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1ー3、バイブル

「これが私のバイブルなの」

 大川真奈が取り出したのは、『もものかんづめ』著、さくらももこだった。

 裏表紙にバーコードが付いていないところを見るに、持参したものだろう。文具屋でシャーペンを振りかざすような紛らわしい行為であるが、まあここの本は売り物ではないし、良かろう。

「ちびまる子ちゃんのまる子は、私の人格形成に影響を与えた。なんだろう、決して陽キャじゃないんだけど、陰キャでもない。ご意見番みたいな立ち位置。憧れたなあ」

 大川真奈はまる子にインスパイアを受けた。真奈が小学生の時、世間では任天堂DSが流行していた。両親もおねだりされるだろうと思い、クリスマスには街のおもちゃ屋さんに下見に行った。しかし実際に真奈が欲しがったのは、ローラースルーゴーゴーであった。両親は金銭面以外でプレゼントの選択に困るはめになるとは思ってもおらず、途方に暮れたという。正月には、子どもたちはお年玉を心待ちにするものだが、真奈は何を勘違いしたのか年金が貰えると思い込んでいた。そのせいでお年玉を貰っても酷く反応が鈍く、親戚が一堂に会する場を微妙な雰囲気にしたという。

 高校生になると、さくらももこのエッセイにのめり込むようになった。その影響で、好奇心と面白さこそが人生を輝かせるエッセンスなのだと考えるようになった。

 太郎に話しかけたのは、彼女にとっては高校デビューのーーいや、さくらももこデビューの一環だったのだ。

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