温泉の神様2
「いや~、強烈な一発を喰らってしまったな。
参った、参った。
老い先短い年寄じゃ、もう少し優しく扱ってもらえんもんかのう」
「うるさいぞ、エロジジイ。
何が老い先短いだ。短くなんかあるものか。
大体、『ただで済むと思うておるのか』と忠告しただろうが。
あの場で、即、引っ込んで居れば、こんな事になっておらん。
自業自得だ」
「あ、あの、スミマセンでした!」
兎に角、謝るしかありません。
床に額を擦りつけ、土下座平伏します。
「いやいや、嬢ちゃん、エース殿の言う通りじゃ。
儂が悪かった。スマン、スマン」
許してもらえた。良かった……。
で、でも…。
「あ、あの~。取り敢えずですね。
出来ましたら服を着て頂きたいんですが……」
そうなんです。起き上がってタオルから出た小人のお爺ちゃん、まだ素っ裸…。
目のやり場に困ります。
「お~、こりゃまた、スマン」
やっぱり神様。ポンと着物を着た状態になりました。
「で、この変態露出狂ジジイは、社を抜け出して、あんなところで何をして居った」
「変態露出狂とは、こりゃまた、酷い言われようじゃのう。
儂には見せびらかす趣味など無いぞ。見る方専門じゃ。
綺麗なお姉ちゃんの裸を間近でジックリ鑑賞して、目の保養をしようかな、とな……」
「おい、本気で叩き潰されたいか!」
「ひ、ひや~、ご勘弁。
湯の状態を見に来ておったのじゃよ」
え? どういうこと?
その後に聞いた話によれば、この神様は少彦名神といって、琵琶湖畔近江八幡市の沙沙貴神社の神様。
温泉の神様でもあって、少し前にあった地震の影響が無いか、周辺の温泉を回っていらっしゃった途中だとか。
温泉に入った気分に浸るため、裸になっていたということの様です。
私の大好きな温泉を守る神様。
それに、さっき酷いことをしてしまいました。(胸シッカリ見られたけどね…)
ここはお詫びに、温泉に入らせてあげましょうと提案。
「いや~、それは有難いな。
こんな美女が裸の奉仕で、一緒に入浴!
そりゃ、もう堪らんわ!」
いや待て。裸の奉仕ってね…。
私は「裸になって一緒に入浴する」とは、一言も言っていない。
ホントに潰しちゃうぞ、エロジジイ!
微かな殺気を覚えつつ、浴衣のまま、浴場へ。
ポンと裸になった少彦名様を掌に載せて、お湯へ入れてアゲマス。
「なぜ一緒に入らん。一緒に入ろう。そんな着物、早く脱いで!」
とウルサイですが、そこは無視。
あまりにシツコイのに怒ったビンちゃんが、指でビシッと弾いて黙らせました。
「ギャフン」って言って、ビヨーンってなってましたね…。
ハハハ……。
さてさて、お食事タイム。少彦名様も御一緒してます。
宿泊の予約は二人分でしてあります。私とビンちゃんの分ですね。
勿論、宿の人にはビンちゃんが見えませんので、怪訝な顔。
あ、いや、大丈夫なんですよ。普通に二人分で用意してください。
いやいや、一人分キャンセルなんてしませんよ、二人分でいいんですってば…。
で、少彦名様は小さいですからね。
私の分をお分けして…と思っていたら、食事は要らないとのこと。
酒だけで良いそうです。
実は、この神様、お酒の作り方を伝えた神様。
お酒の神様でもあったんですね。
だからといって、酒だけってのもどうなのかなって思いますが、ご本人がそうおっしゃるんですから、まあ良いのでしょう。
だけど、こんな小っちゃい神様に、どうやって飲ませればよいんだろう…と思いつつ、まずは私が失敬して一杯…。
で、お酒を注いで差し出すと、その盃に御顔を突っ込んで、ズズズ~とすごい勢いで飲みだします。
おおおおおお~!!
あれよ、あれよ、という間に、盃は空っぽ。
いやはや、こんな小っちゃい神様の、どこへ入って行った?!
まさに、神様マジック!!
一気に赤い顔に変わった少彦名様、ニッコリ笑います。
「いや~、馳走になった。
あまり女子会の邪魔してもイカン。儂はこの辺でお暇するわい。
ああ、そうそう、エース殿は、今は『ビンちゃん』と呼ばれているようだの~。
なら以降は、儂は『スクさん』とでも呼んでくれ~。
では、またな~」
スクさんこと少彦名様、ポンと消えてしまいました。
「え?! 消滅したんじゃないよね!」
「違う。あの消え方は、別の場所に移動しただけだ。
私も見せたことあるだろうが」
いや、そうですけど、私にはその違いは分かりませんよ……。
そうそう、夕食ですよ。
ここは食事も、一級を通り越した超特級ですよ。
待ってました、特上近江牛の陶板焼き!
軟らかくて、とろけちゃいそうで、濃厚な肉の味。
ビンちゃん、お肉も大丈夫って言ってましたもんね。どうですか?
そうよね。すっごく美味しいよね!
自家製の燻製盛り合わせも最高。豊かなスモークの香り。
出て来たお寿司も、魚じゃない。
近江牛をレアに炙ったのを握った寿司よ!
琵琶湖特産ビワマスの刺身もイイね~。
全体的に肉系が多いので、お年を召した方には重いかもしれません。
でも、若い私には最高! お肉だ~い好きなの~ん!
ビンちゃんも、見た目は若いもんね。大丈夫よね~。
あ、ついでにですね。お料理運んできてくれる若女将も飛び切りの美人さん。
アイドル活動もしている人なんですよ。男性客には堪んないでしょうね。
夕食後、21時以降は内風呂も宿泊者貸し切り湯になります。
勿論、露天風呂の方も。
というか、今日の宿泊客は私たちだけなのです。
完全貸し切りの入り放題!
十分に温泉を堪能し(出歯亀スクさんが潜んで居ないか警戒しながら…)、朝も豪華でボリューム満点な朝食を頂きました。
宿を出た後は、有名な洋菓子屋さん「クラブハリエ」のバームクーヘンと、滋賀県特産の鮒鮨をゲットしたりして、帰宅したのでありました。




