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27.再会












 どうやら、あの侍女はリーリェンが王の寵愛を姉から奪いに来たと思っていたらしいということに気づいたのは、後宮の門からだいぶ離れてからだった。道が分からなかったので門番に道を教えてもらい、宮廷内を一人で歩いている現状である。もちろん、禁城の地図などないが。

 まあ、作りとしてはうちの館と似たようなものだろう。

 と結論付けて、歩いている。と言うか、ズーランとシンユーを置いてきているから、合流しなければ。なんだか前にもこんなことがあった気がする。二人をどこに置いてきたっけ?


「……い、おい! リーリェン!」


 背後から腕をつかまれてびくっとした。振り返って緊張を解く。

「なんだ、ルイシーか」

「久しぶりなのにそれはねぇよ……」

 がくりときたようで、ルイシーが肩を落とした。リーリェンは目をしばたたかせて彼を見上げる。金華ではついぞ見たことがない、立派な格好をしていた。入玉から、禁軍所属であることがわかる。というか、将軍なのは知っている。

「久しぶり……? その姿、格好いいな」

「え? ああ……ありがとう。お前、やっぱり男前だよ」

 なぜそうなるのかわからなくて首をかしげる。ルイシーは苦笑してリーリェンの頭を撫でようとして、髪を結っていることに気づいて肩を叩いた。そのまま背中を押す。


「お前がなかなか戻ってこないから、シンユーとズーランが探してたぞ」


 どうやらルイシーは、リーリェンたちが今日登城すると聞いて、会いに来てくれたらしい。行ったらリーリェンはまだ戻ってきていなくて、後宮に問い合わせたらもう外に出たというし、探しに来てくれたようだ。リーリェンも、まさか自分が入ったのと反対の門から出されたとは思わなかった。

「リーリェン様!」

「姫! もう、心配しましたよ!」

 ルイシーに連れられたリーリェンを見て、ズーランとシンユーが駆け寄ってくる。ズーランに抱き着かれたのでその背を叩きながら二人と一緒にいてくれたヨウリュとシャオエンにも挨拶をする。

「久しぶり」

「お久しぶりです、リーリェン様」

「お久しぶりです。ちょっと会わない間にますますきれいになりましたね!」

「化粧のせいだ」

 興奮するシャオエンにそう返し、ヨウリュにも「相変わらずですね」と苦笑された。ルイシーが周囲を見渡してから少し身をかがめてささやいた。


「人目を集めている。禁城を出よう。お前たち、どこに泊まっている?」


 リーリェンが宿名を告げると、いいところに泊まってるな、とルイシーは笑った。

「俺の屋敷とそんなに離れてないな。では俺の屋敷に行こう」

 リーリェンは少し迷ったが、うなずいた。はたから見れば即決に見えただろう。ズーランとシンユーが、おう、とばかりに顔をこわばらせた。リーリェンの従者二人を見てルイシーが苦笑する。

「何もしないさ」

「そーゆーことを言われると逆に信用できないのですけど」

 ズーランがジト目でルイシーを見上げた。リーリェンは腕を組んで言った。

「私が宿にルイシーたちを連れ込むほうが問題だ。まあ、私が行くのでもさして変わらんかもしれんが」

 女が連れ込むよりましだろう。たぶん。五人の視線がリーリェンに突き刺さる。

「……なんだ」

「いや、お前もそう言うことを考えるんだなと」

「……」

 思わず目を細めてにらみつけてしまった。ズーランがリーリェンの手を引く。

「と、とにかく、行きましょう」

 周囲の視線を集めているのは事実なので。


 馬車に乗れ、と言われて、リーリェンは少しごねた。

「……歩きではだめか?」

 さすがに人通りの多い京師で馬に乗ろうとは思わないが、馬車よりは歩いていきたい。歩けない距離ではないはずだ。

「はい、わがまま言わないでくださいね」

「その格好で通りを歩いてみろ。かどわかしてください、と言っているようなもんだぞ」

 ズーランとルイシーにダメだしされたので、結局馬車には乗った。ルイシーが王から賜っている屋敷は一等地にあるので、禁城からそれほど離れていなかった。たぶん、金華の館より大きかった。

「この屋敷、お前が追放されている間はどうなっていたんだ?」

 半年ほどの期間だが、ふと疑問に思って尋ねた。少なくとも家主はいなかったはずだが。

「ああ、将軍職と一緒に返上してから金華に向かったな。戻ってきたときに再び下賜された」

 使用人も返上前から変わっていないそうだ。尋ねたのはリーリェンなのに、彼女は「へえ」とだけ返す。ちょっと気になっただけなのだ。


「どうぞ」


 客間に案内されると、使用人がにこにことお茶を出してくれた。リーリェンとルイシーが向かい合って座っている。ズーランとシンユーは離れたところでヨウリュと待機していた。なお、シャオエンは訓練場に置いてこられている。

「悪いな。俺はあまり客を連れてくる性質ではないから、みんな興味津々だ」

「……なるほど?」

 まあ、普通、家主が身分が高そうな小娘を連れてきたらみんな驚く。

「ヤン昭容と話はできたか」

「ああ……いろいろ取り計らってくれて感謝する。ありがとう」

 頭を下げるとルイシーが面白そうに笑った。

「ヤン昭容にお前が子供のころの話、いろいろ聞いたぞ。お前の話も聞かせてくれって言われて、いくらか話したが」

「ああ……そうなのだろうなと言う気はした」

 リージュとルイシーがリーリェンの頼み事以外にも交流を持っているのだろうな、とは察していた。明らかにリーリェンが頼んでいないことまで知っていたからだ。自分がいない場で自分の話をされるのは、少々気恥ずかしい気がした。


「姉上も、私に聞けばいいのに……」


 思わずつぶやくと、ルイシーが「嫉妬か?」と茶化した。リーリェンは目をしばたたかせる。

「なるほど。そうかもしれない」

「え、嘘だろ」

「何故私が姉上に会えないのに、お前が姉上と私の話をしているんだ……」

「あ、そっちか」

 肩落として、ルイシーが力なく苦笑する。彼が期待したことが分かる気がしたが、あえて触れずにお茶を飲んだ。


「主上にもお会いした」

「……そうか」


 リーリェンは小首をかしげてルイシーの顔を覗き込む。視線が合ったルイシーは、「あまり可愛いことをするな」と目元を和ませる。リーリェンは姿勢を正すと、話をつづけた。

「姉と似ていないと言われた。似ていないが」

「ああ、まあ……系統は違うな」

 ルイシーが反応に困った様子でそう言った。似ていない、と言うことができなかったのだろう。優しい男だ。


「主上は父のことを覚えていないのだな、と思った」


 母親に似ているリージュと、父親……と言うより、父方の母に似ているリーリェンだ。リーリェンは比較的父親のグォシャンに似ているはずだが、スーユェンは触れもしなかった。覚えていないか、どうでもよいことなのだろう。顔を見てわからずとも、リージュの父親のことくらい、知っていてもよさそうなのに。


「……そう言う人だ。主上は」


 ルイシーが穏やかな口調で言った。穏やかだが、あきらめたような声にリーリェンはさすがに言葉を返せなかった。あの様子では、ルイシーが自分の息子だと気づいていないだろう。それでよい気もしたが、リーリェンはルイシーではないので、気軽にそんなことも言えない。ルイシーも、スーユェンとそれほど似ているとは言えなかった。

 リーリェンは立ち上がると、ルイシーのそばまで行き、その頭を撫でた。ルイシーが驚いた顔でリーリェンの手首をつかんだ。

「どうした?」

「……何を言えばいいかわからなくて」

 素直にそう言うと、ルイシーは声をあげて笑った。

「そうか」

 笑ったままルイシーはそう答え、リーリェンの手首を引いた。逆らわずにリーリェンはルイシーの膝の上に乗った。抱きしめられたところで、衝立の後ろから声がかかった。

「私たちがいることもお忘れなく」

 ヨウリュの声だった。衝立を隔てただけで、同じ部屋にいるのだ。視界は遮られているはずだが、見えているのか、と言いたい絶妙な瞬間だった。リーリェンはそっとルイシーの膝から降りる。椅子の背もたれに手を置いた。

「お邪魔したな。話せてよかった」

「ああ……お前たち、いつまでこっちにいるんだ?」

「ひと月ほどの予定だ。こちらでしたいこともあるし」

 帰るとなると、また長時間馬車に乗らなければならないわけだ。そう思うと帰りたくなくなる。

「じゃあ、その間に甘味でも食べに行こう。京師も案内してやる」

 そう言えばそんな話を金華でしたような気がする。リーリェンはうなずいた。

「ああ。よろしく」

 頬を緩ませてリーリェンはうなずいた。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


間違いなくリーリェンはシスコン。


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