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大掃除三日目

 翌日…。朝のご飯は竈で炊くことになっています。

 弟子二人も起きてきました。


 二人が泊ったのは西離れ。

高級旅館の部屋みたいで最高だったって?

 そ、そこまでかな?

まあ、喜んで頂けたのなら、何より、何より。


 さあ、ご飯を炊こう!

といっても私は、やり方知らない。


 ここはレイラの出番。

彼女も初めてみたいですが、キッチリとリサーチ済み。

ちょっと天然入ってますが、頭脳明晰。

調べものに関しては彼女に任せれば間違いないとのこと。


 ちなみに祐奈は元陸上部で、体力担当。

掃除の際の水運びも、殆ど祐奈がしていましたね。

 この二人、バランスの取れた良いコンビです。


 で、話を戻して、ご飯ですってば。

 枯葉と松ボックリを竃に入れ、細い枝を乗せる。昨日の鍋料理と同じですね。

松ボックリって火が付きやすく、優秀な着火剤なんですって。

キャンプでよく使う方法みたいで、拾ってためておくと便利そうです。

 そういえば、桑名の手前の海津市に、油島の千本松原ってあったよね。

えっ、あ、レイラは、そこで拾って来たんだ…。


 お米は昨日のうちに研いで水に浸けてあります。

 水加減は米の五割増し。

米の上に掌を乗せて水の量の加減をするなんて高度なテクニックもあるみたいですが、慣れないと無理! チャンと計量しましたよ。

この辺の調整も昨日やってあります。

 それが入ったお釜をセットし、蓋をし、点火。


 ……始めチョロチョロ、中パッパ。グツグツいったら火を止めて、赤子泣いても蓋取るな……


 え~、なんか難しそうよ…。

取り敢えずは沸かせないとね。


 あ、噴いてきた噴いてきた。

あんまり火をくべると、焦げるわよね。


 あれ、お釜の中の音、少し変わってきた気がするよ。

あ、これで火を引くのね。燃えてる薪は出しちゃうと…。

 後は蓋を取らずに蒸らすんだ。


 へ~。意外と早く炊けるのね。

中が気になるけど、ここで開けちゃダメなのよね。

「赤子泣いても蓋取るな」か…。

 上手く炊けてますように!



 蒸らしている間に、私は味噌汁を。

いつもの(せり)入りですよ。

 あとは、芹の煮物と梅干しと、二人が持ってきてくれた塩鮭を焼いて。


 うわ~、今日は豪華な朝御飯だ。

 蒸らしが終わったご飯は…。

すご~い!米粒が立ってる!

 美味しそう!!


 で、私は、またまたお膳に一人分を用意して、お隣の部屋へお籠りっすね。

微妙な雰囲気になっても、これは仕方ない事なのです。

 ビンちゃんは、というと、お釜で炊いた御飯に大はしゃぎ。

 「美味い、美味い」と大絶賛でした。


 ビンちゃんのお食事を終えて二人が待つ部屋に戻りますと、またレイラがお膳を覗き込み、空になっているのを確認。

 当然、私とビンちゃんとの会話は聞いていましたよね。

あ、ビンちゃんの方の声は聞こえなかったでしょうが…。


「師匠。秘儀のことで内緒なのかもしれませんが、ちょっとだけお訊ねして良いですか?」


「な、なに? 答えられないかもしれないけど…」


 頭の良いレイラに改まって訊かれると、緊張するよ…。


「天皇陛下が即位後にされる大嘗祭ってありますよね。

陛下が実際に何をされているか、秘儀であって詳細は分からないですが、神様にお供えをして、自らもお召し上がりになられるとか…。

それによって、天皇としての力を持たれるという神事みたいですね。

規模は小さくなりますが、それを毎年新嘗祭としても行われるそうです。

師匠がされているのって、そういうことですか?」


「あ……」


 そういえば、そんなこと聞いたことあるよ。

そうだよ。天皇陛下も、きっと、こんなことをされているんだよ。

 お~、レイラってば、やっぱ、頭キレるわ……。


「私は天皇陛下がどんなことを実際にされているのか分からないから、同じかどうか分からないわね。

でも、私のしてることの方は、そんな感じのことよ。

神様にお供えして、自らも召し上がるか…。

あ、ちょっと待って。そうすると、私の場合は、順序が逆かな…」


「え?逆?」


「あ、い、いや、いいのよ。まだ二人には早い!」


 そうです。天皇陛下は、神様と対面し一緒のお食事をされているのでしょう。

 私も、神様と一緒のお食事というのは変わらないのですがね…。

私が先に食べないと、神様は実際に食べられないし、私じゃなくて神様の方が力を付けてるからね……。


 だけれども、これは思ってもみない事でした。

なんと、天皇陛下なんてお名前が出てしまうとはね。

 こうなると、私も非常に重要な儀式を執り行っているような感じになってしまいます。

二人の尊敬の眼差しを一身に受け、非常に照れ臭い。

 いや、そんなことより、朝御飯ですってば。

 二人は私がもう一人前食べたと思っているでしょうけど、私は最初の一口しか食べてないんですからね。

 トンデモナイ大喰らいだと思われても、結構です。

何とでも思ってやってくださいまし。


 いやいやいや、それにしても、この御飯、凄いわね。

竈で炊いた御飯がこんなに美味しいとは…。

 おかず無しでも良いくらい!

それに、さほど難しくもない!

 これは、以後もやる価値ありですよ~!




 朝食が終わり、最終日の掃除は水屋です。

 高く石垣を組み、その上に聳える二階建ての建物。

見ようによっては小さい天守閣みたいです。

装飾もシャチも無いですけどね。


 ここは洪水が起きた時の緊急避難場所。

水害の多かったこの輪中地帯独特の建物なのです。

 そんなことで、普段使用するモノではありません。

が、折角ですので、一応掃除。

 西離れ同様に、私も初めて入る場所です。


 一階は、物置。昔は食料を貯蔵してあったんでしょうね。

でも今は、ほぼ空。

 だってここ、敷地の一番奥だし、石段昇らないといけないから、不便なんですよ。


 あれ、あの奥の方にあるのって…。

 う、でっかい金庫!!

 あら、鍵もある!

 こんどこそ、中にはお宝が!


 三人と一柱、興味津々で開けてみると……。


 ・・・空でした。


 まあ、そうっすよね。

入っていれば、鍵を一緒に置いとかない……。


 二階は居住できるようになっています。


 うわ~、見晴らしいいわ。

一面田んぼ。水が入ったら爽快でしょうね!

 ……でも、私の家の敷地隣には、みすぼらしい草むら。

我が家の「元」畑です。


 そのことを話すと、祐奈はハーブにも興味あって自分の家の庭で色々と育てているんだとか。

 「勿体無いから畑に戻しましょうよ」なんて、気軽にノタマッテくださいます。


 でもね。あの状態……。

草どころか、小さな木まで生えてますよ。

 私たちでは無理でしょう?


 「はい、無理ですね」と三人で頷き合いました。


 ビンちゃんは窓から身を乗り出すように、畑の方を見ていました……。



 と、まあ、こんなことで、我が家の掃除、めでたく完了です!


 弟子たちよ。よくやってくれました。

一人でどうしようと思っていたのです。

 感謝しかありません。ありがとう!!


 あ、いや、正確に言うと、完了ではなかったね…。

実は東離れの二階がまだ…。


 でも、ここには私の父の部屋があるのです。

ですので、ここは、私が一人でゆっくり致します。

 父との思い出に浸りながらね……。


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