1ー4、本当の不審者とは
二人は廊下でグラウンドを眺めながら、話をした。利用者が少なくてただでさえ静かな図書室で、これ以上ぺちゃくちゃお喋りするのは適切でないと考えたのだ。
こうして女子と並んで野球部の練習を眺める、これもまた青春ではなかろうか、太郎はこのシチュエーションに満足していた。
「で、どうして俺に声を掛けたの?」
真奈が変わった人間であることは分かったが、そんな人間を惹きつける魅力が自分自身にあるとは思えなかったのだ。
「塚本くん、山田悠介の本を手に取って言ってたでしょう。たまにはスリリングな展開もいいか、って。すごい変な人だなあって思って、好奇心から声を掛けちゃったんだ」
ーー声に出てただと?
真奈のことを不審者呼ばわりしたが、本当の不審者は太郎だったのだ。夢見がちな部分があることは自覚していたが、まさかこんなにオープンな不審者だったとは。太郎は己を恥じた。
「小説が好きなんだ」
「そうなんだ」
「うん。小学生の頃からずっとワクワクしながら読んでた。高校生になったらーー全部実際に起こるんだろうなって」
「え? あ、ああ、小学生の頃はそう思うよね」
「今でも思ってるよ」
ーー真奈は言葉を失った。