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19.街道の戦い

しゅげみみさんからミスカちゃんのイラストを描いていただきました!

一話の冒頭に飾ってありますので、ぜひご覧ください!

しゅげみみさんありがとうございます!


 それは突然だった。


「なっ!? 出たぞ!」


 私たちの中で唯一馬上の人であったカイさんの叫び声に反応し、すぐさま全員が馬車の外へと身を乗り出し様子を窺う。

 そこには目の前数十メートルというところ、巨大な恐竜のようなモンスターが街道を封鎖していた。


「でっか……!!」


 ぱっと見で五メートル前後の体高。頭から尻尾まで含めれば、その体長は十メートル以上の大きさがあるだろう。


 全身がっしりした体格で二足歩行型の、よく恐竜映画などでメイン役となるあのタイプだ。

 恐竜に詳しいわけではないので細かい違いなどはわからないが、Tレックスとかティラノサウルスとか呼ばれているものと似ているように思える。


 濃いグリーンの体表のそれは、全体的に生物として根源的な恐怖感をあおるデザインをしており、小型のモンスターとしか相対したことない私としては、見ただけで逃げたくなる威容である。

 ちらりと見えた咥内に並ぶ凶悪で刺々しい歯に捕らえられようものなら、VIT1の私はもちろん、重防具のカイさんですら一瞬で食いちぎられてしまいそうに思える。


「はぁ!? なんだありゃ!? なんでこんなに接近するまで気づかなかった!?」


「わからん……! 気が付いたらすでにそこにいたのだ」


 イングベルトさんの問いに対して、前方の巨躯を睨みつけながらカイさんが苦々しげに答える。


「んなわけねえだろ、こんだけの巨体だぞ……!」


「それはあと! 散開!」


 モチリコちゃんの言葉に各々が馬車から飛び出し、商隊を守るように前へ出る。


「あれ!? ミスカちゃんは!?」


 あ、私? 私ならまっさきに逃げ出し、あの恐竜モンスターに見つからないよう、とっくに木の陰で気配遮断中ある。

 さっさっと手を振ってみんなに合図を送る。


「まじか……いつ動いたのかわからなかったんだが……」


 イングベルトさんが何かつぶやいたようだが、まあいい。

 なんにせよ、いかにも頑丈そうなこの巨体を相手に、私のステータスでは何の役にも立てないということは間違いない。あまり出しゃばらず、敵の増援の確認など、周囲の様子に注意しておく方がいいだろう。


 商隊がしっかりと後方へと下がったことを確認し、ひとまず胸をなでおろす。

 なんせ今回は商隊の護衛任務なのだ。

 もし敵を倒すことができても、肝心の商隊が襲われてしまっていれば元も子もない。

 恐竜型に気づかれる前に退避できたのは幸いであった。


「ライトニングストォォム!」


 そのタイミングを待っていたのか、エドガーさんが魔法で先制攻撃をしかける。

 完全な不意打ち。

 鋭い雷の一撃が天と恐竜を結び、バガアアアンという爆音が耳をつんざく。


 おぉ……これが魔法か。


 よくよく考えれば魔法を生で見るのは初めてであった。

 現実にいるといわれても違和感のないリアリティの中で、目の前で魔法が操られているのをみるとなんとも不思議なワクワク感があるものだ。


 そういえばアヴァオンのシステムとして、レベルを上げていけば勝手に覚えるスキルというものはなかったと思うのだが。

 そんな中でエドガーさんはどうやって魔法を覚えたんだろう。今度機会があれば聞いてみたいものだ。まぁどうせ私のステータスでは覚えられたとしても大した使い物にはならないだろうけど……。


「GyyyyAAAAOOOOOOOO!!」


「ひょおっ!?」


 戦闘中に余計なことを考え、気が抜けていたのが悪かったのだろう。さきほどの落雷のときよりも大きいのではないかというほどの爆音が私の全身を震わせ、思わず間抜けな声が漏れてしまった。


 気づけば恐竜型はぷすぷすと煙をあげながらも咆哮を上げ、ピンピンしたご様子でモチリコちゃんたちに対し明らかな殺意を放っていた。

 そりゃ不意打ちで雷落とされたら誰だって怒る。私だって怒る。あ、私の場合は怒る間もなく死ぬか。


「くるぞっ!」


 イングベルトさんの声が飛ぶ。


 先ほどの一撃で倒せるとは考えていなかったのか、即座に反応したモチリコちゃんたち4人は素早く戦闘用の陣形を組み、先頭に立つカイさんが巨大な盾を構えて恐竜へと駆け込む。

 マジか。いくらゲームでもあれに立ち向かうとかすごすぎる。


 アヴァオン世界ではそのリアリティゆえに、モンスターの攻撃が迫ってくるときの迫力や恐怖は、良くも悪くも本当に現実さながらだ。さすがに痛覚に関してだけはマイルドになるよう調整されているが、それでも怖いものは怖い。 

 体験したくもないが、もしあの恐竜型の大きな口が迫ったら、その体温や湿った空気、臭いなど、五感全てで死の恐怖を感じることになるはずである。


 自身の想像にぶるりと身体を震わせながら、モチリコちゃんたちの雄姿を見届けるべく、私は木陰からそっと顔を出す。


「GYAAAAAAA!!」


 雄たけびを上げながら頭から突っ込んでくる恐竜型に対して、カイさんはその大楯で果敢に攻撃を受け止めるが、その度に少しずつその身体が押し込まれる。

 いくらカイさんが大柄とはいえ、恐竜とは比ぶべくもない。

 冷静に考えればあの体重差で吹き飛ばされずに受け止めることができている時点で、高レベルプレイヤーのスキルやステータス、そして何よりカイさん自身の技術と胆力には驚かされるばかりである。


 ある程度押し込まれたところで、何らかのスキルを発動したのか、カイさんの動きが一瞬二つにぶれたように見え、気づけば恐竜の正面ではなく、側面へと移動していた。


「ふんっ!!」


 残像の残ったところに噛みつこうとしていたのか、ちょうど下がっていた恐竜の横っ面を大楯で思いっきり横殴りにするカイさん。


「GRrrruOooo!!」


「さっすがぁっ!」


 そのタイミングを見逃さず、軽やかに飛び込んだイングベルトさんの長剣が恐竜の足元へと襲いかかる。


「せいやぁっ!」


 気合の掛け声とともにものすごいスピードで恐竜の右足を切りつけまくるイングベルトさん。

 特殊な武器なのか、切りつけるたびに恐竜の足元から燃えるようなエフェクトがあがっている。


「GAAAAAAAAAAAA!!」


 咆哮とともにカイさんからイングベルトさんへと標的を変えようとした恐竜の顔面に無数の矢が突き刺さる。


「GGGYYYYYYYAAAAAA!!!!」


 さきほどから自身が標的にされないよううまく射撃と移動を繰り返し、モチリコちゃんが牽制を行っている。

 敵にしてみたらあれはうざったいだろうなぁ……。

 何本か刺さったままの矢がうっとおしいのか、いやいやをするように大きく首を振り回している。

 あ、ていうか矢からもなんか毒々しいエフェクト出てる……。

 毒矢かな。さすがモチリコちゃんえげつない。

 

「どこを見ている! まだ私は倒れていないぞ!」


 体勢を整え、やや削れた体力をポーションで回復したカイさんが再度敵の眼前に立ちはだかり、敵を挑発する。


「GGGUUUURRRRRRRAAAAAAA!!!!」


 明らかに怒髪天といった様相で咆哮をあげ、大きな口を全開にしてカイさんに迫る恐竜。


「……っ!!」


「ハウリング……ヴォルトォォォ!!」


 その大きく開いた口腔内に急速に雷が収束したと思った瞬間、目もくらむような閃光が炸裂し、一瞬遅れてゴンっという鈍い音と、身体を吹き飛ばすほどの爆風がやってきた。


「ひええっ……」


 吹き飛ばされないように必死に木にしがみつく私。


 あまりの威力に周囲の大気までも吹き飛ばしてしまったのか、戦闘中に似つかわしくない一瞬の静寂が訪れる。


 閃光と爆風が落ち着いた先には、両腕を前へと突き出した姿勢のままのエドガーさんが、最高のドヤ顔で煙り吹く恐竜をにらみつけていた。


 

「ええと……これはもう邪魔にならないようにこのまま隠れ続けてるのが一番の貢献なのでは……?」



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