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34.重なる異変


 みゃあらちゃんの話を聞いて、(おおよ)その状況を私たちは、まずは情報収集ということで、いったん別れて動くことにした。


 ライアンのことも話を進めたい私とクロエちゃんペアと、ひとまずワールドクエスト優先で、異変の原因を特定するために動くモチリコちゃんたちプロチームである。

 そこに加えて、しれっと逃げ出そうとしていたみゃあらちゃんがモチリコちゃんに捕まり、私たちの方に放り込まれた形である。


 現在私たち三人はクロエちゃんの案内でアグラアンナへと向かっている。

 ひっそりと静まり返った帝都の大通りで、自分たちの足音だけがやたらと耳につく。


 表面上は人の姿が消えた帝都ではあるが、よく見るとたまに家々の窓からこちらを覗いているような顔があり、得体の知れない何かに怯えながらも、しっかりと人々が暮らしていることがわかった。

 彼らの表情には皆一様に不安の色が浮かべている。


 どうせワールドクエストにも参加するのであれば、出来る限り被害の少ないうちにクリアしたいものである。

 まぁモチリコちゃんたちが本気で動けば、きっとどうにかなるとは思うのだが。


 そんななんとも沈んだムードの街歩きをしていると、私たちが歩むやや先の方、家々の屋根が並ぶ奥に、大きな時計塔の頭が覗き始めた。

 ひょっとしてあれがアグラアンナなのかと尋ねようと思い、みゃあらちゃんを振り返ると、なぜか彼女はどこか思いつめたような、苛立たし気な顔をしていた。

 

「どうかしたの? 大丈夫?」


「別に。……つーかさ、アグラアンナ行ってもムダだと思うよ」


「へ、なんで?」


 ここまで来ておいて、またずいぶんと突然な話である。

 無駄とはいったいどういうことなのだろうか。


「……なんでもない。まぁ見てみれば? もうすぐそこだし」


 詳しい話を聞こうにも、みゃあらちゃんは不機嫌そうに顔を背けてしまった。今はこれ以上話す気はないようである。




 石畳で舗装された大通りをまっすぐ進んだ先、四叉路(よんさろ)となった大きな広場から北東に伸びる道へと抜けると、先ほど見えた巨大な時計塔の全容と、その下半分ほどへ寄り合うように建てられた、白い外壁の建物が目に飛び込んできた。

 立派な家々が並ぶ帝国の街並みの中でも、ひと際重厚感を感じさせるこれが、やはり魔法研究所アグラアンナで間違いないようである。


「んん?」


 クロエちゃんに従って入り口と思わしき方へと近づいていくと、異様な光景――いや、普段であれば何もおかしくないのだが、ここ帝都に来てからはほとんど見かけることのなかったもの――すなわち大勢のプレイヤーたちの姿が飛び込んできた。


「なんだ……?」


 クロエちゃんも不思議そうに首を傾げている。


「はぁ……やっぱまだやってたんだ」


 バカみたい……そう小さくつぶやいたみゃあらちゃんの、悲し気な声が耳に届く。


「みゃあらちゃん、これ、何があったの?」 


 私の問いかけに対して、彼女は冷めた表情で答える。


「……町の人たちの様子がおかしくなったのとほぼ同時に、アグラアンナにも異変が起きたんだよ」


「異変?」


「そ、突然アグラアンナがダンジョン化したの。それ以来ここのプレイヤーたちはその攻略に夢中ってワケ」


 みゃあらちゃんのその言葉はやはり刺々しい。


 んー……。苦しんでる町の人々に目もくれず、新しいダンジョンに夢中というのは、確かに聞いていても気持ちのいいものではない。


 私だって攻略よりはNPCの人たちとのコミュニケーションのほうがよっぽど好きなので、彼らが苦しんでいる中で、せっせとダンジョン攻略に精を出すことに抵抗を感じる気持ちはよくわかる。

 とはいえ普通に考えれば、同じタイミングで起きた異変である、ダンジョン化したアグラアンナの攻略が、結果的に町の人々を助ける糸口に繋がりそうなものではないのだろうか。なんというか、それがゲーム的なお約束というやつだと思うのだが。


 MMOにそれほど明るくない私でも思いつくようなことだ。みゃあらちゃんもそれくらいはわかっているはずである。


「ダンジョンには何かなかったの? 街の人たちを助けるための手がかりとか」


「もちろんアタシもそう思って何度も入ってみたんだけどさ……何にもなかった。このダンジョン作ったやつはマジ性格サイアクだよ」


 プレイヤーたちの対応を遅らせるための餌、ミスリードということなのだろうか。

 だとすれば確かにいやらしい方法ではある。このタイミングで急にダンジョン化した場所があれば、それは誰だって町の異変と関連している可能性を疑うだろう。


「ダンジョン化したって言うけど、中の構造はどうなんだ? 以前と同じなのか?」


 クロエちゃんが不思議なことを気にしながら、多くのプレイヤーたちが集まっている方向をじっと見つめている。


「……? ダンジョンはどのフロアも大体同じような構造の三階建てだよ。アタシは以前の魔法研究所にそんな行ったことないから、違いはわからないケド」


 それを聞いたクロエちゃんが一つ頷き、何かに気づいたように私の手をとって走り出す。


「え? ちょっ……クロエちゃん? どうしたの急に」


 慌てて走り出す私たちを、何が起きているのかわからないといった顔のみゃあらちゃんが追いかけてくる。


「ちょっとアンタたち! どこ行くのよ! 中入らなくていいの!?」



「入るさ! ()()()()()()からな!」



 

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