就職…
さてと、私には、あまり友達がいません。
なにしろ、金髪白肌の上に赤い目という、この異様な容姿ですから…。
いつも、仲間外れでポツンとしてる。
これも「かわいそう」と言われる。
でもですね、別に集団でたむろしなくたって、私、平気なんですけど…。
それに、全く友達がない訳じゃないですからね!
普通に人に話しかけることも出来ますし!
いや、強がりじゃないってば!
一人でいる方が、気を使わなくて良くて、楽なだけです。
いろいろ、面倒くさいじゃないですか。
それに……。
私が入れば、その集団ごと変な目で見られかねない…。
嫌な思いをするのは、私だけで良いんです。
ですから、放っておいてください。
無理して私に絡もうとしないでください……。
ま、まあ、こんな話は、どうでもいいんですがね。
私の趣味は旅行です。
お城や史跡や博物館に行くのが好き。
歴女ってほどでもないけど、そういう系が好きなんですね…。
神社参拝も、大、大、大、大、大好き。
癒されるんですもん!
……この容姿に全然合わないっていわれますけど。
温泉も好き。
美味しいモノも、もちろん!
ということで、「趣味の合う友達」は居ないから、いつも一人旅。
一人だと、どこへ行くのも自由。気楽で良いですよ!
あ。よくそんな資金があるなって思うでしょ?
その辺りは、亡くなった父と祖母が残してくれた財産があるんですね。
貯金も、土地も、家も!
これも、ラッキー!
ただ、それを食いつぶしてしまう訳にはゆきません。
一生遊び暮らすには、きっと足りないし…。
まあ、働かざる者、食うべからず!
働きましょうよ。
で、先日大学を卒業した私は、今日からピッカピカの新入社員として働くことになっていました。
就職先は、愛知県名古屋市の輸入食品を扱う会社。
大企業ではありません。中規模かっていうと、…どうなのかな?
でもまあ…、それなりだと思います。
今年の入社希望者で、採用されたのは私だけだったと聞いています。
最終選考候補十一人の内で、私一人だけが採用になったと…。
やっぱり、私、ラッキーガール!
そして、今日は希望に満ちた、社員としての初出社日!!
……が。
只今、私は呆然としております。
会社に来ると、その入り口前に張り紙で、人だかり。
え? 業務終了?
従業員は全員解雇って、どういうこと??
入ろうとしても鍵がかかっていて入れない…。
直ぐに見覚えがある女性が走ってきました。
事前研修でお世話になり、私の直接の上司になるはずだった林さんです。
私に駆け寄るなり、「ごめんなさい」と謝られる…。
そして、例の「かわいそうに」が襲ってきてしまったのです。
「初日から、こんなことになって」だって……。
会社は倒産したんだそうです。
三年前に代替わりした「二代目バカ社長」の放漫経営によって…。
経理関係は社長の愛人が全て取り仕切り、ここまでの状態とはみんな知らなかったとのこと。
で、いきなり、こんなことに…。
ヤバそうとは感じていても、新入社員が入ってくるという日に倒産だなんて、普通、思ってもみませんよね!
林さんなんか、二ヶ月分の給料が未払いだとかって…。今日、まとめて払ってもらえるはずだったのにって……。
ええ~! 確か林さん、旦那さんも、この会社で働いていたはず。
二人合わせて四ヶ月分ただ働き?
それって、可哀そうなのは林さんの方だよ!
私は、まだ働いていないのだから、そんな被害は一切無い。ラッキーだった方だ。
やっぱり…、私は…、ラッキーガール……?
ということで、私は新しく借りて引っ越してきたばかりのアパートの部屋にトボトボ帰ってきました。
部屋の中央にチョコンと正座し、暫し、呆然……。
林さんの不幸は、私の所為ではない。
だって、先月のお給料も出てなかったって言うんだから……。
どんなふうに説明されていたのか知りませんが、お給料が遅れるってそれ、大問題でしょうに。その時点でダメだと気付けよなって話です。
そう、たまたま、私の初出社日と倒産が重なっただけだ!
……もしかして、私、潰れ掛けているのを隠す役割を演じさせられたの?
否、そんなはずない…。
そんなことの為に社員募集して、面接して、研修してなんて、余計な費用と手間を掛けたりしない。
そんな金と暇が有ったら、別の方に使うよね!
じゃあ、私が入社することになったから、急速に業績悪化してしまってなんて…。
いや、いくらなんでも、そんなこと、あるはず無い。
偶然!
断じて、私の所為じゃない!
それよりも、自分の心配をしなくちゃ……。
勤めるはずだった会社が名古屋だったので、便利な市内のこの部屋を借りたんだけど、どうしよう…。
こんな時期に、新たな就職先を探さなければならなくなってしまった…。
みつかるかな…。
正社員は、難しいだろう…。
当分、アルバイト生活かな…。
だとすると、ここの家賃、勿体無い。
自家用車があるから、駐車場付きで結構お高いところを選んじゃった…。
実は、私には持ち家が二つあります。
父が残してくれた家と、母方祖母の家です。
どちらも、場所は隣の岐阜県。
そしてどっちも、超豪邸な~のです!
凄いぞ、驚くな!
祖母の家なんか、築250年の文化財モノ。
茅葺のでっかい母屋には囲炉裏も有り、離れも二つ付属。蔵まである。
馬いないけど馬小屋も有って、更にオマケに、裏と左右の三つの山まるごと付き!
どうだ、ビックリしたか!
・・・但し、超々山奥で、超々不便で、住む気サラサラないですがね。
住むのなら、やっぱり父の家の方かなあ。
こちらも郡部の田舎ではありますが、羽島市と大垣市の中間という、平地で便利な場所。
でも、八年近くホッタラカシで、多分、かなり手入れしないといけない…。
それに、この家も純日本建築で、古い…。築100年は経っていないそうですが、それ近いとのこと。
更に多喜家は庄屋の家柄で、敷地もだだっ広い…。
この地は周りを川で囲まれた輪中の町。
昔の地主の家は、高屋敷といって敷地全体を土盛りして高くしてあります。
これは、洪水対策の為です。
元庄屋の家ということは当然高屋敷で、その規模は最大級。
石垣があり、立派な門があり、デカイ母屋の他にも三棟の建物。
その内の一つは水屋という緊急避難施設であって、石垣を更に積んだ場所にそびえて天守閣のよう。
もう、小さな城みたいな感じなのです。
私は、どちらかというと、こういった建物、嫌いではありません。
いや、逆に好きな方。
でも実際に住むとなると…。一人にはバカデカ過ぎる!
掃除が大変。手入れも大変。
アパートなら気にしなくて良い厄介な近所付き合いも出てくる…。
あと……。
ここに住むと、亡くなった父のことを思い出してしまうから…、ちょっと敬遠。
中学生まで、男手一つで私を育ててくれた父。
大好きだった、優しく頼もしい父。
その笑顔が浮かんできてしまいます……。
いや、やっぱり、ダメですよね。ホッタラカシなんてのは!
父の、いや、先祖の残してくれたもの!
私しかいないんだから、私が守らなくちゃ!
これはきっと、戻ってこいという御先祖様のお呼びなんだ!
私は、父との思い出の家に帰る決心をしました。
幸い、まだ引っ越し荷物のほとんどが梱包状態のまま。
だから、このまま引っ越しできる。
これもラッキー!
やっぱり、私はラッキーガール……。