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明日が見えなくても  作者: 雲居瑞香
別版の話(IFルート)
42/48

特別編:その5

前半はルイシー視点の男子会。

後半はリージュ視点の女子会。

及び、R15注意報。














 シャオエンとシンユーが戻ってきた。慣れない行軍でシンユーは半泣きだが、無事に帰ってきたのなら上等だ。わかりにくかったが、リーリェンも喜んでいた。シンユーなんかは、


「姫様が可愛く見えた。重症」


 などと自分に診断を下している。シャオエンは「普通にかわいいだろ、リーリェン様は」と笑い飛ばしている。

「まあ顔は美人ですよ。うん。でも、可愛いと思ったことはないですね」

 きりっとして言われても。とりあえず、シンユーとシャオエンの気が合うようでよかった。

「というか、ルイシーさん、顔色悪くありません?」

 ふとシンユーが尋ねた。ここはリーリェンが解放している内朝の一室である。リーリェンは広大すぎる禁城の多くの建物を閉鎖した。その中の一つである。

「それ、聞いちゃいます?」

 忙しいのにシャオエンとシンユーが帰ってくるからとこの謎の会合(男子会)に参加しているヨウリュがあきれを半分にじませて言った。


 突然だが、ルイシーとリーリェンはかなりの体格差がある。ルイシーはこの国の成人男性に比べれば長身であるし、リーリェンは背丈こそ成人女性の平均ほどだろうが、体格はかなり華奢だ。二回りは体格の大きいルイシーと同じ量の食事を平らげているので、それらはいったいどこへ消えているのか、かなりの謎である。

 まあ、これは事態の原因ではない。原因は、ルイシーが自分とリーリェンの体格差にしり込みしたことだ。簡単に言うと、致せなかったのである。


 ルイシーとリーリェンはいつも一緒にいるわけではない。特に夜、寝所は分かれていた。だが、ルイシーはもちろん、リーリェンにもお互いに触れたいという欲求がある。そして、その欲の大きさが二人の間で、少し差があるのだろうと思う。

 ルイシーが請い、リーリェンが許可を出した。口づけを、リーリェンは拒まなかった。そのまま寝台に押し倒しても抵抗しなかった。体に触れるとくすぐったがって身をよじった。嫌がってはいなかった、と、思う。


 だが、怖がった。怖がるだけなら強引に進んだかもしれない。それくらいの信頼関係がある。だが、リーリェンの瞳から涙がこぼれるのを見て、ルイシーは行為をやめ、泣き始めたリーリェンを抱きしめて慰めた。

 正直、その気だったルイシーはかなりつらかったが、リーリェンは性的に触れられるのは怖いようだったが、単純に触れられるのは好きなようだった。抱きしめてほしいと言うので、リーリェンを抱きしめたまま眠った……のは、リーリェンだけだ。この状況が五日続いている。ルイシーは好きな女性を腕に抱いたまま眠れもせず夜明けを迎えているわけだ。


「これぞ本当の生殺し」

「聞いてる方にとってはあきれた話ですけどね」


 ヨウリュに冷静に突っ込まれ、ルイシーはため息を漏らした。他人事ならルイシーも面白がるだろうが、当人だと笑い話にもならない。かなりの死活問題だ。

「単純に何されるかわからなくて怖いのでは?」

 シャオエンが珍しくうがったことを言うが、たぶん違う。

「それはないと思いますけど……さすがに、領主を継ぐことが決まった時点で、そのあたりは教育されていると思います」

 リーリェンの前では取り乱していることの多いシンユーだが、彼は案外落ち着いた人物だ。そもそも、冷静さがなければ、領主の護衛など任されないだろうが。

「……まあ、そうだろうな……どちらかと言うと、俺がしり込みしているのを察して、それにおびえている感じだ……」

 ルイシーの緊張がそのままリーリェンに伝播しているのだ。そりゃあ、リーリェンもおびえるだろうと言う話で、先に聞かされていたヨウリュもあきれるだろうと言う話だった。

「リーリェン様と言うより、もはやルイシー様の問題ですよね。まあ、リーリェン様は華奢ですから、気持ちはわからなくはないですが」

 突き放しているのか慰めているのか判断に困る言葉をヨウリュに投げかけられた。まあ、その通りだ。


「上背はズーランやリージュ様よりあるんですけどね……食べたものはどこに消えてるんだろう……」


 シンユーが心底不思議そうに言った。もはや七不思議に数えてもいいくらいの謎である。


「でも、リーリェン様が突然食べなくなったら心配じゃん」

「それもそうなんですけど」


 シャオエンの言葉に、シンユーもうなずいた。食べる量はともかく、骨格自体が華奢なのだろうな、と思う。


「ま、今、リージュ様にリーリェン様をお願いしていますので、その結果次第でちゃんと話し合ってくださいね」


 ヨウリュが適当に締めくくった。











*+〇+*












 そのリーリェンを頼まれたリージュは、妹が突然くしゃみをしたので彼女に褙子を羽織らせていた。


「風邪かしら。最近、朝晩は冷えるものね」

「いや、寒いわけではない。大丈夫」


 そう言いつつも姉が羽織らせてくれた褙子を脱がない。一応、気をつけてはいるようだ。二人は、後宮の庭の一角にある東屋にいた。内朝が見える距離で、女官長のファジュンとズーランがお茶と茶菓子を持ってきてくれた。

「ありがとう。二人も一緒にどうぞ」

「わあ~。ありがとうございます」

 ズーランは遠慮なくリーリェンの隣に来る位置に座ったが、ファジュンは「いいのかしら」という表情で、それでも現在の主であるリーリェンが「遠慮するな。座れ」と言うので、女王の向かい側に腰かけた。

「リーリェン、もう少し話し方は何とかならないの?」

 昔はこんなに堅苦しい口調ではなかった気がするが、父もいない、姉もいない、母は自分を顧みないという状況の中で、彼女の中で何かが変化したのだろうことはわかっていた。リージュには甘えてくれるし、ルイシーの前で恥じらっているのを見たこともある。だから大丈夫だとは思うものの、口調自体は変わらない。

「今更私が女言葉で話し始めたら、宮廷内は阿鼻叫喚の地獄絵図だな」

「顔に見合っていると思うけれど」

「印象の問題だ。いいんだよ。女性らしさは姉さんとファジュンで間に合ってる」

「え、あたしは?」

 ズーランが自分を指さすが、リーリェンは答えなかった。彼女の中では、自分の侍女は女らしさの中に含まれないらしい。ズーランがむくれた。リージュは、ズーランに感謝している。この気難しいところのある妹と、変わらずに接してくれた彼女に、とても感謝しているのだ。


「それで、姉さんから呼び出されるのは珍しいが、何の話だ? 来春、金華に戻ると言う話ならすでに了承したはずだが」


 表情も声音も全く変わらない。平坦だ。昔はもっと感情的な子だったのだけどなぁと思いつつ、これを聞けばさすがに彼女も戸惑うだろうか、と妹に向き直る。

「単刀直入に聞くわね。あなた、性教育は受けている?」

 ぶふっと噴出したのはズーランだった。ファジュンはさすがに噴出さずに堪えたが、咳き込んでいる。まあ、後宮ではよく話題に上る話ではあるが、女王陛下に向かって、真昼間から、野外で話題にすることではないな、とリージュも思う。

「受けているが……なんだ? ルイシー……ではないな。ヨウリュか」

「察しがいいわねぇ……と言うか、心当たりはあるのね?」

 リージュが確認すると、「ある」と歯切れよくリーリェンはうなずいた。


「仕事がはかどらないので何とかしてください、って頼みこまれたのだけれど」


 どんなにリーリェンが自分を頼らない政治体制を確立させても、どうしても最終判断は女王に任される。ヨウリュが仕事がはかどらない、と言ったのは本当だろうが、単純に、明らかに顔色の悪いルイシーを心配したのだと思う。

「いや……まあ、自分でもやらかしたな、とは思う」

 そう言いながら、リーリェンは前髪をかき上げた。少し表情が曇ったので、本当にやらかした自覚はあるらしい。

「おびえて泣いちゃったんですって? 泣き虫は治らなかったのねぇ」

「余計なお世話だ」

「それは問題を自力で解決できてから言いなさい」

 ぴしゃりと言うと、さしものリーリェンも黙った。ファジュンとズーランから「おお」という声が漏れる。

「何が怖かったの? 体格差? ルイシー様、背が高いものね」

 ルイシーの父、リージュが昭容として侍っていたスーユェンは、元英雄と言うだけあって一般男性より背丈はあったが、息子ほど大きくなかった。加えて、肉付きの良いリージュとは違い、リーリェンはかなり華奢だ。骨格が細いのだろう。確か、父方の祖母が小柄で華奢だった。まあ、リーリェンは上背自体はリージュよりもあるのだが。


「リーリェン様、細いですもんねぇ。うらやましい」


 ズーランがリージュの言葉を補強するように言うと、リーリェンは「私はお前たちの方がうらやましいが」と真顔で言った。ズーランの胸のあたりを見てため息をついたので、一応そう言う感情はあるんだな、と不覚にも安心した。

「主上のお体を管理する立場で言わせていただければ、もう少し太っていただいた方がいいのですが……」

「わかっている。太れないんだ」

「ですよね……」

 ファジュンも、リーリェンの大食漢ぶりは見ているので苦笑で収めた。あれだけ食べてこの細さなのだから、これ以上は何をしても太れない気がする。


「うらやましい限りだわ……」


 姉妹でこれだけ違う。たぶん、人々はリージュとリーリェンも見ても、姉妹とわからないのではないだろうか。共通点は顔立ちが整っていることぐらいだ。それも、方向性が違う。

「で、話を戻すけど、何が怖いの? 何が不安なの?」

「何が、と言われても、漠然としてるが……」

 小首をかしげるリーリェンに、「言ってみなさい。お姉ちゃんがどーんと聞いてあげるわ」と言うと、久しぶりにリーリェンの顔がほころんだ。

「お姉ちゃんて……そうだな。いろいろと考えすぎて、それが不安を加速させて、結果、怖くなったのだろうと言う自己診断は出ている」

「自己診断」

 妹は、ときどき言い回しが不思議だ。まあ、それだけ自覚があるのなら、背中を押してあげれば行けるだろうか。

「何を考えちゃったの?」

 もう少し突っ込んでやろうと思って尋ねると、リーリェンの表情がこわばった。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


リーリェンがやたらと華奢なのは、自分の能力にエネルギーが消費されているためと、ストレスのため。


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