火事
何台も来ている消防車。通行止めで、これ以上車では行けません。
車を降りて、大声で叫びながら走ります。
「咲夜ちゃん! 咲夜ちゃん!」
「ハルカちゃん!」
あ、居た! 咲夜ちゃんが居たよ。
よかった無事だったのね。
「お父さんが! お父さんが!」
え!! 小父さん、火の中にいるの?!
結局、咲夜ちゃんの家とお店は全焼。
そして、中から一人の遺体が見つかりました。
彼女のお父さんです。
泣きじゃくる彼女をどう慰めたらよいか、私には分かりませんでした。
狐神さんも、ションボリです。
警察の事情聴取やら、小父さんの遺体の運ばれた病院の方の手続き。そして、その後の葬儀のこと…。
父親を亡くしてヒトリボッチになってしまった彼女には過酷な事。私たちも付き添います。
近くに血縁の濃い親戚でもあれば、助けてもらえるかもしれません。しかし、彼女も私と同じで、そんな人もない。
唯一の親戚は母方の叔母さんだけれども、福井でお店をしていて、すぐには来られないということ。
自宅を無くし、今晩寝る場所もない彼女。
でも、大丈夫よ。私のところに来て!
部屋はあるし、一人暮らしだから、気兼ねもいらない!
ということで、半分強制的に彼女を私んちに連れ帰ることにしました。
その前にと、病院の方から戻ってきて再度立寄った彼女の自宅跡。
崩れ落ちて無残な状態になった黒く焼けた建物。まだ焦げ臭い臭いが漂っている…。
あれ? 焼け跡に、誰かいる。
黒っぽい奇妙な着物姿。こっちを見て、ニヤッと笑った。
う、これ、人じゃない…。霊体だ!
気付いて、素早く駆け出したのは狐神。
猛烈な勢いで駆け寄って、不審な霊の喉元に、一気に喰らい付いた!
「ぐぎゃ~!! お、おのれ~!
まだまだアノ娘をいたぶり楽しもうと思っていたのに。しくじった!」
それだけ言い残すと、黒い霧のような状態へと昇華してゆき、消えてしまいました。
「あれは、災厄神だな。この娘、取り憑かれておったようだ」
とはビンちゃん。
咲夜ちゃんが災厄神に取り憑かれ、それで火事になって小父さんも死んでしまっただなんて…。酷い。悲し過ぎる。
そんな咲夜ちゃんには、今の様子は見えていなかったはず…。
へ? あ、あれ? 咲夜ちゃん、どうしたの?
「ハ、ハルカちゃん。今の何? 狐が人に嚙みついて、その人、消えちゃったよ?」
「え!! 咲夜ちゃん、今の見えたの?!」
「は?何ですか、師匠」
「なにか、あったんですか?」
話に入って来る弟子たち。彼女らには見えていない。でも、咲夜ちゃんには見えた…。
あ、いや、でも、災厄神やビンちゃんの声の方は聞こえていない?
「咲夜ちゃん。今の、見えたのよね。前から、あんなの見えたの?」
「へ? あんなのって、何?」
「いや、咲夜は私を見えていなかったはずだ」
とは、災厄神を退治してゆっくりとこちらに戻って来る狐神様。
「ということは、能力が顕現したのは今しがたか。父親が亡くなったショックが原因だな」
と、ビンちゃん。
ショック…。
なるほど、私の時は、落下した枝が頭に激突したショックでしたね……。
「咲夜ちゃん。今、この狐さん、見えてるよね」
私は、隣に来た狐神さんを指差します。
「見えてるよ。よく懐いた狐さんね。
でも、さっき、人に噛みついた…。大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。それより、左目を閉じて見てみて!」
咲夜ちゃんは怪訝な顔をしながらも、私の言う通り左目を閉じた…。
「あ! 狐さんが消えた! あ、あれ? 左目を開けると見える……」
やっぱりそうだ。彼女の赤紫色の目の方でのみ見える。
色素異常の者が持つ、特殊な力ってとこね。
「咲夜ちゃん。この狐さんは、咲夜ちゃんの家の守り神様よ」
「えっ!?」
私は、自分の能力のこと、彼女が見えるようになったのも、それと同じ能力だということ、そして狐神さんとの出会いと、私がここへ来た理由を話しました。
あの消えてしまった人は災厄神だってことも話しましたよ。それを、守り神様が退治したんだって。
ただ、アレが咲夜ちゃんに憑いていたという事は言いませんでした。
そんな事を言えば、彼女は自分を責めてしまう。お父さんを死なせたのは自分の所為だと…。
いつまでも立ち話をしていると遅くなってしまうので車に乗り込み、車中で私の家に向かう間に、咲夜ちゃんから聞いた話。
守り神様の祠が暴風雨で流されてしまったのは、咲夜ちゃんが泊まり込みの実習で居ない間のことだったそうです。お店や住居もかなり被害を受けて、将来は咲夜ちゃんが継ぐと言ってたから、小父さんは大きな借金してキッチリ大改装したそうです。
で、四月から新装オープンのはずだったのですが、小父さんが事故に遭って延期。
その後もトラブル続きで、結局オープンは六月にずれ込み。
オープンしても思うようにお客が入らず、更に火事で全焼という悲惨なことに…。
これって、全て災厄神のせいよね。
でも、もう大丈夫よ。守り神様が戻って、災厄神は消滅したからね。
ちなみに、守り神様の正体も教えてあげましたよ。咲夜ちゃんから「これからもよろしくお願いします」と頭を下げられ。後部座席中央、私と咲夜ちゃんの間にビンちゃんと並んで座っている狐神様、照れたようにお辞儀を返していました。
そんな話をしていると、運転中の祐奈がまた話に割り込んできます。
「いや~、しかし、師匠の親友さんというだけあって、やっぱ、すごいっすね~。神様が見えちゃうんですからね~。
以後、ぜひ、姐さんと呼ばせて頂きたいです」
「へえ? あ、姐さんって、そんな……。
そういえば、師匠って、ハルカちゃんは何の師匠なの?」
うん? そうですよね。私って、なんの師匠なんでしょうか? 私も訊きたいわ…。
「いや~、師匠は師匠っすよ。特に何かの師匠というのでなくて、尊称です。
姐さんというのも同じですよ~。ですので、それほどお気になさらないでくださ~い」
はあ、そういう事ですか…。
が、咲夜ちゃんも微妙な顔です。
まあ、そうでしょうよ。
姐さんだなんて、任侠の世界じゃないんですからね。
あ、そういえば、咲夜ちゃんに弟子二人の紹介をしていませんでした。
運転しているのは松池祐奈。助手席が北山レイラ。どっちも現役女子大生ですよ~。
で、狐神様の隣が、私の守り神様で貧乏神もとい座敷童のビンちゃんです。
あと、家には送り犬のソウとトクが居ます。
みんなまとめて、以後、よろしく~!
家に着くと、もう夕方。祐奈とレイラは帰宅します。今日は有難うね。祐奈は運転、レイラは色んな手続きのこととかで助かりました。ホントに頼りになる弟子です。
で、咲夜ちゃんと二人。久しぶりの再会ではありますが、彼女はお父さんを亡くしたばかり。疲れているだろうし、夕食とお風呂の後は、西離れでゆっくり休んでもらいました。
……悲しくて、寝られなかったかもしれませんけどね。
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