20.二体目
やや短めで申し訳ありません。
「GU……RRAAAA……!!」
さすがに今の魔法は堪えたのか、その巨体を上下に揺らす恐竜型モンスター。
「ふん……これも耐えるとはな……」
魔法を放ったエドガーさんがクールに吐き捨てる。
個人的にはボルトではなくヴォルトと、ばっちりVの発音で決め技を叫んでいたあたり、すごく突っ込みたいところではあるのだが、まあそもそもスキル名を叫ぶ必然性自体ないのだ。本人のテンションが上がるようにやるのが一番だろう。
そんな生暖かい感じに応援したい気持ちはともかくとして、現実問題この異次元バトルに、とてもではないが私はついていけていない。
さすが格闘ゲーム畑のプロゲーマーたちである。
下手に顔を出して邪魔をしないよう、私はモチリコちゃんたちの活躍を応援する係に専念することにした。
私の心の内のチアガールたちがボンボンをふりふりしていると、さきほどの魔法攻撃でだいぶ弱っていたのか、イングベルトさんの剣による連続攻撃を受けた恐竜が叫び声を上げながら、ついに転倒した。
どぉんと地響きをたてて倒れこんだ恐竜に対して、ここぞとばかりに容赦なく攻め立てる4人。
「おお……! がんばれー!」
「これで……終わりだっ!」
イングベルトさんが身体ごと飛び込むように突き出した長剣が恐竜の喉元を貫く。
「GGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
断末魔の咆哮とともに一瞬大きくのけぞった恐竜は、そのまま再度地に伏して動かなくなった。
「いよおっし! 討伐完了!」
いつものようにポリゴンとなって消えた恐竜を見届け、勝利を噛みしめるイングベルトさんであったが、激戦を制した4人には隠し切れない疲労がにじみ出ていた。
しかしともあれこれで今後イルメナと西方を行き来する商隊は無事にここを通れるようになるはずである。
ユニーククエストも無事クリア……そう一安心して気を抜きかけた私は、信じられないものを目にした。
今まさに倒したはずの恐竜型モンスターが、イングベルトさんたちの背後に立っているのだ。
「あぶない! 後ろ!」
私は隠れることも忘れ、思わず大声で叫んでいた。
私の声に素早く反応した4人は、新しく現れたそいつの攻撃を間一髪で回避する。
「GRRRRAAAAAAAAA!!」
「おいおい……冗談きっついぜ……」
そういって再度剣を構えるイングベルトさんの声にはいつもの余裕がない。
モチリコちゃんの表情も硬く、カイさん、エドガーさんも同様だ。
「ていうかぁ、あいつどこから沸いたんですかー……? 今までいませんでしたよねぇ……」
モチリコちゃんの口からそう疑問がこぼれる。
そうなのだ。
あれだけの巨体、近づいてくれば絶対に見逃すはずがない。それにも関わらず、すぐ背後にくるまで誰も気が付かないなどあり得るのだろうか。
思い返せば一体目のときも、ずっと馬車の外で馬に乗っていたカイさんが、あれほど接近するまで見つけられなかったというのも違和感があった。
まるで手品のようである。モンスターを自由に出したり消したりできるような手品……。
不意に頭の中で何かが繋がりかける。
手がかり、ヒントに指の先がかかったような手ごたえ。
わざわざ商隊がいるときだけを狙っているにも関わらず、なぜこいつは逃げる商隊を追いもしなかった?
さきほど恐竜は明らかに目の前の敵であるモチリコちゃんたち4人だけを見ており、習性として商隊を狙うとかそういう素振りは一切なかったように思える。
恐竜にとっては、商隊のいるいないに関わらず、私たちはただたまたまそこに居合わせただけの敵だったのだ。
ではなぜこいつはこれほどタイミングよく現れるのか。
まるで商隊を見つけた誰かが、モンスターに襲わせているかのように。
そこまで考えたとき、視界の隅で何かが動くのを捉えた。
「っ!」
待ってと叫びたい気持ちを抑え、私は身を隠す。
人影は私に気づいていないのか、二匹目の恐竜の戦闘に乗じて木々の間をそっと移動しているようだ。
向かっている先は……荷馬車!
自分の考えが正解であることを確信する。
モチリコちゃんたちは新しく沸いた恐竜の相手に集中している。
こちらに手を回す余裕はない。
私がやるしかない。
幸い相手のスピードは大したことない。敵が馬車にたどり着く前に余裕で追いつける。
私は覚悟を決め、腰のアサシンダガーを抜く。
頭の中でシミュレーションを行う。大丈夫、いける。
「ふっ!」
レインボーフロッグソウルの効果だろうか。
息を吐いて全速力で駆け抜けた私のスピードは、自分で思っていたよりもはるかに早く、速度だけであればさきほどの4人と恐竜の戦いすらゆっくりに見えるほどであった。
いくら早くても恐竜へ通るダメージソースがないので無力なのは間違いないが。
ともあれ……。
「とまりなさい。武器があれば捨てて。すぐにあの恐竜型モンスターを消しなさい」
一息で謎の人影の背後を取った私は、そのままダガーを相手の首元へ押し付けて警告する。
「あっ……」
小さく上がった声は、意外にも幼い少女のものであった。