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33.『帝都禍乱』


「これは……帝都に何があったんだ?」


 活気を失った町の様子を見たクロエちゃんが、震える声で尋ねる。


「アンタ、もしかして帝国の子……?」


「貧民街出身だけどな」


「……そ、まぁどこだっていいケド」


 そういって無人の町をどことなく冷めた瞳で眺めながら、みゃあらちゃんは語り始めた。



「リアル時間で一週間くらい前かな……突然この町の人たちが倒れ始めたの。疫病だ、呪いだ、他国の陰謀だっていろんなことが囁かれたケド、結局原因は不明のまま。ただ町の人たちにも全員が全員症状が出てるってワケじゃないみたい」


 それを聞いて少しだけほっとする。

 街に生活感がなさすぎて、本当に無人になってしまったのかと思ったほどだ。


「あれ、そういえばプレイヤーの人たちは? その症状は出たの?」


「ううん、プレイヤーには出てない。どういう理屈なのかわかんないケド」


 おや? そうなのか。


「じゃあなんでプレイヤーまで町から消えてるんですかぁ?」


 すぐにモチリコちゃんが私の疑問を代弁してくれた。

 攻略組として帝国側のプレイヤー事情が気になるのか、イングベルトさんたちも興味津々といった感じである。


「まーなんつうか……NPC、町の人たちが伝染を恐れて家からでなくなったんだよね」


 ふむ。ウィルスのようにうつっていく可能性だって捨てきれないのだし、帝都の中で決して少なくない人たちが倒れているのであれば、そうなるだろう。

 私だってもし自分が暮らす町で同じようなことが起きれば外出は控えるようにするかもしれない。


「次第にいろいろな店が閉まるようになっていってさ。今じゃ道具屋、武器屋、防具屋、兵団、魔法研究所みたいな、攻略に不可欠な施設まで使えなくなっちゃって」


 みゃあらちゃんの説明にモチリコちゃんたちが顔をしかめる。


「話の腰を折るようで悪いんだけどよ、その兵団と魔法研究所ってのはどんなことができる……いや、できたんだ?」


「兵団は主に狩猟や討伐系のクエストを管理してるトコ。魔法研究所は素材集め的なクエストと、うまくいけば魔法も教えてもらえるっぽいよ」


 魔法という言葉に反応してエドガーさんの瞳に興味の色が灯ったが、さすがに今は自制心が働いたらしく、おとなしくしている。

 ものすごくそわそわしているが。


「アンタたちもわざわざこっちまで来るくらいの攻略組ならわかるだろうけど、そういう施設が全部使えなくなるってちょっと笑えないじゃん?」


 プロゲーマーたちが同情めいた顔で一様に頷いている。


 イルメナに置き換えて考えれば、『イルメナ防衛戦』に失敗したか、そもそもクエストを起こすことができなかったような状態になっているということだろう。

 人々の姿が消えたイルメナを幻視し、ぞっとする。


「つまりー、そういった攻略に必要な施設を使えなくなったプレイヤーたちが萎えて消えてったぁ……ってことですかー?」


「中にはそういう人たちもいたね。ぶっちゃけ一度キャラ消して、別のエリアで新キャラ作り直した奴もいるらしいし」


「ふむぅ……。とはいえー……帝国側プレイヤーにだけ一方的な不利を与えるなんてことは運営はしないはずですよねぇ」


 モチリコちゃんの言葉に全員がうなずきを返す。それはそうだろう、ゲームとして理不尽な不公平は避けるはずである。


「つまり、ここまでやべえ状況になる前に、きっと何かしらの救済措置があったはずだってことだよな?」


 救済措置。つまりイングベルトさんはセリフの言外に、私たちがクリアしたユニーククエストのことを差しているのだろう。


「……そうだったのかもしんないね。ま、ソレがなんだったのか、結局帝国プレイヤー(アタシたち)にはわかんなかったんだけど」


 心なしか冷めた目でそう呟くみゃあらちゃんの姿が少しだけ印象的に心に残る。

 残念ながら帝国側では私たちのようにユニーククエストを見つけたり、クリアしたプレイヤーがいなかったということか……。


 あれ?


 そういえば、もし誰もユニーククエストを見つけられなかったり、私たちがクエストに失敗したような場合には、『イルメナ防衛戦』はワールドクエストに派生していた可能性が高いとモチリコちゃんは言っていた。


 もし帝国のプレイヤーがユニーククエストをクリアできなかったためにこの状況になったのだとしたら、ここからどうにか挽回するためのワールドクエストが今まさに起きているということではないだろうか。


 おそらくモチリコちゃんも同じような考えに行き着いているのだろう。何かを考えるようにぶつぶつと呟き、一人で納得したように頷いている。


「つまりぃ……こうなってしまった帝都をどうにか元に戻そうと、残ったプレイヤーさんたちはがんばってるって状況ですかねぇ。町にいないってことはぁ、外へ攻略の糸口を探しに行ってるんでしょうかー?」


「……まぁ、そんなカンジ」


 みゃあらちゃんは少しだけ悩む素振りを見せたものの、すぐに再度その口を開いた。


「調べればすぐわかるだろうし、隠すようなもんでもないと思うから言っちゃうケド、今帝都はワールドクエストの真っ最中ってワケ。

 ……アンタたち、ある意味いいタイミングで来たんじゃない?」


 予想と期待が正しかったことを知り、皆の目の色が変わる。

 いつもながらすごいなぁ、攻略に対するその意欲はどこから沸いてくるんだろうか。


「けど私の目的はクロエちゃんと一緒に、ライアンとかいう奴を一発殴ってけじめをつけることだし、今回はワールドクエストに直接関わる必要はあんまりないかな……なーんて考えてませんかぁ?」


 モチリコちゃんが私の考えを見透かしたかのように内心をセリフに起こす。

 さすが親友。完全に読み切られている。


「思ってるけど。一字一句たがわずにそう思ってるけど。あ、もちろんモチリコちゃんたちが攻略するのを止めたりはしないよ?」


「甘いですよぉ。想像してみてくださーい? この状況下で酒場だけが営業しているなんてことがあると思いますかぁ?」


「えっ……!?」


 それは……言われてみれば……。


 すがるような目でみゃあらちゃんを見つめると、彼女は無情にもその首を横に振った。

 にまにまと私と見つめるモチリコちゃんを恨みがましい目つきで睨む。いや、八つ当たりなのはわかっているのだが。


 思わず頭を抱えて盛大な溜息をつく。


 ……せっかくここまで来たのだ。

 帝都のお酒を飲まずに帰るわけにもいくまい。


「はぁー……クエストクリアしないと酒場が開かないんじゃ、やるしかないかぁ……」


 私のその言葉を待っていたかのように脳内に直接システムメッセージが流れ始める。



――ワールドクエスト『帝都禍乱』が発令されています。

――条件を満たすため、自動的にクエストへ参加しました。


――クエストを開始します。


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