て、言った??


 び、び、び、び、び、貧乏神!?


 ・・・・・。


 絶句してしまう私に、その幼女は続けます。


「力が制御出来なくなってきてしまってな。少し前に〇×電機を潰してしまった。その後に△□航空、それから凸凹証券。小さい所も入れると、いくつ叩き潰したかな…。自分でも、少々派手にやらかし過ぎたと思って居る。

まあ、そんなで神々に捕らえられて叱られ、枷を付けられて、あのジジイのところに閉じ込められておったのだ」


 〇×電機、△□航空、凸凹証券、どれも、超一流の企業だった。

それらが次々倒産して、大ニュースになったことは、社会情勢に疎い私でも知っています。

いや、知らない方がオカシイような、大混乱になっていました。

 それを引き起こしたのが、この、目の前の幼女……。


「終いには、貧乏神のエースと呼ばれたが、どうもこの呼び名は、ダサくて好かん。良い呼び名は無いかな…」


 び、貧乏神…。

いや、「貧乏神のエース」……。


 幼女は自分の呼び名について考え込みだしますが、私はそれどころでありません。

これは、もう、お先真っ暗……。

 仕事を失った上に、貧乏神に取り憑かれてしまった。

それも、単なる貧乏神では無いのです。

「貧乏神のエース」!!


 スサノオ様の子だからってことで簡単に処罰することも出来ず、閉じ込められていたんでしょう。

 そんなトンデモナイ神様が、私に押し付けられた。


 取り憑かれた……。


「おい! 何をボーっとして居る。お前も私の良い呼び名を考えろ!」


 そ、そんな、無茶ぶりされましても!

それに、私は、それどころじゃありませんよ!


 ……とは言え、神の命です。


 呼び名…。

見た目は可愛らしいのにな…。

超強力な貧乏神なんだ…。


 もう、訳が分からなくなった私の口からポロッと、思わず出てしまったのが…。


「ビンちゃん…」


 あ、しまった、神様に対して、慣れ慣れしすぎる…。怒られる!


「うん? ビンちゃん…。ビンちゃんか……。悪くない!」


「へ??」


 おっとどっこい、でござります。

神様の、なんか変な琴線に触れてしまったようですよ。


「うん良い!神と呼ばれるのがどうにも性に合わない。可愛らしくて良い。

決めた。ビンちゃんだ。以後、私の事はビンちゃんと呼べ」


 そんなこと言われましても、スサノオ様のお子様をちゃん呼びなんて…。私が口にしてしまった呼び名とはいえ、これは余りに失礼が過ぎます。


「え~と、じゃあ、ビンちゃん様……」


「違う! 様は要らぬ!ビンちゃんだ」


「び、ビンちゃん……」


「そう、それでよい」


「あ、あの~」


「なんじゃ?」


「あ、い、いえ…。神様のお世話って、どうすればよいのかな~って思いまして……」


 思兼命様からは世話をせよと言われましたが、具体的にどういう風にすればよいのか、教えてもらえませんでした。

 これでは、何をしたらよいのか、分かりません。


「別に、何も要らん」


「い、いえ、で、でも……」


「ウルサイ! どうせ、お前なんかに何も出来ないから、放っておけばよい。

あのジジイがお前に取り憑けと言うから憑いただけだ。お前が生きている内は、取り憑いて居ってやる。安心しろ」


「え~! 私、一生、貧乏神に取り憑かれたまま……」


 女の子はジロッと睨みます。


「ひー!ご、ごめんなさい!」



 こ、これは、ホントに、ホントに、大変なことになりました。

私は貧乏神、それも、そのエースに取り憑かれてしまったのです。

 機嫌を損ねようものなら、あっと言う間に全ての財産を吸い取られ、どん底生活一直線!


 あ、否待て、力の制御が出来ないって……。

じゃあ、機嫌損ねなくても、貧乏一直線?


 ううう~!!ひ、酷過ぎる~!!

私が何をしたって言うのよ~、あの思兼のジジイ!


 千円返せ~!!


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