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きひつかみ~ウズメ陰陽奇譚~  作者: あまみわつき
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第4話

#22 慶長6年 12月 宇都宮藩 宇都宮城 城内・廊下


朔夜が走っている。走りながらオフ声で


朔夜オフ声『確か見取り図では一番奥の部屋のはず…しかし蘇人が1体もいないのか?

      …それとも、必要ないというのか……?』

    

奥の間の扉の前に着き、立ち止まる朔夜。

ドア越しにも強大な穢れの気を感じる。


朔夜オフ声『なんだ…この禍々(まがまが)しい気配は…』

     ゆっくりと板戸を開ける朔夜。


室内へと切り替わる。中は板張りで殺風景な道場のような造りになっている。

板戸が開かれ、朔夜が半身を部屋にいれた刹那、馬鹿デカい刀身が襲う。

寸でのところでかわし、部屋に転がり込む朔夜。

3人の侍が朔夜を囲んでいる。体勢を立て直す間もなく切りかかる。

部屋の奥からマウリシオの声がする。奥には国綱とマウリシオ


マウリシオ「その3人はこれまでのとは違って、自分の意志で攻撃してきますヨ」

国綱「決して生かしておくなッ、切り捨てよッ、(こま)切れ(ぎれ)になるまで切り刻めッ!」

侍たち「ヴォィウォォォァ~~~~~~~ッ」

    

返事とも叫びともつかない声をあげ、一層激しく切りかかる。

朔夜、護符を盾のようにかざし


朔夜「喼急如律令!」

    

シールドのように刀がはじかれる。

侍の1人がいきおいで後ずさるが倒れない。


朔夜「………」


その時奥の方から声がする。


マウリシオ「アハハハッ そういうのは無駄ですヨー。だってー、そいつら、

ちゃんと生きてますからネーッ」

    

攻撃をかわしながら声の方を見る朔夜。そこにはマウリシオと国綱。

マウリシオ、嬉しそうに話し続ける


マウリシオ「まあ、生きてるって言えるのかはわかりませんけどネ。ここにいる

国綱様のために、生きながら私の実験を受け入れてくれましたヨ。

チューシンって言うんですカ? 侍って面白いですネー」

国綱「イケッ、西島ッ、切り刻めーッ」

    

朔夜、式版に手をかけようとするが、攻撃が止まずに防ぐのがいっぱいで

術式までいけない。じりじりと追い詰められる朔夜。

一人の斬撃をかろうじてかわした拍子に後ろに倒れる。

別の一人が袈裟切りに斬りかかる。

死を覚悟して目を瞑る朔夜。


「ガキンッ」と音がする。

    

ウズメが左手でその刀の(つば)あたりを受けている。


ウズメ「なっさけねーの」

朔夜「助かった…」

    

起き上がる朔夜。太刀をかわす二人。


ウズメ「にしても、なんだコイツら?」

朔夜「忠臣らしい」

ウズメ「なんだそれ? それに部屋の外からでも、半端なくザワザワしやがったけど

コイツらじゃねーな…」

朔夜「だろうな。コイツら呪符がきかない…つまり人間(ひと)ってことだな」

ウズメ「エ?マジで? でもじゃああの気は」

    

奥の方から声がする。


マウリシオ「もしかしてワタシですカネー?」

    

マウリシオだ。笑顔だが甚だしい穢れ(けがれ)の気を放っている。

ウズメ、マウリシオの気を感じて腕に鳥肌が立つ。


ウズメ「らしいな……それにしてもキリシタンってのはずいぶんエゲツナイ術も

使うもんなんだな?」

    

マウリシオ、嬉しそうに


マウリシオ「オー、ゴゾンジでしたカ。ワタシ、宣教師してるウリシオいいマス……

      ま、表向きですけど」

ウズメ「表向きって、どういう事だよッ?」

マウリシオ「説明してもアナタたちにはわかりづらいと思いますヨ。ところで

アナタたちこそ何者ですカ? オ侍でもオ坊さんでもなさそうですケド…」

朔夜「私たちは陰陽師ですよ」

マウリシオ「オンミョウジ?」

    

マウリシオの視線がウズメから朔夜に外れる。

ほぼ同時に「グブジュッ」と鈍い音。


声「ゴゥオァァァァァッ」

    

マウリシオが、ウズメの方に視線を戻すと

侍が1人が倒れ、ウズメの左手が血まみれになりながら心臓を握りしめている。


ウズメ「説明してもわかりづらいと思うぜ…」

    

左手の無数の生物が血を求めるかのようにビチビチと暴れている。

瞬く間に心臓が乾燥して崩れ落ちる。


マウリシオ「ヘエッ…ソレ、ホントにスゴイですネ」

    

嬉しそうなマウリシオと血の気が引いたような表情の国綱。


国綱「西島ッ、なさけないぞッ」

    

半狂乱の様子で刀を片手に、上座の隅から、猿ぐつわをされた

子供たち2人を引っ張り出す。わざと声を聞かせるように猿ぐつわを取る


子供たち「痛いよッ」「弟には手を出すなッ」

国綱「おとなしく成敗されよッ、さもないとこの子供たちの命がッ…」

    

その時、白い鳥が国綱を襲う。弦三郎の式神だ。


国綱「うわッ」

    

驚いた国綱が、思わず子供を離す。

いつの間にか弦三郎が部屋に入り込んでいる。

ウズメと朔夜は残りの侍たちと切り結んでいる。


深月「さあ、こっちへ」

    

子供たちの方へ駆け寄る弦三郎。子供たちも駆け寄ってくる。


子供A「助けてーっ…ぐっ、ぐうわあぁッ」

    

先に駆け寄った兄の片方の目玉がぐるりとひっくり返り、

歯を向いて弦三郎に噛みつこうとする。

寸前でかわす弦三郎。追っていた弟も驚き兄に駆け寄ろうとする

すり抜けた弦三郎。弟を引き留めるように


深月「行っちゃダメだ…」

子供B「あんちゃんっ?」

子供A「ぐうぅるる…痛いよぉ…身体が熱いよぉ…ぐぅぅぅ」

    

人間と蘇人が混じり合っている兄。


子供B「あんちゃーっ…ぐぅうっ…」

    

弟も兄と同じように豹変して、弦三郎に噛みつこうとする。

マウリシオの高笑いが聞こえる。


マウリシオ「アハハハッツ、惜しかったですネー。やはり子供だと効きが少し

早いようですネ~」

    

弦三郎、ギロッとマウリシオを見て、いままでと全く違う口調で


深月「このクソヤローッ」

    

クナイを一気にマウリシオに投げつける。マウリシオが手をかざすと

そのクナイが、体の前で落ちる。


マウリシオ「なに怒ってるんですカ? こういうの「立ってるものは親でも使え」

って言うんでショウ? あ、でも子供か…マ、イッカ。アハハハハハッ」

    

弦三郎に左右から噛みつこうとする子供たち。時折苦しがりながら、

本能のように噛みつこうとする。

弦三郎、手を出せずにかわしながら


深月「御坊様、この子たち何とかできないんですかッ」

    

答えない胸元の天海人形


天海「………」

深月「御坊様ッ?」

天海「おそらく無理じゃ…祓うより他に手はない…」

深月「そんなっ、まだ意識があるんですよっ」

    

必死にかわしながら手を下さない弦三郎。

侍たちと切り結びながら弦三郎を見るウズメと朔夜。


ウズメ、朔夜「………」



喜多院。水盥を見ている天海の表情が苦悩している。



天海「経験の足りなさが出たか…」

子供たち「熱いよぉぉっおごぉおごっおうぅぅぅ…」「助けて…があああぁっ」

深月「キミたち…ウズメさんッ、朔夜さん…なにか手が…」

   

必死にかわしながら、泣き出しそうな表情でウズメたちにも尋ねる弦三郎。


朔夜「無理です、あきらめなさいッ」

深月「でもッ…」


ウズメ、舌打ちをして朔夜に


ウズメ「ったくガキが…朔夜、ソイツは引き受ける…」

    

うなづいた朔夜、侍の攻撃をかわし弦三郎の元に走る。


深月「意識を強く持つんだ…キミたち…必ず助かるから…ね、ね」

    

兄弟がだんだんと蘇人化して、歯を剥き高く跳ねるように弦三郎に飛び交かる。


兄弟「ぐぅうるぅぅぅッ…」

    

兄弟の額に呪符が張り付けられるように飛んでくる。


朔夜「喼急如律令ッ」

    

兄弟たちの頭が吹き飛ぶ。返り血を浴びる弦三郎。

兄弟の崩れた先に朔夜が立っている。

呆然とその様子を見ている弦三郎が朔夜を怒りの表情で見上げる。


深月「何してんだよッ、テメーッ!」

    

思わず胸ぐらをつかむ弦三郎。

朔夜、悲しげな表情で弦三郎を見て小さく首を横に振る。

弦三郎、一瞬、子供が悔しがるような表情をする。

が、すぐにいつもの表情に戻り。胸ぐらから手を離し


深月「血、浴びちゃったけど、うつったりしないですよね?」

朔夜「傷口や粘膜を媒介しなければ、おそらく。それより…」

    

ウズメと戦っている侍たちの方に視線をうながす。


朔夜「あの化け物は…あれでも人間だそうです……やはり切るのはつらいですか?」

深月「………。やれやれ、ホントに人使いが荒いなぁ…」

    

言いながら、ウズメの援護に向かう弦三郎。

その様子を見て微笑んでいる朔夜。


    

喜多院でも天海が微笑んでいる。



マウリシオ「あーぁ、良い手だと思ったんですけどネ~」

国綱「マウリシオ殿、このままではっ…」

マウリシオ「確かに少しマズイですネ…そろそろ呼び出しましょうカ?」

国綱「うむっ…」

    

険しい表情でうなづく国綱。

奥の間の上座の壁を押す。隠し扉が開き、さらに奥の間が出てくる。


#8と同部屋。そこに走り込む、国綱とマウリシオ。

ウズメが左手で侍たち2人の斬撃をかわしている。微妙な時間差でほぼ同時に

攻撃してくる侍たち。1人の刀を左手で受ける。その瞬間、もう1人が

ウズメに切りかかる。

「ボトッ」振り下ろした侍の片手が切り落とされる。

弦三郎だ。ウズメ、少しも焦った様子もなく


ウズメ「ヘエ、取り乱してた割には、見事なもんじゃねーの」

深月「剣の腕なら僕の方が上みたいですね」

ウズメ「あ? なに余裕こいてんだよ。別にお前が来なくたってなぁ…」

深月「そこ張り合いますか?(クスッと)じゃあこっちは引き受けますから、

   あっちの方は頼みますよ。あの子たちのためにも…」

ウズメ「ケッ、らしくねえな…言っただろうガキは嫌いなんだって……

    ま、あの野郎、笑い方ムカつくからぶっ飛ばすけどな」

    

微笑む弦三郎を置き、朔夜をチラと見てから、国綱たちの方へ向かう。

少し離れたところにいた朔夜も、うなづきウズメの後を追う。

侍の1人がウズメを追おうとする。その前に立ちはだかる弦三郎。

腕を切り落とされた侍が、落ちている自分の腕を踏みつけ

残された手で刀を引っぺがし、構える。


深月「うわっ、こっちはこっちでメンドウそう…」

天海「一人で大丈夫か?」

深月「大丈夫じゃないって言っても、なにもしてくれないんでしょう?」

天海「そうじゃの。コイツラにはできることは無さそうじゃ」

    

目の前の侍が薙ぎ払うように切りかかる。

弦三郎、とっさに刀で受ける。身体が後ろにはじき飛ぶ。


深月「ってー…ホントに人間なのかな~」

    

2人の侍が休む間もなく切りかかってくる。

身体をひねらせ、刀でいなして何とかかわす弦三郎。

その表情に、いつもの余裕はない。

刀をかわし、自ら後ろに跳ぶ。


深月「――ッ!」

    

向かって左斜め前に両手のある侍、同じく右斜め前に片手の侍が

ほぼ同じ距離に立っている。


深月オフ声『いっぺんに切り掛かられたら…』

    

考えながら片手を袖に入れる


深月オフ声『クナイはもうない…式神を飛ばしている暇もない…か』

    

2人の侍が察したかのように、ゆっくりと身体を落とし

切り掛かる準備をする。

「ダンッ」と同時に跳ね上がり弦三郎へ切り掛かる。


侍たち「ぐるあぁぁっっッ」

    

すかさず右手で左の侍に何かを投げつける。侍は顔の前に飛んできた

ソレを柄で弾き、動きが一瞬止まる。

弦三郎はそのまま左斜め後ろに跳び、もう1人の片手の侍の正面に立つ。

片手の侍はそのままの勢いで弦三郎を上段から切り伏せる。

弦三郎は片手の侍の振り切った刀の上に乗っている。

片手の侍が再び刀を振りかぶる。その勢いを借りるように

弦三郎が上へと飛び、逆さまになって天井を蹴る。

片手の侍が刀を振り下ろすより早く、弦三郎が腕ごと片手の侍を

真っ二つに切り伏せる。

片手の侍の身体が崩れるより速く、もう1人の侍に構える弦三郎。

残された侍の表情がわかりづらいながら微妙に変わる。

そして刀身を右肩に乗せ、左足を前に出し、重心低く構える。


天海「気を付けろ…ガガッ…」


弦三郎が床を見ると天海の人形が少し欠けた状態で転がっている。


深月「あ、御坊様、ご無事でしたか?」

天海「人を投げつけておいて…ガガ…なにが「ご無事でしたか?」じゃ…ガッ…

   解脱(げだつ)が一瞬でも遅れておったら、儂だとてただでは…ガガ…

   すまんところじゃったわ…」

 

天海の声が、ラジオが混線したかのように聞きづらくなっている。


深月「まあまあ、それより気を付けろって…」

天海「あの構え…ガガッ…戦場(いくさば)での構えじゃ。あの者、相当の腕じゃぞ…」

深月「そっか、あんなになっちゃったとはいえ、本来戦国の武者なんですよね…」

    

弦三郎、礼に応えるかのように、背筋を伸ばし、右下段に構えをとる。


侍「ぐうぅぅ……」

    

間合いを測るかのように動かない2人の間の空気がが張り詰める。

弦三郎がピクッと刀の刃先を返す。ほぼ同時に侍が跳ねるように

左手だけで袈裟切りに切り掛かる。いままでのどの斬撃よりも速い。


侍「があぁぁぁぁッっっ!」

深月「シッッ」

    

弦三郎も前に跳びながら、逆袈裟に刀を振る。

2人が交差していき違う。


侍「ぐうわあぁっ…」

    

侍の左手が薬指の間から肩、そして喉元にかけてまでを

一文字に切り割られている。血が噴き出す。


侍「があっ…」

    

残された右手で刀を振り上げる。弦三郎、振り返り構えを取る。

侍、右手の刀を逆手に持ち直し、自分の腹に突きたてる。

左から右に切り開きながら、上座の部屋の方を見る。


侍「ぐうるるる…」

    

まるで国綱に謝るかのように、頭を下げ、そのまま崩れ落ちる。

弦三郎、呆然とその死に様を見ている


深月「………」

    

思い出したように、天海の人形を拾い上げると


深月「……なんなんですかね…この胸くそ悪い感じは……」

天海「…ガッ…顔が…少し凛々しくなったんではないか?…」

深月「からかわないでくださいッ」

天海「それより、儂もこのざま…では…後は…ガガ…あの二人に任せるしか

   なさそうじゃの……」

 

弦三郎も奥の部屋の方を見て


深月「そうですね…」


                                 つづく


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