13.光の正体
末席にではありますが、週間VRのランキングにも名前を載せていただいたようで、驚いております。
それもこれも読んでくださっている皆様のおかげです。ありがとうございます!
「あっ……ぶなぁ!」
予想外の動きに対する混乱と驚きで一瞬避けるのが遅れたが、幸い狙いが避けやすい場所だったため、間一髪で回避することができた。
ここに及んで謎の光は私の胸元ではなく、腰のあたりを目がけて飛んできたのだ。
全身をどばどばと冷汗が流れる。そんな機能まであるのかと変に感心してしまうが、今はそれどころではない。
集中しないと本当にやられてしまう。
「どういうことなの、ったくもー!」
相手の狙いがわからなくなってしまった以上、まずは様子を見るしかないだろうか。
幸いこの深い闇の中で煌々と輝く敵の姿はとても目立っている。
これがもし暗めの色合いの敵であったならば、いくら視界に補正があるとはいえ、私はとうに直撃をもらっていただろう。
私は先ほどまで以上に必死になって、どこに向かって飛んでくるのかわからない光の回避に専念しながらも、紙装甲で敵の攻撃に晒され続けるってこんな気持ちかぁ、などと今更ながら当時のゾッドに与えられていた不遇を察していた。
火力はあっても前衛の癖に紙装甲で使いにくいと言われていた彼を、最大好感度を維持した状態であきらめずに第一線で育て続けることによって、物語も佳境を迎えるころになってようやくまともな回避スキルを覚え、最終的にはラスボスの攻撃すら回避できる唯一無二のキャラになってはくれるんだけど……。よくがんばったなぁ、ゾッド。
もし私が今のような状況で連日戦闘をさせられたらやさぐれてしまうこと間違いなしである。
「おおっと!?」
ゾッドとの記憶に少しばかり思いを馳せていた私を、容赦のない敵の攻撃が襲う。
半身となり、ベルトのあたりをかすめるように抜けていく光弾を最低限の動きでかわし、そのままダンスのステップを踏むように、飛び去った光を正面に捉えるようくるりと半回転して次の攻撃へ備えると、跳弾のように数度地面を飛び跳ねた相手が繰り返し低空飛行で迫る。
ステップ、ジャンプ。体勢を崩されればしゃがんでかわし、転がりかわす。滑るように起き上がろうとしたところへ地表すれすれに飛んでくる光をかわすべく前方宙返り。
意識との完全な同調こそまだできないものの、先ほど上げたAGIによるゲーム補正もあってか、こうした素早い動きにもキャラクターがついてきてくれるのがどこか楽しくもなってくる。
脳内ゾッドの励ましを受けながら、何度となく襲い来る光の回避に徹する。
相変わらず無茶なスピードで一直線の突撃を繰り返す謎の光であるが、先ほどからどうも再び狙いがワンパターンになっているような……おやぁ?
「今度は下半身ばっかり狙ってきてる……?」
もっと正確にいえば腰の右側のあたり。そう、ちょうどさきほどミライちゃんの部屋の鍵を入れた右ポケットを目がけて……ってこれはもしかして、そういうことなのか……?
理由はわからないが、こいつ……もしかして最初からこの鍵をずっと狙い続けていたのでは?
さきほどまで胸元を狙われているように感じていたのは、この謎の光にとって、そこにぶらさがっていた鍵が狙いだっただけなのかもしれない。
「よし……それなら……!」
私は念のため短剣を左手へ持ち替えてから、先ほどしまったばかりの鍵をハーフパンツのポケットから取り出し、ストラップをもった右手でそのまま肩先のあたりへぶら下げる。
その動きをみた光は、予想通り、クマさんキーホルダーを目がけてまっすぐ飛び込んできた。
「やっぱり!」
右手だけを少し引いて、光弾の進路から難なく鍵を逃がしてやる。
なかなかうまくいかないことへの苛立ちを表すかのように、着地した先の地面でシュバババっと激しくステップする謎の光。
「いやぁ……そろそろ終わらせたいと思ってるのは私も同じなんだよね」
ずいぶんと長いこと一方的に攻撃されていた気がするし。いまだに敵が何なのかもわからないし。大切なミライちゃんの部屋の鍵を狙われるし。イライラしたいのはこっちである。
それでもまぁ、ようやく敵の行動パターンが読めたのだ。
いざ、反撃の時間である。
『だが……あの超スピードだぞ、どうする?』
脳内ゾッドがそう問いかける。たしかにプロ野球投手の火の玉ストレートも斯くやというスピードである。
「けど、ヒットやホームランだけが野球じゃないってね」
そもそも野球じゃないだろというツッコミは甘んじて受け入れるとして。
先ほどと同じように私の肩先に構えられた鍵を目がけて、光がまっすぐ突っ込んでくるタイミングを見計らい、私は光と鍵の軌道上に短剣を構える。
たしかに今の私のレベルではこんな超スピードの動きに対してこちらから攻撃をあてることはできないけれど、敵の狙っている的がわかっているのであればそこに攻撃を置いて待つくらいであれば……!
名付けてバント作戦!
ずんっ!
私の両目が光の動きを捕えた刹那、短剣を握った左手から伝わってくる予想外に重い衝撃を受けながら、それでも短剣を前へと押し出し……押し……押し出そうと……あ、無理だこれ。
「きゃっ!?」
最終的には相手の勢いに負けて、ごろごろと後ろ向きに一回転してからおしりを痛打してしまった。
「いたたた……」
だが手ごたえはあったと思う。
じんじんと痛むおしりをさすりながら後ろを振り返れば、そこには見事に真っ二つに分かれた光が転がっていた。
一体これが何だったのか確認しようと近づくと、致命傷を受けたことで発光が弱まったのか、その中身が徐々にはっきりとしてくる。
そして光が完全におさまり、その正体が明らかになったとき……そこにはピクンピクンと痙攣しながら虹色に輝くカエル……そう、カエルがいた。
「うぇぇ……まじか……」
ただでさえ苦手なカエルが頭からおしりまで見事に上下真っ二つになっている姿は、たとえゲーム的デフォルメ効果がかかっていたとしてもあまり見たいものではない。
早く消えろポリゴンの海へと還るのだ。
そう祈りながら経験値やドロップアイテムを回収するため、瀕死の虹色カエルの様子を薄目でちらちらと窺っていると、ようやく完全に力尽きたのか、他のモンスターと同じようにきらきらと光るポリゴンになりながらその死体は消えていった。
ふと心配になって短剣をあらためるが、幸い特に体液などが付着していることはなさそうで、ほっと溜息をつく。
そういえばホーンラビットを狩ってる間も血がついたりはしなかったもんね。本当にこれがゲームでよかった……。
「なんかどっと疲れた……」
短剣は無事であったものの、何度も転がりまわったせいで全身汚れまみれのぼろぼろである。
虹色カエルのドロップを回収したら今度こそ町へ戻ろう。
そう思ってポリゴンとなって散ったカエルのいたあたりを見ると、これまでに見たことのない、こぶし大のクリスタルの結晶のようなアイテムが落ちていた。
「んん? なんだろこれ」
・レインボーフロッグソウル
レインボーフロッグから極稀に手に入る力の結晶。ソウルにはモンスターの特徴と力が宿る。ソウルを武器に付与することで下記の効果を得る。
AGI+30
スキル<煌極閃>使用可能
「その奇妙なカエルは私にとって一番大切なものだけを奪い去っていきました」
――ある婦人の言葉
ほぉん……? これはモチリコちゃんに相談案件かな……。
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