神様との食事会
夜になって…。
約束時間より15分くらい前にナギさん、門からイソイソとやって参りました。
白い着物に赤の袴。いつもの恰好です。
「いらっしゃいませ~。どうぞこちらに~」
って、何かお店屋さんみたいですね……。
母屋の玄関から上がってもらい、座敷へ。
準備しておいた座布団を勧めます。
肉体の無い神様には座布団なんて有っても無くても同じですが、やっぱり、形式上はね……。
ナギさんとビンちゃんに並んで上座に坐ってもらい、私はその対面に。
御膳の料理も準備完了、では、神様との宴会開始です!
まずは、お酒で乾杯!
と言いたいところですが、私が先に飲まないと二柱は飲めないですからね。
お先に失礼…。
そして、同じ盃で御客様のナギさんから。
ナギさん、隣のビンちゃんに「お先に」と頭を下げます。
その麗しいお口に私が盃を運び、クイッ…。
「ふううううん~!! 美味しいいいい~!!」
ナギさんの様子を覗き込んでいたビンちゃんも、ニコッと笑いました。
「はい、ビンちゃんも飲んでね。
さあ、お料理も有りますからね」
まずは、鯛の刺身から。
タカイでおろしてもらった鯛を、皮を上にして俎板に載せます。
それを斜めに傾けて置いて、皮の部分に熱湯をサーッとかけ、直ぐに冷水で締めました。
後はそれを食べやすい大きさに切ります。
……皮つきのお刺身、小父さんお薦めの「鯛の湯引き」です。
これ、ビックリ。ホントに皮が美味しい…。
皮を捨てるのは勿体無いよ。これからは、鯛は皮付きに限るね。
ナギさんもビンちゃんも、蕩けそうな御顔です。
はい、お酒。
チョットだけですが、ウナギの蒲焼も有りますよ。
うわ、人気商品だけある!
皮はパリッとの関西風。身はふっくら。美味しいわ!
はいはい、どうぞ、お酒も。
鯛の塩焼きも、どうぞ。
はい、お酒。
お野菜は、旬のスナップエンドウ。
良い物はシンプルに…。茹でただけですが、カリカリ触感の後に甘味が広がります。
はい、お酒。
菜花のお浸しですよ。
こっちは、ヨモギの天ぷら。
あ、お酒もですね。
いや~、これは忙しい! 目が回る!
自分も食べないといけませんが、二柱にも食べさせないといけない。
なにしろ、神様は自分では食べられないのですから……。
それに…、ですよ。
聞いてくださいよ!!
私、人の事あんまり言えない呑兵衛女子かもしれませんが、この二柱ってば、底なし!
三升買っておいたお酒が、すっかり空に……。
もう、恐ろしいったらありません。
お酒無くなっちゃいましたらか、後はご飯で御仕舞ですよ。
ご飯は釜炊きですからね。
お供にノビルの味噌和えと芹の醤油煮を出すと…。
「あら、これは、慎吾の好きだったノビルと芹ね」
うわ~、ナギさん、父さんの好物まで知っていたんだ。
なんか、嬉しいな。
汁物は、タカイの小父さんに教えてもらった、鯛のアラ汁すまし仕立てです。
ただ、全く聞いたレシピ通りでは無く、三つ葉の代わりに芹を使いました。
いやいや、忙しかったな。
ナギさんも喜んでいただけたようで…。良かった、良かった。
そうだ、次の為に、ナギさんのお好みを訊いておかなきゃね。
で、その、ナギさんの返答はというと……。
「いや~、本当に今日は大満足よ!
でもね、毎回こんなに豪華でなくてよくってよ。準備、大変だったでしょうに。
お米とお酒と塩があれば結構だからね」
お米とお酒と塩……。
いや、まさかそんなわけにはね。神棚のお供えじゃないんですから。
…と思っていたら、ビンちゃんが、
「そう言えば、米は伯母上が日ノ本の青人草の食すべきものと定めたのだったな」
は? どういうこと?
よくよく伺ってみますと、神話にも伝えられている話。
天孫降臨、つまり、アマテラス様のお孫さんが天から下る際に、アマテラス様が自分で育てていた稲穂を、食料とするようにと授けられたのだとか。
お米はアマテラス様からの授かりものだったのですね。
だから、分霊体であるナギさんも、お米があれば良いということみたいです。
あ、お酒(日本酒)は原料がお米ですよ。
……因みに、神様からの内緒情報。
天から降臨されたという話。「天」は「あめ」とか「あま」とかって読みますが、これ実は「海」のこと。
つまり、海を渡ってこられたというのが実際のところなんだとか。
だって、神様だって肉体のある人間だったんですよ。
宇宙人じゃないんだから、空から降って来れるわきゃないっすよね~。
あ、これ、ナイショですからね。
そうそう、ナギさんのお好みのモノの話でした。
いや、まさか氏神様をお迎えしておいて、塩を舐め舐め酒飲ませて、ご飯にも塩掛けてって、そんなわけには行きませんよね。
酒だけあればナンも要らんっていう、飲んだくれオッサンじゃあるまいし。
あ、いや、今日の飲みっぷり…まさに、それか!
いやいやいや、ご勘弁くださいよ。
オモテナシさせてくださいよ。
その他の希望を訊いてみると、やはりナギさんは、四つ足物は好まれない様。
それに、鶏肉と、意外や意外、卵までもNG!
ですから、やはり、野菜と魚ですね。
そうだ、タカイの小父さん、お供えといえば鯉って言ってたな…。
「鯉なんてどうですか?」
と訊ねると、
「そういえば、昔お供えでよく上がったけども、最近見なくなったわね。
う~ん、ちょっと食べてみたいかも」
との御回答。
よし、じゃあ、次は鯉料理に決定です。
小父さんに注文しておかなきゃね。




