18.特攻商隊Aチーム
昨日キスの日だったんですね……。完全に乗り遅れた……。
そこで幕間をやらずにいつやるというのだ……!
一度目の現場検証を終えてイルメナへ戻り、報告と相談を兼ねて銀龍の鱗亭にお邪魔していたときのこと。
「やっぱりぃ、商隊っていうのがフラグなんじゃないでしょうかー?」
イベントを進めるにはやはり『商隊』がキーワードなのではないかということと、一仕事した後のキンキンに冷えたビールは最高においしいということで意見の一致を見た私たちは、改めて商隊を編成して事件現場へ向かうことにした。
リリアさんに手伝ってもらい、ギルド経由で商隊の募集をかけたのだが、協力してくれるという商人さんがすぐに見つかったことには驚いた。
なぜこんなにすんなり商人さんが見つかったのかといえば、実は今回の依頼はギルドが直接発行しているという背景によるものであるらしい。
ギルドがこの内容で依頼を出したということは、ギルドから見ても達成のために問題のない護衛戦力が保証されているという風に受け取られるのだという。
商人といえば耳が早いイメージなので、当然街道の状況については知っているはずではあるのだが。
だからこそ、この時期に行商に成功した場合のうまみを天秤にかけて、リスクをとったということなのだろうか。
まぁたしかに今回の戦力を見れば、クエスト失敗という結果はとても想像できないというほどの安心感しかないが、……とはいえそれは私が彼らを知っているからこその話なわけであって。私たちを信じて商隊を出してくれる商人さんには改めて感謝である。
さぁて! そのイカれた護衛メンバーたちを紹介するぜ!
その一、見た目はふんわりもちもち、中身はプロゲーマー! モチリコ!
遠距離物理火力ならお任せの弓使い!
その二、見た目はチャラ系イケメン、中身はプロゲーマー! イングベルト!
バランスよくなんでもできる軽戦士! なおモチリコちゃんには勇者様ぁ!とあおられていた模様!
その三、見た目はクール系イケメン、中身はプロゲーマー! エドガー!
見た目通りの魔法使い! なお本名は江戸川!
その四、見た目は武骨系イケメン、中身はプロゲーマー! カイ!
頼れるパーティーの盾! 個人的には乙女ゲーなら最初に狙うタイプ!
その五、私! 以上!
……おう、なんだこれ。
戦力過多っていうかなんていうか。過半数っていうか私以外全員プロじゃんね。
ちょっと大人げなくない?
なぜこうなったのかといえば、話はやはり昨夜へと巻き戻る。
実はモチリコちゃんと今回のプランを相談していたところ、以前に知り合ったイングベルトさんたちにもユニーククエストのことを話してもいいかどうかと確認されていたのだ。
モチリコちゃんが信頼している相手であれば構わないといったところ、やや複雑な顔をしていたが、まあ伝えたということはそういうことなのだろう。
たしかに商隊として動く以上、前回のような荷馬車一台というわけにはいかず、今回は商人さん一人に対して馬車三台という形となった。
これでも商隊としては非常に小規模だというが、まあ私としては最低限商隊と呼べるものでさえあってくれればいい。
これを守るにあたって、最低でも護衛は五人必要とリリアさんからのアドバイスがあったため、残りの三人をどうするかと考えたとき、モチリコちゃんの頭に浮かんだのが例の三人組であったというわけである。
そんなこんなで現在私たちは再び例の現場へ向かうべく、馬車の中にいる。
そう、中だ。今回は屋根付き箱型の馬車である。
とはいえ前回のようにスカスカの荷馬車ではなく、ある程度売り物を詰め込んでいるため、私たちに与えられたスペースはやや狭い。
大柄なカイさんだけは自前のかっこいい黒馬に乗って馬車に並走している。いいなぁ、乗馬スキルとか必要なんだろうか。私も馬乗りたい。
「いやぁ、まさかこんなに早く一緒にミスカちゃんと遊べる日がくるとは思わなかったわ!」
「そうですね」
何がそんなに楽しいのかというほどの笑顔でイングベルトさんが声をかけてくる。
本当にそう思う。だってレベル差がやばいもん。
「つうかユニーク見つけたって聞いた時はビビったけど、マジだったんだ」
「ええ、まぁ……なんていうか本当に偶然なんですけど」
ぶっちゃけ連日ソフィアちゃんとおしゃべりしながらビールを飲みまくっていただけといってもいい。
「いやぁ、偶然でもすげーよ! センスっていうの? 一応プロゲーマーの俺らだって一つもユニークなんて見つけられてないし」
「いやぁ……あはは」
なんというか、近い。物理的にじゃなく、精神的な距離が。
「やめろと言っているだろう、イングベルト。彼女が困っている」
「まーたそれかよ、エド」
茶目っ気たっぷりにふてくされる仕草も似あうというのがこのイングベルトさんのすごいところではあるのだが、どうやらモチリコちゃんが言うには彼は見た目にも性格的にも、リアルとアバターの差がほとんどないという。
それでいてプロゲーマー……さぞやおモテになるのでしょうなぁ……。
私のような日陰者からするとまぶしすぎてちょっと距離感が必要になるレベルである。直射日光をガンガンに照射される吸血鬼のような気分とでもいえばご理解いただけるだろうか。
「あんまり私のミスカちゃんを困らせないでくださいねぇ? 嫌われちゃいますよー?」
いや、ちょっと距離をとってほしいというだけで、別にこれくらいで嫌ったりはしないし、モチリコちゃんのものでもないが。
「今回はぁ、ユニーククエストを見つけたミスカちゃんのぉ、好意によるおこぼれだってことを忘れないようにぃ!」
「ははー!」
大仰にそう宣うモチリコちゃんに対して、これまたわざとらしく平伏すイングベルトさん。
なんだかんだで普段から仲のいいチームなんだろうなぁ。
テンションの高い二人のやりとりを微笑ましく眺めていると、なんとなくこちらも楽しい気分になってくる。
ああ……これが陽の気というものか……。
「仕事のときはもう少し……うむ、もう少しだけちゃんとしているのだが……」
私の生暖かい視線に何を感じ取ったのか、言い訳がましくそう訴えるエドガーさんであった。