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40.口争


「げほっ……うぇぇ……気持ちわる……」


 スライムによって窒息死のピンチを迎えるところだった私は、みゃあらちゃんの機転によって助けられた。

 モンスターが死んだことで、私の身体中にこびりついていた粘液は例のきらきらエフェクトと共に消え去ったはずなのだが、さきほどまでの感触が残っているようでなんとも気持ち悪い。


「ごめん、ミスカ……あたしのせいで……」


 文字通り頭から足の先までスライムに丸飲みにされるという、できれば一生知りたくなかった経験をする羽目にはなったものの、無事に助かったのはクロエちゃんとみゃあらちゃんのおかげだ。

 誰も怪我人が出なかったことだし、クロエちゃんが申し訳なさそうにしょんぼりとしているのが逆に申し訳ない。


「みゃあらちゃんも、助けてくれて本当にありがとう」


「別に……ダンジョン攻略の途中にアンタに死なれたら困るだけだし……。アタシが善意で人助けなんてするよーなヤツに見える?」


「見えるよ? だってさっきのみゃあらちゃん、私が死にそうになってるの見て、すごく悲しそうな顔してたもん」


「はぁっ!? そんな顔してないし! つかアンタにアタシの何がわかるっつーの!?」


 お礼を伝えようとするとみゃあらちゃんはそっぽを向いてしまった。うーん、かわいいなぁ、この照れ屋さんめ。

 というかもともと半ばモチリコちゃんに脅される形で同行しているみゃあらちゃんである。いざとなれば彼女は一人で逃げることだってできたのに、私たちを助けてくれたのだ。

 きっとそれを伝えたところで、クエストクリアのためだとか言うんだろうけど。


 でもまあ。何がわかるのかと言われれば。


「みゃあらちゃんが本当は優しい子だってことかな」


 私の言葉にはっとしたように振り向いたみゃあらちゃんがあわててぶんぶんと頭をふっている。

 どうしたんだろう、小さく「ばーちゃん……」って呟く声が聞こえた気がしたけど。


 ……え? ていうか……ばーちゃん……? 


 私のこと……ではないよね、さすがに……。美醜とは別問題として、いくらなんでも二十三歳でばーちゃん呼ばわりは悲しいものがあるのだが……。


「ええと……私ってそんなに老けて見える……?」


「違う! つかなんでもねーし! ……ったく……なんなのよアンタ……。調子が狂うっつの……」


 そんな会話と共に元来た道を少しだけ戻り、改めてダンジョンの捜索を再開しようとしたところ、みゃあらちゃんが身振りだけで待ったをかけた。


 先ほどのようにスライムの再来かと、思わず天井にも目を凝らす。特に何もなさそうでほっと溜息をついたところで、私の耳にも何かが聞こえた。


「人の声……? 言い争うような」


 私の言葉にクロエちゃんとみゃあらちゃんも目を合わせて頷きあう。


「そんな遠くない」


 シーフのみゃあらちゃんが先行し、気を付けて進む。

 しんと沈んだ湿気の満ちる洞窟内で音が反響しており、どちらから聞こえてきているのかわかりにくいのだが、みゃあらちゃんには声の主がいる方向までわかっているようだ。迷いのない歩みと共に、聞こえる音が次第にはっきり大きくとなっていく。


 慎重に数分ほど歩き、次に見える角を曲がろうとしたところでみゃあらちゃんの足が止まった。

 その先から聞こえてくる声はさきほどまでのように反響したものではない。



「だから話がちげーっていってんだよ!」


「クエストの内容に変更があったことに関してはお詫びいたします。ですが改めて、このエリアは現在私たち白鎧(ニムィロス)が調査中です。どうかお引き取りを」


 荒々しい男性と、落ち着いた女性の声が言い争っている。


「おかしいだろ! 俺たちはあんたら兵団からクエストの依頼を受けたんだぜ!? アグラアンナの異変を調査しろってよぉ!」


 そっと角から顔を覗かせて様子を窺うと、そこには思ったよりも多くの人数が集まっていた。

 怒気を孕んだ声を上げているのは男性プレイヤーのようだ。四人組のパーティーの中の一人で、ローブとロッドという魔法使いのような恰好をしている。


 相対するグループはNPCばかりのようである。五人全員が白く輝く鎧を身に着けており、非常に統一感のある恰好をしている。見るからに兵隊という様子だ。

 現在先頭に立って男性プレイヤーの相手をしているのは、その中の紅一点である女性兵士さんのようである。

 肩のあたりで一つに結われた、川の流れる様な長く蒼い髪が美しい。


「帝国兵団がなぜここに……?」


 その光景を見て、クロエちゃんが不思議そうな声を漏らす。


 帝国兵団白鎧(ニムィロス)

 たしかみゃあらちゃんの説明では、帝国のプレイヤーたちはここでクエストを受注するとか言っていたけれど。そこに行き違いでもあったということなのだろうか。


「つーかあいつら、攻略組パーティーの連中じゃん」


 みゃあらちゃんが驚いたような顔で呟く。

 聞いてみると、帝国プレイヤーとしては一応それなりに名前を知られている四人組らしい。とはいえみゃあらちゃん曰く「腕はそこそこだけど性格サイアク」とのことであったが。


「行き違いがあったことについては繰り返しお詫びいたします。しかしこれは決定事項なのです。大変申し訳ありませんが一度手を引いていただけないでしょうか」


「話にならねえ! せっかく誰も気づいてないような場所を見つけたんだ! ここで一番に攻略しなかったら嘘だろうが!」


 ふむ。私たちが鍵を開けたすぐ後に入ってきたのだろうか。

 攻略組の熱意にはいつもおどろかされるばかりである。


 しかし私が攻略組のアクティブっぷりに感心しているうちに、事態はなかなかに緊迫した局面を迎えつつあった。


「もうめんどくせえな……無理やり通るか?」


「だね。ここでNPC殺しても見つからなきゃ悪影響もないっしょ」


 プレイヤーたちが各々の武器に手をかける。女性兵士は動じた様子もなく、身じろぎ一つしない。

 というか後ろに並んだ白鎧の人たちが動かないところを見ると、ひょっとしたらこの人は相当な強さなのかもしれない。


 とはいえ万が一ということもあるだろう。

 それにあのプレイヤーたちがどこまで考えての発言なのかはわからないが、白鎧の人たちが一人でも生き残れば、今後帝都でのプレイに悪影響が出ることは間違いない。

 それを心配していないということは、彼らはここで白鎧の人たちを全滅させるつもりなのだろう。

 さすがにそれは見過ごすわけにはいかない。


 私はクロエちゃんとみゃあらちゃんに一つ断りをいれてから、姿を現してプレイヤーたちに声をかける。



「あのー、お取込み中すみません。なんか相手にも事情があるみたいですし、ここは一度引き下がりませんか?」


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