15.AGI極振りでいこう
皆様のおかげで日間と週間、どちらもランクインを続けているようです。本当にありがとうございます。
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あらためて私のステータスを確認したモチリコちゃんは、実家で飼ってたペットが実はツチノコだったと言われたような、なんとも面白い表情を見せてくれた。
「AGI極振りですかぁ。思い切りましたねぇ」
「うん、あくまで今のところは、だけどね」
たいていの人はSTRやMAGといった自分の使いたいスキルにあった火力面から上げていくか、タンクなどであればVIT、生産メインならDEXを上げるといったことが主流らしい。
AGIやLUKはあくまで補助ステータスであり、そこをメインに上げていくスタイルはあまり見ないとのこと。
とはいえ、それこそ100人いれば100通りの楽しみ方があるアヴァオンである。モチリコちゃんも珍しいとは言ったものの、それ以上の否定はせずに「それならそれで全然いいと思いまーす」といって笑っていた。
一応AGIを上げたことには理由があることについても説明しておこうと思い、意識に身体がついてきていないような違和感があることを告げると、モチリコちゃんは驚いた表情を見せた後、納得いったように何度かうなずいた。
「そういえばミスカちゃんは昔から運動神経よかったんでしたっけー」
「まぁまぁ、それなり?」
別に練習したり、頑張った成果でもないので、誰かに誇ったり比べるようなものでもないが、たしかに悪くはないと思う。
社会人となった今では何の役にも立たないが、私は物心ついたときから、かけっこや短距離走というもので負けたことがない。
とはいえ別に陸上部に入っていたわけではないし、たまたま一緒に走った相手よりは早かったというだけで、探せば私なんかより足の速い子はいくらでもいるとは思うが。
……そういえば父親が若いころは何かのスポーツでいいところまで行ったとか聞いたことがあるし、これも血かと思うとなんともいえない気持ちになるが、まぁ今となってはどうでもいいか。
「体育祭のリレーで最下位からの全員ぶち抜き事件忘れちゃったんですかー?」
「あー……なんかそんなこともあったようななかったような……」
モチリコちゃんのセリフで、懐かしい記憶が…………いや、特によみがえらないわ。
体育祭なんてのんびりお弁当を食べたり、りこちゃんとだべってたシーンしか記憶にない。毎年短距離走とリレーだけ半ば無理やり走らされてたから、多分走ったのは走ったんだと思うけど……結果とか覚えてないなぁ……。
「ミスカちゃんはわかってないかもしれませんけどぉ、普通リレーのアンカーってみんな陸上部とか運動部のエースなんかが出てくるんですよー?」
……帰宅部なのにそんなところに放り込まれていたなんて、もしかして私は嫌われていたのだろうか。
「まあそれはともかくとしてぇ、たしかにミスカちゃんの言ってるそれはアバターのスピード……アヴァオンでいえばAGIを上げれば解決すると思いますよー。VRMMOに限らず、動きの速いVRゲーム全般に起きる現象なんですけどぉ、運動神経や反射速度のいい人が稀に感じるやつですねぇ。私も格ゲーでたまに鈍足パワーキャラとか使うとそうなりますよー」
「今までVRゲームしててこんなこと感じたことなかったけどなぁ」
「それはミスカちゃんが恋シミュしかしてないからでーす」
「……ああ、なるほど」
言われてみればVRゲーム内で激しく動き回ったことなど、昨日のことが初めての経験かもしれない。
「いくつくらいまで上げれば感じなくなるんだろう、これ。結構気持ち悪いんだよね」
「こればっかりは個人差だからなんともですねぇ。とはいってもミスカちゃんの今のAGIがもう50以上あるんですよねぇ? 普通なら十分動けるように感じるレベルだとは思うんですけどー」
「うーん、最初の頃よりは少しマシだけど、まだやっぱりもっさりしてるかな」
「ふぇぇ……それならまずはその違和感がなくなるまではAGI上げ続けるのがいいんじゃないでしょうかぁ。最初は不利に感じるかもしれませんけど、育っちゃえばきっと武器になりますよー」
「そうなの? 結局私にとってはこの違和感がなくなるだけで、最初から気にならない人が高AGIにしたほうが強くない?」
普通の人がゼロからプラスになるのに対して、私の場合はマイナスがゼロになるだけな気がするのだが。
「今ミスカちゃんが感じてるような違和感、中身とアバターの能力のギャップっていうのはぁ、マイナス方向でもプラス方向でも起こるってことですねー。つまり本人の反応速度がそれほど高くない人が無理やり高AGIにしてもぉ、アバターの動きが早すぎて制御しきれないっていうかー」
「運転の苦手な人がF1マシンに乗せられてるみたいな?」
「乗ったことないですけど、イメージ的にはそれに近いですかねぇ? アクセル踏めばそりゃスピードは出るでしょうけど、それでうまくカーブを曲がれるのかは別ってことですねー」
もちろんゲーム的補正がかかりますし、ある程度はステータスなりに素早く動けるようにはなるんですけど、と補足してくれるモチリコちゃん。
「ま、そういうわけなのでぇ、もしミスカちゃんがそのままどんどんAGIを上げていってぇ、高AGIのスピードでもギャップを感じずに動けるのであればぁ、数字上は同じような高AGI帯の戦いでもぉ、圧倒的に有利がとれるってことですねー。個人的にはそのまましっくりくるところまでAGI一本でいくことをお勧めしまーす」
「ん、ありがと。そうしてみる」
となると、ひとまず昨日のレインボーフロッグとの戦いで上がったレベルの分もAGIに全振りして……っと。
「あ、そうだ! レインボーフロッグってモンスター知ってる?」
「おぉ、南の草原のレアモンスですねー。遭遇しちゃいましたー?」
「死闘だったよ……」
私が昨日の戦いを語って聞かせると、モチリコちゃんはうんうんと強く同意してくれた。
「あいつ本当にめんどくさいですよねぇ。全然こっちの攻撃あたらないですしぃ、しつこく追いかけてきますしぃ。当たると痛いしぃ。しかも何が最悪ってぇ、特殊な習性持ちらしくてぇ、こっちのレアアイテムだけ奪ったら逃げていくんですよぉ……。ほんと性格悪ーい」
聞けばどうやらモチリコちゃんも以前に高価なアイテムを奪われたことがあるらしい。
ミライちゃんの部屋の鍵取られなくて本当によかったなぁ。
ともあれ、やつとの死闘は話の前座。本題はここからである。
「それでそいつを倒したらこんなのがドロップしたんだけど」
「ん? んんん!?!?!?」
うむうむ、期待通りの見事な二度見である。
私がインベントリからレインボーフロッグソウルを取り出して見せると、モチリコちゃんは今日一番のリアクションを見せてくれたのであった。