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きひつかみ~ウズメ陰陽奇譚~  作者: あまみわつき
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第1話

1600年に起こった「関ヶ原の合戦」において徳川家は圧勝をおさめ、

天下は徳川家に傾きつつあった。そんな折徳川のあずかりとなっていた宇都宮藩で

村人が一斉に行方不明になりという奇異な出来事が起こる。

真相を確かめるべく家康と天海は、秀吉の世において冷遇され廃れつつあった陰陽寮の復活と引き換えに、陰陽の一族、安倍家の末、土御門久脩(つちみかどひさながに、安倍家が貴族となる際に分家した、妖魔退散などの畏れ・穢れの祓いを専門とする一族の長女・ウズメに事の調査を依頼させる…


小説ではなく漫画原作のつもりで、シナリオ形式で書いた作品になります。


#1  慶長6年(1601年) 8月 宇都宮藩 農村部


貧困にあえぐ農村。田畑は涸れはて、荒みきっている。

墓穴にも見えるような穴がいくつも空いている。


少女の姉妹が泣きじゃくっている。視線の先には痩せこけた村人風の

男女の後ろ姿。


少女「やだよー。母ちゃん、ヤメテよー」


シルエットで泣き叫びながら、大人たち二人に担がれ

いまにも喰われそうな少女たち。



#2  慶長6年 9月 京都 伏見城


謁見の間。

部屋の中は上座が空いており、左右に本多正信と天海が座っている。

部屋の中央には公卿、旧陰陽頭(おんみょうのかみ)土御門(つちみかど)

久脩(ひさなが)が緊張した面持ちで座っている。


そこに徳川家康がやってくる。


家康「やあ、やあ、これは久脩殿、お久しゅうございますな」


久脩、地面に頭をこすりつけるように


久脩「これは内府様、こたびの関ヶ原でのご完勝、祝着至極に存じまする」


家康、人なつこそうな笑顔で


家康「ありがとうございまする。しかしまだまだ、これからでござるよ。

   それより御呼びたてしたのは、じつは亡き太閤様によって

   実質廃されていた陰陽寮を復活させませぬかと思いましてな」


久脩、顔を上げ驚きながら


久脩「ま、まことでございますか?」

家康「うむ」

久脩「あ、ありがとうございまする。謹んでお受けいたしとうございまする」


天海が咳払いをする。天海の方を見る家康と久脩。

正信は予定通りといわんばかりに顔も上げない。


天海「じつは久脩様、陰陽寮復活につきまして、一つだけ条件がございます」

久脩「じょ、条件でございますか?」



#3  慶長6年 11月 宇都宮藩 農村


荒れ果てた人っ子一人いない農村に立つ四人の人影。


左手に黒い手袋をした見るからに勝気そうな少女・ウズメ

手袋の甲の部分には星形の護符が書き込まれている。


六壬式盤(りくじんちょくばん)ををもった痩躯の男・朔夜


前髪も残った若侍姿の深月(みづき)弦三郎(げんざぶろう)


宇都宮藩の管理を任されている重臣・大河内(おおこうち)秀綱(ひでつな)の四人。


弦三郎「ホントに人っ子一人いないや…」

秀綱「最近、山あいの小さい村々で次々にこのような事が起こっているのです。

   最初は村全体で夜逃げかとも思いましたが、どの村々もこの荒れようで

   そのくせ家財道具はそのまま残っていて…どうも尋常な事ではないと

   思いまして…」

弦三郎「獣や野盗にしては肉片の一つも残ってないし…(ウズメに)どう思います?」


ウズメ、言葉は無視して土に手をあてている。


弦三郎「ねえ? ねえ? 聞いてます?」

ウズメ「ウルセーぞ、クソガキッ!」


無言で聞いていた朔夜、うずめに近づき


朔夜「で?」

ウズメ「全然ざわざわしねえ…」

    

ウズメ、少し先にある、いくつも空いた、土穴に気づき


ウズメ「あれは?」

秀綱「あれはおそらく、墓穴かと思います」

弦三郎「えっ? 死体まで掘り返して持ってったってことですか?」

秀綱「さあ…」

ウズメ「………」



#4  慶長6年 9月 京都 伏見城


#2からの続き。


天海「土御門家は、室町のころ、安倍氏が半家へとあがり、土御門家と

   名乗る折、天文や暦、祈祷以外…すなわち退魔妖散、呪詛(じゅそ)

   呪禁(じゅごん)などの穢れ(けがれ)仕事を主としていた一族を分家

   として切り離したそうにございますな?」


久脩、あきらかに狼狽した様子で


久脩「…は、はて…何のことでございましょうか?」

天海「なにも責めているのではございません。じつは此度(こたび)、上様の御外戚の

   奥平おくだいら家昌(いえまさ)様が入部なさる宇都宮の地で、いささか面妖なことが

   起きておりましてな…ぜひそのご一族のお力をお借りしたく存じまして」

久脩「そのような事でございますれば、私めが直々に…」

天海「黙らっしゃいッ!」


ビクッとなる久脩。


天海「宮廷陰陽道を行う()(ぎょう)様には手が負えぬと申し上げておるのです。

   それとも穢れ畏れ(けがれおそれ)を御身(おんみ)に受けて、土御門の名を捨てる

   お覚悟がおありか?」

久脩「ぐっ………」

家康「まあまあ御坊殿、そう声を荒げずとも……のう久脩殿、儂はいずれ

    受けることになるであろう将軍宣下の儀式をぜひ久脩殿にあげて

    いただきたいんじゃ。いかがであろう?」

久脩「それは、有難きお言葉なれど……」


これまで黙っていた正信がジロリと見て


正信「久脩様、これはお願いではなく、殿のご命にございますぞ」

久脩「………」


困り顔の久脩。



#5  慶長6年 10月 京都 伏見城


謁見の間。

部屋にはやはり左右に正信、天海。上座にニコニコ顔の家康。

その前に平伏している久脩とあぐらをかいて家康を見ているウズメ。


久脩「こらッ、頭を下げぬか…」

家康「久脩殿、よいよい。まさか姫であったとはな…」

久脩「は、恥ずかしながら女だてらに…」

ウズメ「(さえぎるように)ウズメだ」

久脩「はっ?」

ウズメ「姫じゃない、ウズメだ」

久脩「こ、こら内府様になんと無礼な…」


家康、嬉しそうに喰いつき


家康「これは失礼いたした。してウズメひ…」


ギロッと家康を見るウズメ。


家康「ウズメ殿…大まかな話は久脩殿から聞いておろう。どうじゃ

   力を貸してくれぬか? このとおり」


あっさりと手をつき頭を下げる。

正信、天海ともに動かない。

久脩はあまりの事に動けなくなって、家康とウズメを見ている。


ウズメ「公卿でも武士でもない、ただのはぐれ陰陽師に天下様がいったい…」

家康「ほうッ…はぐれ陰陽師とな?」

    

さえぎるように、ジロリと打って変わった表情の家康。久脩はあわてて


久脩「い、いえっ、内府様、女とはいえ正当な安倍氏の…」

家康「いま巷では、世情の不安からか、はぐれ陰陽師であふれかえっておるそうだの?

   しかし、そのほとんどが眉唾だとも聞くが、もしやその方も…」

久脩「あ、いや、決してそのようなことは…」

    

ウズメを見る家康。ウズメ、平然と見返し


ウズメ「試してみるかい?」

    

無言で2人の視線が交錯する。


天海「喝ッ!」

    

天海の方を見るウズメ。家康が大声で笑う。

家康「ははははッ、冗談じゃ。冗談。

   もう一度頼む。このとおりじゃ。力を貸してくれ」

    

家康、先ほどより深く頭を下げる。


ウズメ「………」

家康「御坊殿、あとはお任せいたしましたぞ」

天海「かしこまりましてございます」    

家康「怖い怖い、退散じゃ」

    

ひょうげた感じで出ていく家康。無表情のウズメ。



#6  慶長6年 10月 京都 伏見城


別室。

向かい合って座る天海とウズメ。

互いの奥に控えるように弦三郎と朔夜が座っている。


天海「いやいや、肝を冷やしたわい。で、どうじゃった徳川家康公の感想は?」

ウズメ「……食えないオッサンだ」

天海「なんせタヌキ親父だからの。もっと恐ろしいお方かと思っておったか?」

ウズメ「フンッ。何千も殺して1年ほどしか経ってないのに、ああやって笑える方が

    かえって恐ろしいぜ…」

    

ぷいっと横を向くウズメ。感心した感じの天海。


天海「ほう…ならば亡き太閤(たいこう)様はどう思う?」

ウズメ「フンッ…ありゃまるで、憑き(つきもの)(つき)だな」

天海「ふむ。儂も同じ考えじゃ…そして、やっと憑き物が落ちて、今度こそ

  天下が安んじようというときに、江戸より北辰の方角に大きな魔の

  気配が表れておる」

ウズメ「………」

天海「そちらは?」

朔夜「朔夜です」

天海「安倍のご一党か?」

朔夜「…の、ようなものです」

天海「その(りく)壬式盤(じんちょくばん)…星は読めるかね?」

朔夜「…少しなら」

天海「なんと視る?」

    

式盤で占う朔夜。しばらく考えて


朔夜「……()(ごう)…」

天海「(うなづき)そう。羅喉の星が居座り続けておる。これを払拭(ふっしょく)せぬ

   限りは安寧(あんねい)の時代は来ない」

    

あきらかに興味が惹かれたようにウズメの表情が変わる。


ウズメ「その原因が宇都宮にあるってのかい?」

天海「さあ、そんなこと行ってみんとわからんわい」

   

しれっと力の抜けた感じで言う天海。ウズメ、あっけにとられる。


天海「(ニヤリと)どうじゃ、興味が出てきたろう?」

ウズメ「……。爺さん、アンタ、さっきまでとずいぶん雰囲気が違わないか?」

天海「(飄々(ひょうひょう)と)そんなことあるまいて」

ウズメ「………行っても手を貸すとは限らないぜ」

天海「(無視して)目付としてこの男を帯同させる。少しは役に立つだろうて」

ウズメ「イヤ、だから…」

深月「(これも無視して)そんな期待させるような事言わないでくださいよ。

   どうも、深月弦三郎です。えっと…」

ウズメ「……ウズメだ」

深月「じゃあ…うーちゃん?」

ウズメ「ぶっ殺すぞ」

深月「アハハ、口が悪いなー。せっかく可愛いくてお乳も大きいのにもったいない」


朔夜がピクッと反応する。弦三郎、笑顔のまま


深月「まあまあ、くっついてっても見てるだけなんで、あまり期待しないでくださいね」

ウズメ「………」


    

#7  慶長6年 11月 宇都宮藩 農村


    

別の農村。ウズメ、朔夜、弦三郎、秀綱の四人。


秀綱「ここが数日前に神隠しにあったばかりの村です」

    

3人が調べていると、納屋の方でガサゴソと音がする。

緊張した表情で、扉を開ける。誰もいないが音がしている。

床板を外し、床下を開けると、痩せこけた一人の少女が表情も

うつろに身震いしている。   

弦三郎と朔夜が拾い上げる。


少女「いやだぁぁぁ」

    

怯えて逃げようとする少女を支える弦三郎。


深月「大丈夫だから。なにがあったんだい?」


少女、うわ言のように


少女「フ、フクインのタネ…お化けが出てきて、おっ父もおっ母も喰い合うの…」


と意味不明の言葉。

空気が変わる。朔夜がが気づき


朔夜「オイ…」

    

ウズメと弦三郎も気づいて表情が締まる。

ゾンビ化した野犬の群れが襲う。


少女「イヤァァァ」

秀綱「こ、これはいったい…」

朔夜「(ウズメに)まったく感じなかったのか?」

ウズメ「ああ、まったくザワザワしなかった…」

朔夜「(あやかし)の類ではないってことか」

ウズメ「だろうな」

    

数匹のゾンビ犬が5人を取り囲み、襲い掛かる。

秀綱が刀を抜き、切り倒そうとするが、切られても立ち上がってくるゾンビ犬たち。


秀綱「ひっ、た、確かに切ったのに…」

ウズメ「これは……」

深月「その刀じゃ切っても死にそうもありませんよ」

秀綱「エッ?」

深月「この子を頼みます」

    

少女を秀綱に預けるとそれを守るかのように囲む3匹。

ウズメは懐から右手で呪符(しゅふ)を取り出し、力を込めながら


ウズメ「喼急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!」


襲ってきたゾンビ犬の頭に呪符を投げつける。

弾き飛ばされるゾンビ犬。頭がジュワと焼けるが中身は空っぽ。

朔夜は式盤の上に紙の形代(かたしろ)を置き、(みことのり)を唱える


朔夜「木火土金水(きひつかみ)神霊(かむたま)(いづ)御霊(みたま)

   (さきわ)(たま)え…青龍ッ!」


形代が変化して竜が現れ、襲い掛かってきたゾンビ犬を弾き飛ばす。


秀綱「ひええっ、い、いったいこれは…?」


とぐろを巻くように秀綱と少女を囲み、襲い掛かってくるゾンビ犬にかみつく。


深月「ち、ちょっと、僕もそっち側に入れてくださいよ」

    

ヒラヒラとゾンビをかわしながら、のんびりした口調で言う弦三郎。

朔夜、顔も見ずに


朔夜「自分でなんとかしてください」

深月「そんなぁ、僕は見てるだけって最初に言ったじゃないですかぁ。

   ねえウズメさんもなんとか言ってやってくださいよ」

ウズメ「別に死んでもかまわねえぞ!」


言いながらゾンビ犬に応戦するウズメと朔夜。

襲い掛かってくるゾンビ犬をヒラヒラとかわしながらブーたれる弦三郎。


深月「ちぇっ…」

    

不服そうに刀を抜く。刀身には梵字で密教的な護符が彫り込まれている。

同時に襲い掛かってきたゾンビ犬2匹をあっさりと切り捨てる。

切り捨てた後に、まだ不服そうにため息をつく弦三郎。

秀綱、驚きながらも少女をしっかりと抱きしめている。

目の前の光景に、少女の瞳に少し力が戻り、正気を取り戻す。


秀綱「な、なんなんだアンタらーッ…」


村の一番高い木のてっぺんでその様子を見下ろすカラスが一羽。



#8  慶長6年 11月 宇都宮藩



廃墟のような場所。薄暗い。

水晶玉を黒衣の宣教師の外国人・マウリシオが覗きこんでいる。

水晶玉にはウズメたちのいる農村の様子が映し出されている。

傍らには落ちぶれた感じの中年の武士・宇都宮国綱が

ハラハラとした表情でいる。

感心したような表情のマウリシオ。


マウリシオ「ヘエ…こんな人たちもいるのですネ…」

国綱「マウリシオ殿…ホントに大丈夫なのでしょうな…」

マウリシオ「大丈夫ですヨ。安心してくだサイ」

    

嬉しそうな表情でさらに水晶玉をのぞき込む。

ウズメの手袋の五芒(ごぼう)(せい)に気づく。


マウリシオ「!? コレハ…」


部屋には逆さ五芒星と山羊の頭などが祀られた祭壇が置かれ

床には魔法陣のような円が描かれている。


                                 つづく

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