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08.神器













 時間通りに作戦会議は始まった。リーリェンはいつも通りで、お茶請けの月餅などもぐもぐ食べている。話は進んでいるが、今のところ口をはさむ気はないらしい。というか、やはり見るたびにいつも食べている気がする。

「前回は何人で行ったんだっけ? 五人?」

「姫様を含めて六人か。シャンリンは?」

「私の時は八人だったわ。でも、何も襲ってこなかったわよ」

 リーリェンは祠にたどり着くことすら失敗しているのに、シャンリンは神器の様子を見て帰ってくることに成功している。この差は何なのだろう。リーリェンの運が悪いということはありそうだが、それにしても被害状況が違いすぎることを彼らは懸念している。リーリェンが自覚する通り、彼女が亡くなればもう後がないのだ。しかし、彼女を連れて行かないという選択肢はない。


「前回はリーリェン様が戦えるということで手数を減らしたんですが、次はもっと警備を万全にしましょう」


 その増員のための人員として、ルイシーたちが連れてこられたわけだ。自分の身の安全を確保するための会議なのに、リーリェンは相変わらずもぐもぐしている。


 リーリェンは戦闘力に入れない。それで合意した。そもそも、やることははっきりしているのだから、往復する道順と同行者の配置などを決めれば、大体作戦会議としては成立している。ここに至ってのんびりお茶を飲んでいたリーリェンがようやっと口を開いた。

「私が行くことに問題があるのではない。神器を修復しようとしている、ということに問題があるんだ。つまり、神器は誰かが意図的に壊したのだろう。それを直されては困るというわけだ」

「意図的に……? なぜです? 誰がそんなことを」

 尋ねたのはヨウリュだ。さすがに軍師のような立場にあるだけある。探るように尋ねられても、リーリェンはとても自由だった。

「誰か金華に結界が張られていては、都合の悪い人物がいるということだろう。まあ、それは今はどうでもいいんだ。誰が、どういう目的でなど、今回の行動には何の関係もない。今回私が赴くのは、神器を直すのが目的だ。それが完遂されれば、他のことは後でよい」

 きっぱりとした言いようだった。ヨウリュが一瞬目を見開いたが、すぐに言った。

「姿のない敵に翻弄されるより、明確な目的を完遂してしまおうということですね」

「そういうことだ。お前は軍師なのだったか。私も一人くらいほしいものだ」

「ご冗談を」

 ヨウリュが苦笑して応えた。これはヨウリュが勧誘されたと考えていいのだろうか。なんとなく、リーリェンは自分の行動を代行できる人物を探しているような気がする。


「おばば様には留守を頼む。できれば、ヨウリュにも金華の留守を頼みたいのだが」


 彼女としては、こちらが本題であったようだ。ヨウリュが「私ですか」と少々驚いたような表情を見せる。

「私が残っても、自慢ではありませんが、それほど戦力にはなりませんよ」

「当然だ。一人残ったところで、大した戦力にはならない」

 きっぱりとリーリェンが言いきった。ヨウリュが顔をひきつらせたが、リーリェンの言葉が『ヨウリュが』ではなく、『誰が残っても』一人なら大した戦力にならない、と言っているので、耐えたようだ。おそらく、リーリェンと本格的に語り合えるのはヨウリュだけだと思われるが、この二人、それほど相性がよくなさそうだ。


「別に金華が空になるわけではないからな。襲撃があった場合、外に出た私たちと挟撃すればいい」


 さらりと言われて、ルイシーは思わずヨウリュを見た。おそらくリーリェンは兵法を学んでいるのだろうが、それは本物の戦場を駆けた軍師に通用するのだろうか。

「……非常に合理的です。わかりました。承ります」

「ありがとう」

 ほっとリーリェンが息をつき、お茶をすすった。万が一は籠城戦をしてくれ、というわけだ。それなら、確かにルイシーやシャオエンが残るよりは、頭脳派のヨウリュが残ったほうがいいだろう。

 会議が終わった後、ふと思ってルイシーはシンユーに尋ねた。


「前回リーリェンが祠に向かったときに起こった不測の事態ってなんだ?」


 いくら妖魔の襲撃があったとしても、リーリェンが重傷で戻ってくるなど不自然だ。彼女は立場をわきまえた女である。自分がいなくなれば、金華を治めるものがいなくなることをきちんと理解している。

「ああ……ズーユンがついてきてしまって」

「行動力のある子だな」

「『銀葉』の剣士になりたいらしいですよ。で、まあ、それを姫がかばった。簡単に言うと、そういうことです」

 さくっと要点だけ述べられたが、ルイシーたちは納得した。リーリェンなら、確かにかばうだろう。心優しい少女であることはわかっている。


「本当はじっとしていてほしいんだけどなぁ」


 彼女の性格上無理だとわかっているから、シンユーも後をついて行くことにしているそうだ。

「俺、彼女とは小さいころからの知り合いなんですけど、まあ雰囲気は変わったけど、根本は変わってないですよね。おてんばなまま。最近、よくそれを思い出す」

 そう言ってシンユーはランウェンと話をしている自分の主を見て笑った。

「たぶん、ルイシーさんたちのおかげ。癪ですけど」

 なまじ事情を知っているだけに、何もできなかったのだ、とシンユーは不服そうだ。リーリェンとのやり取りを見ていてもわかる。仲が良かったのだろう。近すぎて、何もできなかった。外からやってきた何も知らないルイシーたちの方が、関わりやすいという面はあるのだろう。

「では、三日後はよろしくお願いします。俺も行きますけど」

「ああ。頼まれたからには全力を尽くす」

 それはそれでちょっと怖いですね、とシンユーは笑い、リーリェンを回収しに行った。














 借り上げた家に戻り、三日後の準備をしながら三人で話をする。この時間が、ルイシーは割と好きだった。

「ヨウリュはリーリェンと相性が悪そうだな」

「えー、可愛いじゃん」

 久々に口を開いたと思ったらそんなことを言うシャオエンである。ヨウリュは「まあ、美人ですけどね」と前置きしてから言った。

「たぶん、思考回路が私と似ているんだと思います。合理的すぎていら立つというか」

「性根は優しい女だぞ、あれは」

「わかっています。領民たちへの接し方を見ていれば、わかります。ただ、だから危ういような気もします」

 ヨウリュの懸念は、ルイシーも感じているところである。


 基本的には合理的な思考回路を持つ、優秀な領主である。しかし、根っこの部分では心優しい少女でもある。その相反する部分の折り合いをどうつけているのか不思議なところである。彼女は領民たちの前では領主であらねばならない。助けてくれるはずの家族は彼女を顧みない。だから、ヨウリュは「危うい」と評したのだろう。

「……どこかで崩れたりしないといいんですけど」

「そうだな」

 リーリェンの内面のことだ。うかつに踏み入ることはできない。ランウェンもシンユーも、ルイシーたちが来てから彼女は楽しそうだと言うが、身近で見ている人による比較なので、はたから見れば変わっていないように見えるのだが。

「とにかく今は神器です。気を付けて行って来てくださいね」

「承知した」

 ルイシーは苦笑してそう答えたが、シャオエンは「やっぱりお母さんっぽいよな」とヨウリュに面と向かって言い、殴られていた。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


リーリェンは独善的に見えますが、人の意見を聞ける子です。

その上で「責任は取る」と言えるタイプ。


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