父の思い
さてさて、翌日。
タカイの小父さんも、梅干しの味は絶賛!
梅干し代金として、一樽あたり3万円で、九樽分27万円も貰ってしまいました。
貰い過ぎだと言ったら、
「トンデモナイ。これでも安すぎるくらいだよ」だなんて…。
良い出来で高く売れるし、梅酢もシソも売れて全く無駄がないんですって。
大儲けでホクホクだって、それホントですか?
いや、小父さんとこに損が無ければ、別に良いですけどね。
漬けるのは結構大変だったと言えば、そうなんですけど、私だけの力ではありません。
小父さんはじめ、祐奈とレイラが居なければ、絶対成し遂げられなかったこと。
なのに、私がこんなに貰ってしまって申し訳ない気持ちです。
…が、只今私は、絶賛無職。
他に収入の無い己の立場をわきまえて、有難く頂戴しておきます!
月曜日の夜は、ナギさんがやってきますよ。
臨時収入がありましたからね。豪勢に、鯛の塩焼きをご用意しました。
それから、スーパータカイお勧めの刺身の盛り合わせも。
そして、最後の締めに、出来立て梅干しをお出ししました!
「へ~。これが慎吾秘伝の梅干しね」
ナギさん、パクッ!
「う~ん、酸っぱい! でも味が濃厚ね。美味しいわ。
で、どうだった? 梅干し作りは大変だった?」
「ええ。大変は大変でしたよ。でも、楽しかったです。
それに、タカイの小父さんや祐奈やレイラに助けられて、何とかなりました。
ナギさんにも、お世話になりました」
「私は何にもしていませんよ」
ナギさん、そんな風に言いますが、ナギさんからの情報が無ければ、私はこんなに一生懸命になれませんでしたよ。
いつも一人ボッチの私が、こんなにもみんなに助けてもらって、みんなと一緒に頑張って、父さんの梅干し再現という大きなことを成し遂げられた!
ホントに楽しかったし、来年も、その次も、ずっとやってゆきたい!
「フフッ。ハルカ、良い顔してるよ。良かったわ。
でも、慎吾も慎吾ね。こんな素晴らしい梅干しの製法、是非ともハルカに、自分手ずから教えてあげるべきだったのよ。
苦労の方の事ばっかり考えて躊躇してしまって…」
ナギさんは遠くを見るような表情をして、話を続けます。
「癌でもう治らないと分かってからね。慎吾が覚書を書いていたのは。
でも、それをあなたに渡せば、あなたは毎年梅干しを漬けなければならなくなる。
この家にあなたを縛り付けることになる。
伝えたいけれど、あなたの負担にはしたく無い。
それで、慎吾は自分の部屋の漬物の本にはさんでおいたのよ。もしも、あなたが漬物に興味を持って本を開いた時に見られるようにってね…。
確かに重労働で、大変かもしれないわよ。でも、自分だって毎年楽しんで漬けていたくせに。受け継いだことが嫌だったわけでは無いでしょうにね。
何でハルカにとっては負担だなんて考えちゃうんでしょうね」
「そ、そうだったんだ…。父さんらしいかも……」
父の優しい笑顔が浮かび、ジンワリ涙が滲んできてしまいます。
そういえば、多喜家は庄屋の家柄。農地もたくさんあります。父はそれを自分で耕作し、その為の農業機械も保有していました。
でも、そんなモノ残されても、私には管理できません。
だから父は死ぬ前に機械を売却し、多喜家所有の農地は営農組合に委託する手続きをし、必要経費と委託料を差し引いた収益金が私名義の口座に振り込まれるようにしておいてくれました。
この家の水道代や電気代に固定資産税なんかも、その口座から自動的に引き落とされるようになっています。
結果、ほぼ収支相殺で口座には微々たる額しか残りませんが、本来私が負担しなければならないはずの経費を払わずに済んでいる…。
ホントに、何から何まで用意周到で気遣いの人。それが父です。
そんな父が、農地として唯一私の手元に残したのが、あの畑と梅林。
一緒に委託してしまっても良かったのに、それをしなかったのは…。
梅林の梅と、畑で育てたシソで、私に梅干し作りを継いで欲しかった……。
多分、それが父の…、父さんの望み…。
「伝えておいてあげなきゃ、どうしようも無いでしょうに。
その後にどうするかは、ハルカの問題よ。
でも、繋げておいてあげなきゃ。それで終わりじゃない」
ナギさんも、なんだか熱くなってます。
そうよ、父さん。みんなで謎解きみたいに挑戦ってのも、楽しかったけどさ。
でも私、やっぱり父さんから直接教わりたかったよ!
なんで、覚書だけなのよ!酷いよ!
継いで欲しいって、面と向かって言って欲しかったよ。教えて欲しかったよ!
「ハルカ。あなたも一緒よ」
え? わ、私も一緒??
「前に言ったでしょ。慎吾と同じ考え方するって。
あなたが子供を産んだらその子が可哀想だって、あなたが言った時のことよ。
確かに、あなたは苦労してきてる。でも、それだけでは無いでしょ?
他の人はできないステキな経験を積み、十分に楽しんでると思うけどね。
なんで、そっちの方を考えずに、苦労の方だけ考えるのかな…。
あなたから生まれる子が可哀想なんて、そんなことは絶対無い。あなたの子供の可能性をあなたが否定しちゃダメよ。
それに、あなたは可哀想な子なんかじゃない。ラッキーガールなのよ。
ラッキーガールの子も、また、ラッキーガールだと思いますけどね。違う?」
いや、違わない。その通りです。
以前の私は、心のどこかで自分の事を「可哀想な存在だ」って思っていた。
でも、今は違う。本当にラッキーガールだって、心の底から思っています!
ラッキーガールの子も、ラッキーガールか…。
うん? あ、あれ?
ガールって、何で女の子限定? ……ま、まあ、いいや。
とにかく、私も子供を持っても良い…。その資格あるんだ!
私から産まれる子の可能性を、私が否定しちゃいけないんだ。
「そもそもさ、慎吾から受け付いたこの梅干しの製法。この後どうするのよ。
あなたは良いわよ。
でも、あなたに子がなければ、それで、途絶えちゃうじゃない!」
あ、そ、そうか…。そうよね。
子供を持っても良いじゃなくて、子供を持って多喜家の梅干しを伝えなきゃいけないんだ……。
まあ、私の子じゃなくても伝えることは出来るけど、一応、多喜家代々が改良して伝えてきた家伝。多喜家で継ぐのが正統よね。
「だから、ハルカ。早く男作って、しっかりたっぷりマグワイなさい!
即、子供産みなさい!」
へえええっ!!
い、いやいやいや、だからですね。どうして、そこまでブッ飛ばすんですか。
理解はしましたけど、私だって、その前の甘~い恋愛というヤツを楽しんでみたいですよ!
ふへ?
「何だったら私が適当な男を見繕ってあげるわよ」ですって?!
う~ん、もおお~。勘弁してくださいって!!
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