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きひつかみ~ウズメ陰陽奇譚~  作者: あまみわつき
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第5話

#23 慶長6年 12月 宇都宮藩 宇都宮城 祭壇


弦三郎が死闘を繰り広げている、同じ頃。

ウズメと朔夜が部屋に入ってくる。驚いた表情に変わる2人。

部屋の中央の魔法陣の中央に国綱が立ち、傍らの逆さ五芒星を祀った

祭壇でマウリシオがヘブライ語のような呪文を唱えている。

魔法陣がうっすらと光り始めている。


ウズメ「ま~だ、なにか出てくんのかよ?」


国綱が陣の中で半狂乱になりながら


国綱「マウリシオ殿ッ、早くッ、早くーッ」


マウリシオ、呪文を止め、チラッと目を開ける。


マウリシオ「その通りデス。さすがにこれで最後ですがネ。チョットだけ

      お待ちくだサイ」

朔夜「ウズメ、アレを…」


朔夜に促され、祭壇の逆さ五芒星に目をやる


ウズメ「セーマン…なんでキリシタンがセーマンを?」

マウリシオ「セーマン? あぁデビルスターの事ですカ?」

ウズメ「でび…なんだよそれ?」

マウリシオ「いまにわかりますヨ」


マウリシオが再び呪文を唱え始める。

朔夜が呪符を出し、魔法陣に投げながら


朔夜「喼急如律令!」


しかしッ逆に呪符が燃え落ちる。


ウズメ「結界か…」


ウズメが左手を構える。


ウズメ「バン・ウン・タラク・キリク・アク」


左手を結界の中に入れようとする。火花が散るように

ウズメの左手と結界が拮抗する。


ウズメ「グッ…」

国綱「早くーッ、早く召喚をーッ!」


マウリシオの呪文がひときわ大きく響き渡る。


国綱「がっ…来たぞッ、イヒヒッ…くるくるくるッ…くるーっ」


国綱、狂ったような表情で上着の左側を引っ張る。

左胸には悪魔の印が描かれている。その印が光りはじめる。


国綱「イヒヒヒッ、イヒヒヒヒ…がぁああああああッ」


光がまばゆいくらいに強くなり

「ニュルッツポオオゥンッ」と左胸から黒い化け物が出てくるッ。

化け物は黒く濡れた毛と筋繊維のような肉がまだらになっている。

顔は獣のようで、体躯は国綱の3倍はある。


ウズメ「ウへーッ、気持ちワル~…」

朔夜「…コレは…?」

マウリシオ「ハハハハハッ、彼は我々のファミリア、ベヘモットですヨ」

朔夜「ベヘモット……?」

マウリシオ「この国では悪魔とでも呼ぶんですかネ」

ウズメ「悪魔だかなんだかしらねーけど、その前に…」


ウズメが駆け出し、マウリシオの目の前に立つ。


ウズメ「やっぱり結界は解いたみたいだな」

マウリシオ「オーッ…」

ウズメ「テメーは、ぶっ飛ばしとかなきゃ、気が済まないんだよッ」


ウズメが左手で殴りつける。マウリシオが後ろに吹き飛ぶ。

マウリシオ、鼻血を出しながら立ち上がり


マウリシオ「アブナイ、アブナイ…人間だったら死んでましたヨ」

ウズメ「ケッ、やっぱり人間じゃないって事かよ?」

マウリシオ「さあ国綱様、存分にベヘモットの力をお使いくだサイッ」

国綱「イヒッ、イヒッ、私の邪魔をするヤツは絶対許さんッぞ、イヒヒヒッ」

ベヘモット「バホオオオオオオーッ!」


国綱の感情とシンクロするように、ベヘモットが吼える。

それだけで空気が震える。


ベヘモット「ブブハーツッーッ!」


ベヘモットが朔弥に殴り掛かる。


ウズメ「クソッ…」


ウズメ、朔夜を庇うように駆け戻り、左手で腕を受けて後ろに吹き飛ぶ。

同時に周りの空気も震え、壁もろとも壊れて投げ出される。

奥の間へと転がるウズメと朔夜。続いてベヘモットも出てくる。


ベヘモット「ブッホオオオオオオァーッ!」


弦三郎が2人に駆け寄る。


深月「大丈夫ですかッ…アレはいったい…」

朔夜「悪魔だそうです」

深月「悪魔?」

天海「悪魔…ガガッ…キリシタンの教えでは…デウスの宿敵…サタンの下僕を…

   ガッ…確かそのように…」

深月「キリシタンがなぜ…?」

ウズメ「さあな、それは後であのヤローに聞くとして、その前にコイツをなんとか

    しねーとな…」

ベヘモット「ンバババアアーッ」


ベヘモットが剛腕を振り下ろす。全員がバラバラに跳びかわす。

拳が床板をぶち抜く。腕を引き抜き、続けざまに両手で振りかぶる。

ウズメが前に立ち、呪符をヒラッと前に投げ、そのまま右手の2本指で

五芒星に印を結ぶ。と同時に


ウズメ「バン・ウン・タラク・キリク・アク」


左手を突き出し、呪符越しにベヘモットの腕を受ける。

バリアが張られたように、五芒星に囲まれた護符が反応し

一瞬、拮抗するが徐々に押し負ける。

後ずさったウズメにベヘモットが再び振りかぶる。

朔夜が傍で、式盤に形代を置き


朔夜「()()土金(づか)()神霊(かむたま)(いづ)御霊(みたま)(さきわ)(たま)え…」

  「玄武!」


亀の式神がウズメの前に躍り出る。甲羅にベヘモットの拳がはじかれる。



喜多院。天海が水盥でその様子を見ている。

その映像はノイズが走ったようにチラついている。


天海「ほうっ、十二天将まで式神にしておるとは…」


一方、祭壇の間で国綱が叫び声をあげる。


国綱「イヤーッ、イヤイヤイヤッ」


ヨダレまみれで狂気の表情で地団駄を踏む。

ベヘモットが憤ったように、玄武に拳を振り下ろす。


ベヘモット「ブオオォッ、ブホッ、ブホッ!」

玄武「キュエエエーッ」


キングコング対ガメラの様相。

ウズメが弦三郎に近づき


ウズメ「ちょっと刀を貸してくれ」

深月「エ? でもこんなものじゃ…」


弦三郎、手渡しながらも半信半疑な表情。

刀を受け取ったウズメ、おもむろに自分の左腕の上腕をつらぬく。


深月「ちょっ、ウズメさんッ?」


引き抜き、弦三郎に刀を放り返す。腕から血があふれ垂れる。

血に反応したように左腕の式神がビチビチと蠢く。

左手がみるみると赤く染まっていく。

ウズメ、ベヘモットへと駆け寄りながら


ウズメ「バン・ウン・タラク・キリク・アク」

   「金粧(こんしょう)!」


血の鉄分を吸収して、左手が変化する。

指の一本一本が刃物のように変化していく。

玄武に対して両手をハンマーのように振り下ろしたところを

ベヘモットの腕へと駆け上り、顔めがけて腕を振り下ろす。


ウズメ「斬ッ!」


ベヘモットの片目が引き裂かれる。

ベヘモット、雄叫びを上げながらのけぞる。


ベヘモット「ブフォォォォーオオオッ」


祭壇の間。国綱が片目を押えながら


国綱「ビイィヤァァーッ、コ、コ、コ、この土地は、ダダ、誰にも

   渡さんっっんんッ」

    

狂ったようにベヘモットが両腕を振り回す。

玄武が甲羅で受けるが押され始めている。

ウズメ、ベヘモットの腕をかわしながら朔夜へと近づき


ウズメ「朔夜、やれるか?」

朔夜「なんとか…」


玄武が紙の形代に戻る。体勢を崩し、不思議そうなベヘモット。

思い出したようにウズメ達に近づく。

ウズメが式盤の上に右手を置く。


朔夜「()()土金(づか)()神霊(かむたま)(いづ)御霊(みたま)(さきわ)(たま)え…」

  「白虎!」


ウズメの右肩から指先にかけて式神が封じ込まれる。

右手は爪が長く伸び、白く光るように変化する。

右手から右肩、頭ににかけて覆うように白虎の姿が見える。

その様子を、あっけにとられるように見ている弦三郎(と天海)


天海「なんとッ、自らに十二天将まで封じ込めるかよ?」


「パンッ」とウズメが両手を合わせベヘモットへと駆け出しながら


ウズメ「トオカミエミタメ・トオカミエミタメ・トオカミエミタメ・

    火生土(かしょうど)土生(どしょう)(こん) 祓い(はらいたま)え清め給え(きよめたまえ)!」


同時に朔夜も


朔夜「高天原(たかまのはら)天つ(あまつ)祝詞(のりと)(ふと)祝詞(のりと)を持ち(もちか)()む呑んで(のんで)む 

   祓い(はらいたま)え清め給え(きよめたまえ)!」


と詔を唱える。

ウズメが両手の掌を合わせ、指先を開いた状態でベヘモットを打ち抜く。


ウズメ「覆滅(ふくめつ)ッ!」


炎の蛇と白虎が絡まりあい、ベヘモットの腹を突き抜けたように見える。


ベヘモット「ボオオオオオオオーーーッ」


ベヘモットの腹に穴が空き、断末魔をあげる。



祭壇の間。


国綱「ぎゃああぁぁぁぁッ」


国綱も叫びをあげ、倒れ込む。


ベヘモットが燃え散るように、消えていく。

その様子を見ていた3人。国綱のいる祭壇の間へ、目を移し


ウズメ「さあて」


大きく穴の開いた、部屋へと入っていく。

部屋の中には、国綱1人が倒れている。マウリシオの姿はない。


深月「あの宣教師は?」


弦三郎が、あたりをすかさず調べて


朔夜「ここと、あの小さい格子窓以外に出入り口はなさそうです…

   誰も出てくることはなかったのに…いったいどうやって…」

ウズメ「………」


朔夜が、国綱の息を確かめる。


朔夜「かろうじて息はあるようですね…」

天海「ガ…とりあえず江戸へと…ガガ…連れ帰ることにしよう…」


国綱を見下ろす3人。しかし考えはマウリシオにいっている。

    廃人のような表情でうわ言のようにつぶやく国綱


国綱「コ、コノトチハ…ワ、ワタサン…ワタサ…」


テロップ「この後、宇都宮国綱は、失意のまま慶長12年に、江戸にて

     病死したと伝えられている」


ウズメ「グウッ……」


ウズメが左手を押えて、しゃがみ込む。


弦三郎「ウズメさんッ?」


ウズメの左手のトウビョウたちが、皮下を這うように二の腕の方に

上がってこようとしている。

朔夜がすかさ、しゃがみ込み、ウズメの肩口で刀印を結び


朔夜「アビラウンケンソワカ・アビラウンケンソワカ・アビラウンケンソワカ」


唱え始める。ウズメの肩口に、透かし彫りのように護符の印が

浮かび上がる。皮下のトウビョウたちが嫌がるかのように、手首の方に

戻っていく。ウズメがぐったりとしている。

その様子を見守っている弦三郎。


城の外の大木に大きな大鴉(からす)が止まっている。

見届けたかのように飛び去る大鴉。



#24  慶長7年 1月 京都 伏見城 城内


テロップ「こうして 慶長7年1月 宇都宮藩大名として奥平家昌が入部した。

     ここに徳川親藩としての宇都宮藩が誕生したのである」

    「そして この1年後の慶長8年2月 徳川家康は、陰陽頭(おんみょうのかみ)となった

     土御門久脩によって将軍宣下の儀式を行う事となる」


室内には家康と天海、本多正信。


正信「家昌様、無事入部(にゅうぶ)された(よし)にございます」

家康「うむ。それで…例の宣教師の正体は、まだわからんのか?」

天海「申し訳ございませぬ…しかし今後、江戸城から北辰の方角のかの地は

   死守せねばなりますまい。このような事を2度と起こさぬためにも、

   かの地を守る意味でも、早急に寺でも建てられた方が良いかと。

   それもできれば徳川家の聖地としての意味を持つほどの…」


日光東照宮建立のきっかけを匂わせる。


家康「そうじゃの。そういえば、あの若い陰陽師たちは?」

天海「はい…」



#25  慶長7年 1月 喜多院


回想シーン。

部屋には天海、ウズメ、朔夜、弦三郎の4人。

ウズメの前に三宝が置かれ、その上に大小の袋が置いてある。


天海「そうか…行くか」

ウズメ「ああ。やらなきゃならない事があるんでね」


4人の顔には、それぞれ微笑が浮かんでいる。


天海「それはそうと…おぬし「(かんなぎ)」であったか?」

ウズメ「…まあな」

天海「その左手「とうびょう」であろう…ずいぶんと珍しい物を封じたものよ…

   しかし、そのままではいずれ…」

ウズメ「…(なま)成り(なり)するだろうな…そうなっちまった時のために朔夜がいる。

    生成りしたときには殺してくれることになってる」


悲壮な覚悟に表情を曇らせる天海と弦三郎。


ウズメ「……(面映そうに)。そんな顔すんなよ。そうならない為に、

    コイツを封じた化け物を探し出して粉々に滅してやるッ」

天海「………それがやらねばならぬことか?」

ウズメ「ああ」


微笑むウズメと朔夜。


深月「寂しそうですよ御坊様。でも安心してください。僕がウズメさんたちの

   顛末(てんまつ)を見届けますから」

ウズメ「………ハ? まさか、ついてくる気か?」

深月「ハイ」

ウズメ「断る!」

深月「そんなー、いいですよね朔夜さん?」

朔夜「自分の食い扶持は、自分でなんとかしてください」

ウズメ「オイッ朔夜ッ」


騒ぐ三人を見て、微笑む天海。



#26  慶長7年 1月 大阪城


家康「残念そうですな、御坊殿」

天海「そんなことは…といえば嘘になりましょうな。しかしいずれ

   また使い処も出てくるかと」

家康「旅…路傍(ろぼう)の者か…敵にまわることがなければ良いがのぉ…」

天海「上様のお志が変わらなければ、おそらくは」

家康「変わらぬ。変わるわけないではないか。なあ正信」

正信「御意。しかし殿の亡き後はいかがなものか…」

天海「確かに」

家康「ふうむ……こ、こらッ、不安になることを申すなッ…」

天海がクスッと笑う。

家康「御坊殿ッ、なにを笑っておるのだ…」


 

#27  慶長7年 1月 大阪城

 

宣教師・ピエトロが城内の武士や女中に説教をしている。

ありがたそうに聞いている、女中たち。


ピエトロ「今日はこの位にしましょう」

女中「あの、神父様、そちらの方は…?」


ピエトロを補佐するように、1人の宣教師が立っている。


ピエトロ「あぁ、これは最近、大阪城に来た同志・マウリシオです」


マウリシオ、人なつこい笑顔で


マウリシオ「どうぞよろしくお願いしマス」

女中「お願いだなんて、そんな勿体ない…よろしくお願いします」

マウリシオ「神父様、行きまショウ」


2人は大阪城内に建てられた、簡易教会へ入る。


マウリシオ「さすがにすごい人気ですネ。これなら、この城が我々の手に

      落ちるのも時間の問題…」

ピエトロ「余計なことはしゃべらなくてよろしい。それより次は失敗は

     許されませんよ」

マウリシオ「だから、あれは失敗じゃなくて彼らがすごかったんですッテ。

      完全体じゃなかったといえ、ベヘモットが倒されるなんテ…」

ピエトロ「またそれですか…なんと言いましたっけ…確か、オ…」

マウリシオ「オンミョージですヨ」

ピエトロ「本当にそんなに手ごわいんですか? 武士よりも?」

マウリシオ「我々には武士なんかより、厄介なんじゃないですかネ~?」

ピエトロ「それが本当なら…」


ピエトロが親指と人差し指でそばを歩いていたクモをつまむ。


ピエトロ「いずれ争う事になるかもしれませんね…」


長く、舌を伸ばし、クモを口の中に放り込む。

口内でプチッとつぶれる音がする。


ピエトロ「我々、バフォメットの末裔が支配する世を作るために…」


ニターッと笑う。口の中からクモの足がはみ出している。



#28  慶長7年 1月 未定


道。トコトコと無言で歩くウズメと朔夜。弦三郎は道端の団子屋で

団子を買っている。

朔夜、ちらっと弦三郎を見てから、ポソリとウズメに


朔夜「また違ったな……」

ウズメ「……まあ、そんな気はしてたけどな、さて、次はどっちへ向かうかねと」


団子を持った弦三郎が追いかけてきて


深月「ねえ、次はどこに行くのですか?」

  「少しは目的をもって歩いたほうがいいですよ」


その様子を見て微笑む2人。

歩き続ける3人のロングショット。


                                END


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