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きひつかみ~ウズメ陰陽奇譚~  作者: あまみわつき
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第3話

#18 慶長6年 11月 宇都宮藩 多気(たげ)城址 城門外


昼。山のところどころに(くるわ)の建てられた山城の中腹を越え、

山頂部に差し掛かったところに城壁が立っている。


多気城の本丸の屋根に弦三郎の飛ばした白い鳥の式神が止まっている。


一方、その城壁の前にウズメ、朔夜、弦三郎の3人が城の見取図を広げている。

弦三郎に首からは天海の人形が下がっている。


深月「ここまでまったく攻撃がないってことは、敵さん、ぜーんぶこの中に

   いるんでしょうね…」

天海(人形)「本丸を取り囲むように、四方に蘇人がウヨウヨしておるわい。

   しかもどこから入っても、すぐにそこに動けるように上手く配置してある」

朔夜「ウズメ、どこから入る?」

深月「3手に分かれますか?」

ウズメ「………」

    

その時、山の下方から声がする。


声「おーいっ、待たれよッ」


声の方を見る3人。甲冑姿の秀綱と、やはり甲冑姿の若い武士3人が

駆け上がってくる。


深月「秀綱様…」

    

秀綱、息を切らせながら


秀綱「なんとか間に合いましたわ」

深月「いったい何で? この件は公にはしないと…」

秀綱「(さえぎるように)コレらは我が一族の者です。公にするなとは言われ

   ましたが敵を前に指を咥えて見ていろとは言われておりません。

   ご助成いたすべく参上仕りました。なに、一族の者だけなら大した

   騒ぎにもなりますまい」

    

無言で顔を見合わせながら苦笑する3人。   

秀綱は鼻息を荒くしたようにしゃべり続けている。

が、その足元は震えている。


秀綱「私、生来の三河(みかわ)(しゅう)ではありませぬが、殿のご信頼を

   経てからのこの三十年…そもそも徳川の武士の気風というものは…」

    

しゃべる秀綱の顔の前に、ウズメが呪符の束を突きつける。


ウズメ「この呪符を城の城壁にぐるっと貼っといてくれ。二刻(ふたとき)経っても、

    アタシたちが戻らなければ、こいつが燃えるように(しゅ)をかけておく。

    頼んだぜ」

秀綱「ウズメ殿…」

天海「万に一つの備えじゃが、重要なお役目ですぞ。秀綱殿、引き受けて

   くださいますな」

深月「大丈夫ですよ。僕は帰ってこない気なんて

   これっぽっちもありませんから」

    

その時、誰が開いたわけでもなく城門が開く。

ビクッとする秀綱。無言で城門の方を見る3人。


深月「どうやら上から見てたのは御坊様だけじゃなかったみたいですよ」

天海「そのようじゃの」

ウズメ「せっかくのお誘いだ。行ってやろうじゃねえか」

    

ウズメの表情のは微笑すら浮かんでいる。

城門へと向かう3人(と天海)。


天海「高見の見物なぞ川中島以来だわい」

ウズメ「かわな…何だよソレ?」

天海「…なんでもないわい」


余裕の3人を見送るしかない秀綱たち。


秀綱「………」


#19 慶長6年 11月 宇都宮藩 多気(たげ)城址 国綱の間


部屋には国綱と宣教師。そして3人の武士。

水晶玉で城門の様子を見ている黒衣の宣教師・マウリシオ。

嬉しそうな表情。

一方、国綱はこれまでの気弱で余裕のない表情に戻っている。


国綱「マウリシオ様、なぜわざわざ…」

マウリシオ「こういうのニホンゴで「お手並み拝見」って言うのですよネ?」


#20 慶長6年 11月 宇都宮藩 多気(たげ)城址


おびただしい数の蘇人たちが、3人に襲い掛かってくる。

蘇人たちに意識はなく、生物に本能で反応するように襲い掛かってきている。

ウズメが呪符を宙に投げる。蘇人たちの前に呪符が並ぶ


ウズメ「喼急如律令!」

    

呪符が破裂して蘇人たちを吹き飛ばす。四肢がバラバラになりながら

後ろにはじけ飛ぶ蘇人たち。

     

朔夜の周りにも蘇人たちが囲みこむように襲い掛かる。

朔夜は2本指で格子状に早九字を切り


朔夜「臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!」

  「ドーマンッ!」

    

朔夜を中心に蘇人たちが円形にはじけ飛ぶ。


弦三郎に天海(人形)が嬉々と話しかける。


天海「ほうッ、やりおるわい。ホレホレお主も負けておれんぞ」

    

弦三郎は、相変わらず蘇人たちをヒラヒラとかわし

梵字の彫り込まれた刀で切り伏せながら


深月「べつに競い合ってるわけじゃありませんよ。不謹慎ですよ」

天海「わ、わかっとるわい…」

深月「まったく…」

    

弦三郎は右手で持っている刀を胸の前に持ち、左手の人差し指をたて

柄ごと右手に握り込み印を結び


深月「オン・アビラウンケン・バサラ・ダトバン」

    

真言を唱え終わるや、疾風のような速さで円を描くように走り抜ける。

時間差で切り伏せられた蘇人たちが崩れ落ちる。


3人対大勢のゾンビ軍団との死闘。ウズメの表情は笑っている。

城の四方から、倒しても倒しても後から出てくる蘇人軍団。

徐々にひとところに追い詰められていく3人。


深月「これじゃあ、いつまでたっても城にたどり着きませんよ…」

ウズメ「……朔夜、道を開けるから先に行けるか?」

朔夜「わかった」

    

ウズメが一歩前に出て、蘇人たち群れと対峙する。

左手を持ち上げ手袋を外す。

左手の手首くらいまでが黒く変色している。その五指の爪のあるべき所に

穴が空き、その穴から無数の蛇のようなミミズのような細長い生物が

ウニョウニョと出てきている。


深月「げっ」

    

ウズメ、左手を顔の前にかざし


ウズメ「汝、我の名と五行(ごぎょう)相性(そうせい)相剋(そうこく)(ことわり)において、

    我に使役せよ!喼急如律令!」


ウズメの左手をその生物が長く伸びて、指先から巻き付いて鎧の様に

変化してひじの手前位までを覆っていく。


喜多院でその様子を見ていた天海が驚きながら嬉しそうに


天海「ほぉ、自らの腕を依り代に妖魔を式神にしておったか…

   長生きはするもんじゃわい」


ウズメの左手がこれまでの倍くらいの大きさの硬質で

いびつな形状に変化している。

その腕を土の中に突き刺し


ウズメ「バン・ウン・タラク・キリク・アク」

   「土粧(どしょう)!」

    

と叫ぶ。地の中を這った式神が幾重にも別れ、蘇人たちの足元から

出てきて蘇人たちに絡みつく。


ウズメ「(さん)ッ!」

    

養分を吸い取られたかのように、一気に瓦解する蘇人たち。

城の入り口までの道が開く。

朔夜が駆け出して城へと向かう。

腕を土から引き抜く。生物たちが再び左手へと巻き付きいびつな形状に戻る。

弦三郎が声をかける。


深月「へえー、安倍氏の末裔(まつえい)って言うから、どんなお上品な式神が

   出てくるかと思ったら……」

ウズメ「禊祓(みそぎはらえ)なんて言ったって、所詮は化生(けしょう)の技、

    そんな技を使うヤツも、所詮は化生の者……そっちの爺さんだって

    似たようなもんだろう?」

天海「言いよるわい。その手袋は封印のためであったか…」

ウズメ「意地汚いやつでね、手袋(コイツ)がないとどんどん浸食(くわ)れちまうんでね…」

深月「なんでそんなものを祓いもせずに、式神に?」

ウズメ「好きで祓ってねえわけじゃねえよッ…」

深月「エ?」


ウズメ、意地悪く微笑みながら


ウズメ「とはいえ、気に入ってないと言えばウソになるかもな。

    案外、爺さんだって今ごろウズウズてるんじゃねえの? 

    化生の者の(さが)ってヤツで」


喜多院。水鏡を見ていた天海、嬉しそうに笑い


天海「嬢ちゃん、ここは儂と弦三郎でなんとかする。おぬしも早く本丸へ向え」


再び、ウズメと弦三郎(と天海)。


ウズメ「ホラな」

深月「エーッ、なんとなくやり過ごそうと思ってたのに…」

ウズメ「まかせたぜ。。(天海に)あと爺さん、嬢ちゃんじゃねえっ」

    

ウズメが屋敷の中に走る。


深月「しょうがないな~」

    

弦三郎が、呪符の彫られたクナイを4本取り出す。

柄には糸が結ばれているのがわかる。

素早い走りで蘇人を切り倒しながら、それを四方の地面に突き刺していく。


喜多院。天海が両手で独鈷印(とっこいん)を結びながら

火界咒(かかいしゅ)を唱えている。


天海「ナマク・サラバ・タタギャティビャク・サラバ・ボッケイビャク・

   サラバタ・タラタ・センダ・マカロシャダ・ケン・ギャキギャキ・

   サラバ・ビキンナン・ウンタラタ・カンマン」


クナイでつながった糸に電気が走ったように、広範囲の結界が張られていく。

弦三郎、天海とシンクロして、動きながらも、その表情は半目で

ブツブツと呪文を唱えている。そのまま弦三郎が結界の中央に立つ。

蘇人たちが弦三郎に群がる。

弦三郎は刀を地面に向け持ったまま、自らも独鈷印を結んでいる。


天海・深月「……カンマンッ!」

    

刀を地面に突きさす。

結界内にいた蘇人たちが雷でも受けたように、四肢が崩れ落ちる。

弦三郎が立ち上がる。表情は元に戻っている。


深月「御坊様、結構疲れるんですよ。コレ…」

天海「まだもう2回位は、やらなきゃならんようじゃぞ」

    

結界の外に蘇人が集まり始めている。


深月「えーっ」

    

#21 慶長6年 11月 宇都宮藩 多気(たげ)城址 国綱の間


時間が少し戻る。

マウリシオが水晶玉をのぞき込んでいる。

ちょうど、ウズメが左手で蘇人たちを倒し、朔夜が走りこんで

くるところが映っている。


マウリシオ「ホゥ、面白い術ですネ」

    

国綱が心配そうにマウリシオに


国綱「マウリシオ殿、こちら向かっておるぞ…いかがいたそう」

マウリシオ「大丈夫ですよ。まだあの3人がいますカラ」

    

マウリシオ、控える3人の侍たちを見てから、国綱に近づき


マウリシオ「国綱様、アナタは契約者(けいやくしゃ)なんですヨ。安心してくだサイ」

国綱「それはそうだが…」

マウリシオ「それに…」

    

傍らに縛られ猿ぐつわをされた2人の兄弟らしき子供たちインサート。

国綱、意を決したように3人の侍たちに向かって


国綱「彼奴(きゃつ)らが来たら、必ず切り捨てよッ! 代々伝わるこの宇都宮の

   地を必ずわが手に取り返すのじゃ!!」

    

返事もなく、不気味に立ち上がる侍たち。

狂気の表情の国綱。それをニヤリと見ているマウリシオ。

    

                                     つづく

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