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幕間.ミライの部屋1

挿絵をいただいたことでテンションがあがり、酔った勢いだけで書いてしまいました。

本編とは直接は無関係なお話となりますが、よろしければお付き合いください。


5/22…感情を覚えたばかりのAIとしてはミライちゃんの描写に違和感があるというご指摘をいただき、一部シーンを修正しました。ストーリーに変更はありません。ご指摘ありがとうございます!


 今日も今日とて銀龍の鱗亭でたらふくお酒をいただき、気持ちのいい酩酊感とともにそろそろログアウトして休もうかと思ったのだが、その間際、ふと気が向いてミライちゃんのお部屋へお邪魔してみることにした。


 キャラメイクから数日、なんだかんだでやることが多かったため、旅立ちの日以来これが初めてのお宅訪問である。


 ミライちゃんから預かったかわいい熊さんキーホルダーについた鍵を取り出し、さっそく使おうと……いや、そういえばどうやって使うのこれ。鍵を使うには鍵穴が必要なわけで? んんー……?


 しかし途方にくれたのも一瞬、手元で鍵がぴかーと光りだしたかと思うと、徐々に視界がホワイトアウトし始めた。アヴァオンへログインするときとは逆の、ふわりと意識が浮き上がるような不思議な感覚に身を任せる。

 すとんと地に足が付く感覚とともに、視覚がその機能を取り戻すと、私は自分の目を疑った。


 以前キャラメイクの際にはややSFチックというか、まあイメージは宇宙とかそっち系なのかなーという風体だった空間が、ピンクと白で統一された、年頃の女子でもここまではやるまいというコッテコテの女子部屋となっていたのだ。


 まぁそれだけであれば大胆な模様替えをしたのかとも思うが、その部屋の隅に配置されたベッドの上に転がるモノが視界に入ったとき、私は思わず二度見をしてしまった。


 そのかわいらしいピンクのチェック柄のベッドの上には、うつぶせに寝転がって真剣な表情を真っ赤に染めながら手元の本と向かい合い、ぶつぶつと何事かをつぶやいている少女がいた。

 ていうかめちゃくちゃ真剣に少女漫画を読むミライちゃんだった。





「あの……これは違くって……その……」


 部屋の中央あたりに置かれた丸テーブル(もちろんピンク色である)を挟み、私の正面に、ばつが悪そうに正座をして言い訳をするミライちゃん。念のために言っておくが、もちろん私が正座をさせているわけではない。よほど気まずいところを見せてしまったとでも思っているのか、なぜかミライちゃんが自主的にそうしてるのだ。

 

「いや、別にいいと思うよ。おもしろいよね、花男」


 私の母が学生の頃に流行ったという往年の名作である。私も小学生の頃に母の本棚で見つけて読み、大いにハマったものだ。さすがに完結から数十年の時が経ち、今どきは読んでいる女子も少なくなってきているとは思うが。ちなみに私は西門さん派である。


 それにしても、と大幅に模様替えされた部屋を見渡して私はつぶやく。


「ずいぶんイメージ変わったね。何かあったの?」


「いえ、その……これが本来の私の私室でございます。先日ミスカ様をお迎えした空間は、キャラクタークリエイトのためだけに用意されている限定エリアでございまして、もう一度あそこへお呼びすることはどうしてもできず……」


 このような場所で申し訳ありませんと頭をさげるミライちゃんではあるが、思わず私は心の中でガッツポーズを決めていた。


「何言ってるのミライちゃん。むしろここのほうが何倍も嬉しい。ミライちゃんの自分の部屋に呼んでもらえるなんて、そのほうがずっと仲良くなった感じするし」


「そういうもの……でしょうか?」


「そういうものだよ」


「ならいいのですが、あの……あまり見ないでいただけると……その、恥ずかしいので……」


 きょろきょろとお部屋を見回していると、恥ずかしそうに注意されてしまったが、せっかくお邪魔した美少女のお部屋なのである。あますところなく堪能したいと思うのは人の性ではなかろうか。


「まぁまぁそういわずに……ってあっ?」


 我ながらセクハラじみた目線でミライちゃんのお部屋をじっくりねっとり舐りつけるように堪能していると、突然ぱっと部屋の様子が切り替わってしまった。


 さきほどまでのかわいらしい女の子らしさの面影はまったくなくなり、無機質な白い空間に、キャラクタークリエイトのときと同様のややSFチックな、何かの操作用インターフェースがぽつんと立つだけの寂しい部屋へと早変わりしてしまったのだ。


 ミライちゃんが頬を朱に染めて拗ねたように手元の何かを操作している。なるほど、それで部屋のデザインを変えることができるということか。


「まったく……ミスカ様がいじわるばかりするから、でございます」


「もっと堪能したかったのになぁ。でもこれすごいね。部屋、こんな風に変えられるんだ」


「ええ、私も全て見たわけではないのですが、それなりの数が用意されているようで」


「私もちょっと見てみていい?」


「そちらの端末から操作が可能でございますが……私室以外でお願いいたしますね」


「はーい」


 ぱぱっと流し見をしていくと、あるわあるわ。リビング、教室、オフィス、カラオケルーム、スポーツジム、プール、ホテルのような一室、食堂……さらにはどういう仕組みなのか、海や山といった屋外の設定まで準備されていた。

 そんな中、エンターテイメント用のカテゴリの中から、私はある一つの気になる部屋を見つけた。


 ほほーう、これはこれは……。



………………。


…………。


……。



「は……ぁっ!」


 その切なげに響く声はどちらのものであったか。

 かすかな衣擦れの音の中、どちらかが動くたび、お互いの肌と肌が触れ合う面積は徐々に、だが確実に大きくなっていた。


「あふっ……! ミスカ様……そ、それ以上はダメ……っ、です……!」


「もう少し……だから……! んんっ……!!」


「や、そこは……無理っ! ……あっ……あああああっ!?」


 ミライちゃんが苦しげな声をあげ、その張り詰めていた四肢から急速に力が失われる。

 

 ばったーん、と。

 もともと私の上に覆いかぶさるようにピンと手足を伸ばしていたミライちゃんが限界を迎えて崩れ、それを支え切ることができなかった私ごと、二人はカラフルな丸模様が並ぶ床の上へと倒れこんだ。


「ゲーム終了。ゲーム終了」


 ぴっぴーという気の抜ける効果音とともにトライアル終了が告げられる。


「記録ハ94ターンデス。オツカレサマデシタ」


 無情にも端末が告げる数字は、景品が出るという100ターンまであと一歩及ばないものであった。


「はー……惜しかったねー」


「はぁ……ふぅ……ひ、久しぶりに……こんなに運動いたしました……」


 体勢的に私の目の前にあるミライちゃんの顔は、運動のためか、健康的に上気しており、いつもに増してかわいらしい。

 不意に至近距離で目が合い、どちらともなくクスクスと笑いあう。


「あー、楽しかった! 私ツイスターゲームって初めてやったよ」


「ふふっ、私もでございます」


 そういって目を細めて笑うミライちゃんは、初日のクールな彼女からは想像もできないくらいに砕けたものであり、なんというか、うまく言えないけれど……よかったなーと思ったのだった。


 仰向けのまま倒れている私に覆いかぶさるように床へと手をつくミライちゃんの背中へ腕を回す。

 それは別段何かを考えてのことではなかったけれど、気が付けば私はミライちゃんを抱きしめていて、ミライちゃんも特に抵抗はせず、腕の力を抜いて私へともたれかかってきた。

 ツイスターゲーム用の柄が残るカラフルな床に二人で転がる。


 お互い運動のあとだからか、くっついている身体がとても暖かい。


「ミライちゃん、あっつい」


「……では、離されては?」


「……もうちょっとだけ」


 ミライちゃんからはっきりとした生命の熱量を感じ、私はますます彼女がただのNPCだとは考えられなくなっている自分を自覚したのだった。



 どれほどそうしていただろうか、気が付けばミライちゃんは寝入ってしまっていたようで、小さく上下する胸の動きに合わせて、かわいらしい寝息が聞こえてきた。

 その無防備な姿に思わずキスでもしてやろうかという悪戯心が芽生えたものの、さすがにバレたら怒られそうなのでやめておこう。


 ミライちゃんを起こさないようにそっと立ち上がり、コンソールを操作してピンクの少女部屋へと戻すと、ぐっすり眠ったままのミライちゃんをベッドへと運びこむ。

 幸せそうな顔で眠るミライちゃんの右手が、何かを探してかふりふりと動き、空を切った。


 その手をそっと握ってベッドの中へと戻してやり、シーツをかぶせる。


「ふふっ……おやすみ、ミライちゃん」



 今度はアウトドアで二人遊ぶのもいいなぁ、なんて。

 そんな楽しい未来(ミライ)を想像しながら、ログアウトした私も眠りについたのであった。



挿絵は6話に飾らせていただいております。未見の方はぜひご覧になってくださいね!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 酒と薔薇の日々ならぬ酒と百合の日々たすかります。 酒好きですが今は呑めないので、こんなVRMMOが有ったらハマっちゃいますね~
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