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00.終章












「戦死だった。最前線で戦い続けて、四方から貫かれたそうだ……私も遺体を確認したから、そうなのだろうな」


 いっそ穏やかに物語を紡ぐリーリェンに、リンフェイは何と声をかければいいのかわからなかった。『冷血女王』と呼ばれる彼女が女王になる前の道のりは、その名に似つかわしくはなかった。

「……そのまま、女王になったんですか」

「国を束ねるものが、どうしても必要だった……私には領主としての実績もあった。できると思われたのだろう。反対者がいなかったわけではないが、ずいぶんすんなりと登極したものだと思うよ」

 リーリェンは冷めたお茶を飲み、喉を潤してから続けた。


「それに、私は責任を取らなければならなかった。私のために、多くのものが命を落とした。護衛であったシンユーも、私があの時京師に連れてきたばかりに反乱に参加し、命を落とした。姉も、私を守ろうとして亡くなった。ルイシーも……何より、先王に手を下したのは私だ。それだけのことをした責任を取らなければならなかった。どんなに死にたいと思っても、死ねなかった」


 周辺国から武力で玉座を手にした『冷血女王』と恐れられるヤン・リーリェンは、多くのものを失ったのだ。愛してくれた姉も、仲良くしてくれた護衛も、……愛した男も。

「どうして、その話を私に……?」

 友好国とはいえ、他国の人間であるリンフェイに話してよかったのだろうか。すると、リーリェンはからりと笑った。


「私の周りの者たちは聞いてくれないんだよ。みんな、まだ私が傷ついていると思ってる」

「……」


 からりと笑って言ってのけたが、たぶん、リーリェンの周りの者たちが言うことが正しい。彼女はまだ、過去を振り切っていないのではないだろうか。だから、リンフェイに話した。

 そして、気づいた。今話しているリーリェンはきっと、金華という僑の一地方を治めていた彼女とは別人だ。話を聞いているだけのリンフェイにも、それがはっきりとわかるのだ。彼女に近しい人たちは、当然気づくだろう。

「リーリェン様」

「ああ、ヨウリュ」

 東屋に顔をのぞかせたのは僑の兵部尚書だった。リーリェンの話にも出てきたヨウリュだった。

「審議、終了しました」

「そうか。ご苦労様」

 爽からリンフェイが持ち込んだ案件について、官僚たちが審議中だったのだ。ヤン・リーリェンは登極後、各地方の反乱を武力を持って制圧した。その苛烈さに目が行きがちだが、平常時においておおむね優秀な為政者だった。これは、彼女が良い領主だと言われていたことからもわかる。

 彼女は、僑に合議制を導入したのだ。すべてを王たるリーリェンが決めるのではなく、官僚たちの合議によって決める。とはいえ、最終決定権は結局女王リーリェンが持っている。

「リンフェイも、待たせてすまないね」

 立ち上がろうとするリーリェンを、ヨウリュが支えた。彼女の腹部は、ゆったりとした服の上からわかるほど膨らんでいた。妊娠しているのだ。リーリェンは昨年、皇国から公子を婿に迎えていた。完全な政略結婚である。


 もうすぐ子が生まれるから、けりをつけたかったのだろうか。過去の自分に。リンフェイも立ち上がり、階段を降りようとするリーリェンに手を貸した。

「ありがとう。リンフェイは少し、彼と似ているな」

 リンフェイは笑って、「そうですか?」と首を傾げた。話の流れが分からないヨウリュが不審げに、「ヤオ太尉に迷惑をかけないでくださいよ」と自らの主君に苦言を呈していた。「はいはい」と受け流すリーリェンの振る舞いは、話に聞いていたルイシーのものに近い気がする。

 でも。でもあの瞬間。リンフェイに「似ているな」と言ったあの瞬間だけは、本来の彼女が顔をのぞかせていた。そんな気がした。


 どうか、この『冷血女王』と呼ばれる女性の未来が、穏やかなものでありますように。リンフェイは、そう願わずにいられなかった。



























―*―*―*―*―*―*―*―*―











 四方から槍と剣で貫かれ、さすがにこれは死ぬな、とルイシーは覚悟した。血を吐きながら空を見上げる。青い空が自分を見下ろしていた。彼女に、リーリェンに初めて会ったときも空は青かった。



 一人で泣いていた少女を放っておけなかった。小さな体で虚勢を張る彼女が見ていられなかった。……自分を見上げて小さく微笑む彼女が、たまらなくいとおしかった。



 似たようなものを抱えていた。初めは、その共感だったのかもしれない。けれど、間違いなく、リ・ルイシーはヤン・リーリェンを愛していた。



 ああ、置いて逝ってしまう。彼女を。今までも置いて行かれ続けていた彼女を、自分も置いて行ってしまう。



「……死にたくないなぁ」



 言葉は声にならなかった。血が口からあふれるばかりで、音にならない。刺さっていた槍と剣が引き抜かれ、ルイシーは地に倒れ伏した。血が水たまりを作る。



 死ぬ瞬間に、死にたくないと思うなんて。今まで、そんなことを思ったことはないのに。だが、だけど、残していくリーリェンを思うと死にたくはなかった。








 彼女はきっと、泣いてしまうから。










ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

一応、本編と言うか、正規ルートは簡潔になります。なんかゲームみたいないい方ですけど…。

うっかりつかまって女王の身の上話を聞くことになったリンフェイさん。少ししか登場しないのでわかりにくいですが、本来は朗らかでざっくりした性格の方です(笑)


何度かあとがきにちょろった書きましたが、シリアスを書くのが辛かったので、みんな生き残ったご都合ルートを作成中です。せっかくなのでこっちも上げていきたいと思いますので、よかったら読んでやってください。


ありがとうございました。


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