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12.贋金















 それに気が付いたのは、やはりと言うか、当然と言うか、ヨウリュだった。

「ルイシー様。ちょっといいですか」

「なんだ?」


 ヨウリュが見せたのは貨幣だった。最高額を示す型が……型が……。


「贋金か」

「はい」

 若干、貨幣の模様が違う。よく知っているものでなければ気づかないだろう。ヨウリュが気づいたのは、貨幣を管理しているのが国で、彼が中央から来たからだ。

「店で野菜を買った際の釣銭でもらいました。出回っているようですね」

「そうだな……」

 贋金はまずい。そもそもこの国の行政機関がまともに機能しているとは言えないが、贋金というのは争いのもとになる。下手をすれば、僑という国が地図上から消える。

 それ以前に、金華で贋金が出回れば、金華の経済が大混乱になる。早急にリーリェンに伝えた方がいい。


 と思った昼過ぎ、話を聞いた後に買い物に出ていたシャオエンがリーリェンを捕獲して家に連れてきた。今日も今日とて、街をふらふらしていたらしい。


「え、何?」


 いつも通りの無表情であるが、わずかに困惑したような様子が見て取れた。そして、今日はちゃんと護衛のシンユーが一緒だった。

「とりあえず二人とも座れよ」

 ルイシーが言うと、リーリェンが遠慮なく座ったので、シンユーも戸惑いがちに椅子に腰かける。シャオエンが「お茶を入れてくる!」と言ったが、それを止めてヨウリュが湯を沸かしに行く。本当は彼に説明してもらいたかったのだが、シャオエンに台所を爆破されても困るので、そのまま見送る。代わりにルイシーが口を開いた。

「今日は護衛付きなんだな」

「たまにはな」

「普通、ついてるものですよ……」

 シンユーが疲れたように言った。シンユーの言う通り、身分の高い女性には通常、護衛でなくてもお付きがいるものだ。リーリェンの場合は行動範囲が広いため、侍女のズーランをお供にしていることはほとんどない。というか、誰かを連れていることがほとんどない。


「別に遠出をするわけでもないのに、護衛などいらん」


 リーリェンがこんな感じなので、彼女の周りの人間はさぞ苦労しているだろう。彼女によれば、金華は私の領地だ、ということなので。いや、そうなのだが。

 そんな話をしている間に、ヨウリュが戻ってきてお茶と茶菓子にせんべいを出した。

「甘いものの方がよかったですかね」

「そこまで気を使わなくていい」

 会うときほぼ常に何かを食べている気がするリーリェンに、ヨウリュはそう言ったが、さすがの彼女もやや顔をしかめてそう断った。ヨウリュも腰を落ち着け、問題の貨幣を取り出す。


「これをご存じですか」

「贋金だろう」


 さくっと言われた。ヨウリュが「ご存じでしたか」と淡々と答える。

「余計なお世話でしたね」

「いや、そんなことはない。お前たちにも意見を聞きたかった」

 ルイシーたちが中央から来たからだろう。リーリェンは、己が金華からほとんど出たことがない田舎者だと理解している。そのうえで、リーリェンはルイシーたちの意見を聞きたいのだろう。


「私は父が比較のために保管していた贋金しか見た経験がない。十年ほど前に一度流通したそうだが、私はまだ子供だったからな」


 今も下手をすれば子供で通じるほどだが、十年前ならまだ年齢一桁だ。知るはずがないだろう。かくいうルイシーたちも子供だったが。

「それらを踏まえて、話半分程度に聞いてほしいのだが、よくできた贋金だと思うのだが」

「ええ。私もそう思います」

 ヨウリュに同意され、リーリェンがほっとした様子を見せた。頭脳労働に関しては、彼女はヨウリュの方を信頼している。

「気づいてからできるだけ回収したんだが、お前たちが持っているということは、やはりすべて回収しきれていないのだな……」

「流通するものですから、回収しきるのは難しいですね。排除しても、外から入ってくる」

「隊商が来たときに混入したのだろうな。調べてみたが、低額の贋金が多い。釣銭に混ぜられたのだろう」

 リーリェンが言うことに、ヨウリュが目を見開いた。


「……リーリェン様、本当にしっかりした領主様ですね……」

「何を指してしっかりした、というのだろうか」


 哲学的なことを言われ、ヨウリュが苦笑した。ちゃんと領主の仕事をしている、という意味だ。この国の王は王の仕事を放棄しているので。

「低額の贋金を流通させて、どうしようというのだろうか。銅の含有率を調べてみたが、五割ほどか。正規のものは純銅もしくは八割以上の含有率だという話だが、見ただけではわからんな」

「……」

 ルイシーはヨウリュと顔を見合わせた。シャオエンがその辺から連れてきたリーリェンであるし、ヨウリュが贋金に気づいたのが今日。隊商が来たのが五日ほど前。その間に、彼女は贋金に気づき、ここまで調べ上げたのだ。


「すごいでしょう。うちの姫はやればできるんです」


 得意げに言ったのはシンユーだった。茶器を卓子に戻したリーリェンはいつも通りの平坦な声音で言う。

「必要だからやっているだけだ。別にすごくはない」

「いや、誉め言葉は素直に受け取っておけよ。ちゃんと領主の役目をはたしているって、実はすごいことだぞ」

「……ほかの領主はしていないということか?」

 彼女が眉をひそめた。リーリェンは領主として有能すぎて、たまに世界を知らないのだ、と忘れそうになる。彼女はここでの、父のやり方しか知らない。見たことがない。外から情報は入ってくるだろうが、真実かは疑わしいし、実際に見なければわからないことも多い。

「そう言う領主も多いということだな」

「……そうか」

 実際、妖魔退治なんてやっている割に、金華は治安がいい。もっと荒くれ物がのさばっていても不思議ではないのだが、リーリェンがよく治めている証拠だ。


「話を戻しますけど。銅の含有量を半分にすれば、一つの量から二つの硬貨を作れるわけで……そういえば、調べたってどうやって調べたんですか」


 ふと疑問に思ったのだろう。ヨウリュが尋ねた。言われてルイシーも疑問に思う。銅の含有量なんて、どうやって調べたのだろう。

「いや、普通に……溶かして調べた」

「リーリェン様が? ああ、火の力をお持ちでしたっけ」

「私ではない。鍛冶職人だ。製鉄所があるからな」

 え、そうなの? そう言えば、少し離れたところに火を扱っているのだろうな、という場所があったが、リーリェンが炎を司っているために、彼女の修練場か何かかと思ってしまっていた。思い込みはよくない。

「製鉄所……」

「うちは妖魔狩りをしているからな」

 武器を買うよりも、作ったほうが早い。ルイシーたちは自分が初めから持っていた武器を使っているが、たしかにシンユーやリーリェンが持っている剣は、他では見たことがない意匠だ。だから、自己生産していると言われれば納得できる。

「なるほど……銀貨は見つけました?」

「銅貨が七十八枚、銀貨が六枚だな。今のところ、金貨は出ていない」

「釣銭に混ぜたのなら、そんなものでしょうね」

 ヨウリュとリーリェンがぽんぽん会話していく。

「……これを見つけた後、うちにある金も調べてみたのですが、この家には贋金はありませんでした」

「うちの館と、宮の方も一緒だな。ついでに買ったものも調べてみたのだが、偽物は一つもなかった。だが、領民に見せてもらったら、いくつかまがい物を見つけた。どうやら、相手を選んでいるようだな」

「そのようですね。この前買ったもの、調べてきます」

 ヨウリュが家の中を調べに行く。購入したものを確認していなかったのだろう。むしろ、この短い間に調べ上げるリーリェンの能力がすごいのだ。










ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


リーリェンはちゃんとした領主なので、贋金が見つかった時点でちゃんと対策しています。なので、混乱は起きなかった。…はず。


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