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2.アバター(前編)

思いのほか長くなってしまったため、前後編へと分けました。


5/18…一部加筆修正しました。


『飲んでみたくないですか? 神々の愛したお酒を』


 まったくなんという殺し文句であろうか。

 

 りこちゃんからの連絡を受けた後、すぐに愛用のVR端末でアヴァターラ・オンラインの予約を終えた私は、サービス開始までの数週間をつかってのんびりとその情報について調べ始めたのだが……。


 結論から言うと、アヴァオンは思った以上の人気タイトル……というかもう化け物タイトルとでもいうべき代物であった。


 発売前タイトルのため、β版をプレイしたプレイヤーの意見や、トレーラーへの感想、中にはテストプレイを請け負ったプロゲーマーの評価などもあったが、どのレビューサイトを見ても絶賛に次ぐ絶賛。通常どのような人気タイトルであっても必ず一定数存在する、アンチたちのコメントを探すほうが難しいという異常事態となっていた。

 しかもそれぞれのレビュアーがそれぞれの楽しみ方を見い出しており、本当に多種多様なプレイスタイルで遊べることがうかがえる。


 至極の一杯を探すという私の目的も、ここでなら確かに果たせるのかもしれない。


………………

…………

……


「それでまんまとやり始めたわけだけど……いきなりすごいなーこれ」



 いつもはVR乙女ゲー専用機と化している愛用のVR端末へ、いよいよサービスの始まったアヴァオンをダウンロードしたのがつい30分ほど前のこと。


 いつものように缶ビールを数本あけながら否が応にも高まる期待感を抑えつつ、長時間のVRフルダイブをするため、お手洗いを済ませ、念のため枕元の手が届くところへペットボトルのお水を用意する。

 準備万端でベッドへと横になり、フルダイブ特有の一瞬の暗転と浮遊感をやりすごして目を開くと、その光景に思わず息を飲んだ。


 本当に自分がVR空間にいるのかわからなくなるほどに圧倒的にリアルな五感情報。しかしそれと相反するように、矛盾するように、現実では絶対に見ることのかなわないであろう幻想的な空間と、人形のように美しい一人の少女の姿が私を待っていた。



「はじめまして、ようこそアヴァターラ・オンラインの世界へ」



 イメージは宇宙に近いだろうか。透き通った水色から濃い紫まで、複雑に濃淡が変化する空間の中に、白い星のようなものが美しく輝いている。

 その神秘的な空間の中に、ずいぶんとかわいらしい声が響く。


「私の名前はミライ、これからアヴァターラ・オンラインの世界へと旅立つあなたのお手伝いをさせていただきます」


 ミライと名乗った少女はその容姿によく似合う、きれいなお辞儀をしてみせた。

 この空間ともよく似合う薄紫のドレスを纏っており、くるりとかわいらしく巻いた髪に縁取られた上品な顔立ちの中に浮かぶ瞳は、儚くかがやく月光を連想させる。



 ……いや、思わず呆気にとられてしまったが、次々へと五感へと届き続ける情報量がすごい。

 ミライちゃんのかすかな衣擦れの音や、私自身が息を飲む感覚が現実と同じように感じられる。あとちょっといい匂いがする。ミライちゃん何の香水つかってるんだろう。くんかくんか。


「……まずはあなたのアバターとなるキャラクターの、お名前のご登録をお願いいたします」


 一瞬ミライちゃんが不審者を見るような半眼になったような気がしないでもなかったけど、気のせいだよね。うん、そうに違いない。


 しかし名前か。どうしよう、何も考えてなかった。


「本名でもいいの?」


「プライバシーを守るため、あまりお勧めは致しませんが、ご希望であれば登録自体は可能です」


「うーん……なるほど……」


 いつもの恋シミュなら迷わず本名プレイで霞かカスミとするところではあるのだが。基本ソロプレイだし。

 とはいえたしかに不特定多数と交流するMMORPGを本名でプレイするのは少し危ない……のか? フルネームならともかく、私の名前なんか知ってどうするんだという気もするけれど……。


「まあいいや、じゃあ『ミスカ』で」


「かしこまりました」


 結局名前を逆から読んだだけの安直なものにしてしまったけれど、本名そのものよりはいいだろう。


「それではミスカ様、さっそくキャラメイクを始めますか?」


「うん、お願い」






 ナビゲーター美少女AIのミライちゃんと相談しながらああでもないこうでもないとキャラメイクを進めた結果、私の初期ステータスは下記のようなものとなった。


名前:ミスカ

レベル:1

HP(体力):20

MP(マナ量):10

STR(筋力):1

VIT(耐久力):1

DEX(器用さ):10

AGI(素早さ):10

MAG(魔力):1

LUK(幸運):10



 うーん、すがすがしいほど極端。


 私が普段ほとんどMMOをやらないので詳しいことがわからないと伝えると、ミライちゃんが私のリアルのほうの身体や、VR世界での運動能力などをスキャンした結果、これが一番おすすめという話になったため、素直にそれに従うことにしたらこうなっていた。

 特段やりたいプレイスタイルが決まっているわけではないし、そもそも私の目的からして、切った張ったの大冒険をする予定もないしね。

 それに私がキャラメイクでこだわりたいのはステータスではなく、別にあるのだ。



「では次にミスカ様の容姿を決定いたします」


「よしきた」


 そう、私が気合をいれて作りこみたかったのはまさにここ。アバターの見た目である。

 私が普段プレイするような恋シミュでは、もちろんその大半でアバターを設定することはできるけれども、それを見るのは攻略対象の男子たち……つまりNPCばかりなのである。

 いくらがんばってアバターを作ったとしても、自分以外に見てくれる人がいないとなると少しばかり寂しいものだと感じていたのだ。


 それが今回はせっかくMMORPGとして中身入りのプレイヤーたちと関わるのだ。ここはびしっと女子力高めのお色気美女を作り上げ、モテコーデでばちこり決めたいという狙いである。第一印象はまず見た目からってね。

 現実では残念容姿の私であるが、ゲームの中でくらい夢を見させてもらってもバチは当たるまい。


 

 ふっふっふ……数々の乙女ゲーでモテまくってきた私の力をなめるなよ……!


 私はむん、と一つ気合をいれ、与えられたコンソールに向き合ったのであった。


お読みいただきありがとうございます。

本日中に投稿いたしますので、ぜひ後編もよろしくお願いいたします。


※基本的にこの小説内においてステータスはフレーバーです。


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