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コオロギ  作者: 幻中 六花
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明日に架ける橋

 あの日、明日架と出会ってから、友詞は気まぐれではあるものの、あの場所でストリートライブをすることが増えた。友詞も明日架に会いたかったのだ。

 けれど、そううまくはいかず、明日架とは1週間ほど会えない日々が続いていた。


 ──明日架っていいます。明日に架ける橋の、明日架。


 明日架と初めて会ったあの日、名前を聞くと、明日架は知ってか知らずか『明日に架ける橋』と言った。

 音楽が好きな友詞にとって、その言葉には聞き覚えがある。アメリカのフォークデュオが歌っていた有名な歌だ。


 外では人の歌をあまり好んで歌わない友詞だったが、明日架にもう一度会いたいと思う気持ちが、その歌を歌わせた。道ゆく人は、知っている曲を歌っている友詞の綺麗な歌声に惹かれて立ち止まったり、拍手を贈ったりする。

 英語は特別得意というわけではなかったが、友詞は耳がいいので、聴いたままに発音することで『それっぽい』洋楽に聞こえる。


「あ……」


 それっぽい洋楽の歌声につられて足を止めたのは、明日架だった。

「……!」

 一瞬驚きのあまり手と声を止めてしまった友詞に、明日架は

「続けて」

と言い、友詞の横に立った。


 歌い終えた友詞に明日架は拍手を贈り、

「洋楽のカバーもするんですね」

と言った。

「いや……いつもはしないんですけど」

「また声聴けるなんて嬉しいです」


「なかなか会えませんでしたね」

 思わず友詞がもらした本音に、明日架はクスッと笑って

「会いたいと思ってくれてたんですね。すみません、私も残業があったりなかったりで」

と申し訳なさそうに答えた。

「今の歌、『明日に架ける橋』ですよね」

「知ってるんですか?」

「私の名前、ここから取ったって聞いてから、この曲聴いたことがあって。綺麗な曲なので大好きなんですよ」


「友詞さん、連絡先交換しませんか?」

「え?」

「……ダメ……ですか?」

 明日架は普段、こんなに大胆な性格ではない。けれど、またいつ会えるかわからないままにするのが嫌だった。勇気を出して連絡先交換の提案をしてみたけれど、友詞が戸惑っているので、言わなきゃよかった、と思った。

「もちろんいいですよ。僕から言おうと思ってたのに」

 友詞はそう言って笑う。そして、

「今度は明るい時間に、どこか行きましょうか」

とデートに誘う。

「喜んで!」


 友詞と明日架はこうして友達になり、連絡を取るうちにお互いに使っていた敬語も取れた。

 どちらからともなく、相手のことを思いやる気持ちが全面に出てきて、2人は恋仲になった。


 明日架は友詞が自分だけのために歌ってくれることが嬉しかったし、友詞は明日架が自分の歌声を目を瞑って身体の芯まで染み込ませて聴いてくれることが嬉しかった。お互いに提供できる『嬉しさ』は、見返りを求めない愛の形だった。

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