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35.アグラアンナ・ダンジョン


 クロエちゃんに手を引かれ、研究棟の裏手へと回ってきた私たちは、古ぼけた小さな木製の扉の前にいた。

 このあたりは先ほどの入り口の人だかりからは完全に見えない位置にあり、人影はない。


「つか開かないし」


 みゃあらちゃんが押したり引いたりしているが、その見た目に反してずいぶんと頑丈なのか、扉はびくともしていない。

 一見するとすんなりと開きそうに見える扉だが、反対側から鍵がかけられているのだろうか。


「ちょっとどいてろ」


 そう言って扉にかざしたクロエちゃんの手がぼんやりと輝くと、それまでぴったりと固定されていたかのように動かなかった扉が、まるで力が抜けたかのようにぎぃっと揺らいだ。


「わっ……魔法みたい」


 思わず私がそう呟くと、扉を押し開けたクロエちゃんが苦笑するように振り返って言った。


()()()()()アグラアンナだぞ」





 扉をくぐると、そこは通路の為だけに作られたのか、途中に部屋などが一切ない空間だった。

 壁を隔てた向こう側の、研究棟の形に沿うように折れた一本道を道なりに少しばかり進むと、すぐに地下へと向かう階段が目に入った。


「こっち。少し暗いから足元気を付けて」


 クロエちゃんに従って石造りの階段を下りると、やや湿った空気に満たされた、地下洞窟のような広い空間が現れた。一定間隔に備え付けられた灯りに、むき出しになった岩肌が照らされている。

 その不規則に続く空間は、人工的な地下階というよりは、自然にできた洞窟を利用して作られているように見える。


「へぇー、地下なんてあったんだ」


 みゃあらちゃんが驚いたようにきょろきょろとあたりを見回している。 


「ここがアグラアンナへの本当の入り口だ。ここから一度時計塔へ入って登り、研究棟の四階に行ける。機密性の高い研究は全部そこで行われていた」


「プレイヤー……冒険者たちが集まってた入り口はどこに繋がってんの?」


「あっちは見られても問題のない研究や、外部へ依頼するクエストなんかを管理していたエリアだ」


「フーン……いつもアタシたちが見てたトコは魔法研究所の表面だけだったってことね」


 みゃあらちゃんが納得したようにつぶやくと、クロエちゃんが言葉を引き継ぐ。


「あちらのエリアには手がかりがなかったって言ってただろう? ということは、アグラアンナはダンジョン化する前の性質を引き継いでいるんじゃないかと思う」


 なるほど、たしかにそれを聞く限り、さっきプレイヤーたちが集まっていたあたりから、この異変を解決するヒントが見つかる可能性は薄そうである。


「大事な情報が四階にあるってこと?」


「あくまでその可能性が高い、ということだ」


 その言葉にわたしたちは頷く。

 なぜこんなことが起きているのか、そしてライアンが四階にいるかどうかも含めて、実際に行ってみないことにはわからないことだらけである。


「じゃあとりあえず四階を目指して――っ!?」


 進もう、と言おうとしたその矢先。


 光の当たらない闇の中から突然視界に飛び込んできた巨大な物体を認識すると同時に、私はアサシンダガーを引き抜き、腰を落とす。

 高AGIによる補正で引き上げられた動体視力で、灯りに照らされたそいつが口を開いて向かってくる姿を目視した瞬間――ぶわっと全身が総毛立つのを感じ、私は思わず全力で逃げだした。


「え? ミスカ? どこ?」


 はるか後方の石柱に隠れた私がおそるおそる姿を表すと、みゃあらちゃんが呆れたようにつぶやく。


「いやいや、たかがコウモリ相手にビビりすぎでしょ……つーかすばしっこすぎてこっちがビビるわ……」


 いやいや、コウモリ! しかも超巨大。逃げるだろう普通。 

 胴体部分だけでも私の頭くらいあったように思える。

 敢えて詳しい表現は避けるけれども、補正された動体視力が災いして、しっかりと見たくもないその姿を見てしまった私の気持ちを察してほしい。


 幸いコウモリは好戦的なわけではなさそうで、向こうから襲い掛かってくることはなく、そのままどこか闇の中へと飛び去って行った。


 コウモリ相手にも臆することのない勇敢な少女二人が状況を確認し合う。


「あれ、モンスターだよね?」


「だと思う。以前はここに生き物は生息していなかったはずだ」


 ダンジョン化とともに沸いたモンスターだろうと結論付け、みゃあらちゃんとクロエちゃんは慌てた様子もなく武器を抜いて、いつでも戦える態勢をとっている。


 うぅぅ……イングベルトさんたちがいない今、この中で私が最年長なのだ。あんまり情けないところを見せるわけにもいかない。

 私はやけくそ気味にアサシンダガーを握りしめ、小走りで二人を追い抜く。


「わ、私が先頭いくから……二人とも気を付けてね……」


「ミスカ……声震えてるぞ」


「頼りねー……」


 精いっぱいの見栄を張った私に対して、少女たち二人の声は冷たい。

 くそぅ……大人になると子供の頃平気だったものが怖くなったりするんだぞ……!


 こうして私にとってはアヴァオン初となるダンジョン攻略が始まったのであった。


昨日は体調不良のためお休みをいただいてしまいました。

もし楽しみにしてくださっていた方がいれば、申し訳ございません。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今日読み始めて、一気に最新話まで読んでしまいました。 とてもスラスラとストレスなく読めて、気がついたら38話! VRMMOものを読むのが趣味なのですが、ココ最近でナンバーワンに輝くくらい読み…
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