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11.初めての狩り

過去部分に関して、いただいたご意見をもとに加筆修正を行っております。

現時点では1~4話まで完了しており、4話についてはやや大きく加筆が行われています。

物語の展開に影響はありませんので無視していただいても問題ないのですが、もしご興味を持っていただければ、再度ご覧いただければ幸いです。


 すでに武器屋も閉まっているということで、去り際にモチリコちゃんが貸してくれた初心者が使うには上等すぎる短剣を装備した私は、イルメナの南東門へときていた。



「今夜は月が暗い。気をつけろよ」


「ありがとうございます。おじさんもお気を付けて」


「ったく。俺はまだおじさんじゃねえっていつも言ってるだろうが……」



 イルメナには噴水広場を中心とした三本の大通りを抜けた先に、北、西、南東とそれぞれ三つの門があり、よほど怪しい者でもなければ夜間であっても基本的に自由に出入りすることができるようになっている。

 冒険者が多いこの土地ならではの風土であろう。


 門番のおじさんに見送られ、お礼をいって南の草原エリアへと向かう。ちなみに彼はどう見てもおじさんである。


 全くと言っていいほど狩りをしてこなかった私ではあるが、採集クエストのために門の外へ出ることはあったので、挨拶や雑談をしているうちに門番の人たちともそれなりに顔見知りとなっていた。

 とくにこの元冒険者だという南東門のおじさんは、今でもしっかりと引き締まった身体に加え、ぶっきらぼうでダンディーというなかなか渋いキャラをしているため、ひそかにお気に入りであった。


 ミライちゃんが気合を入れて作りすぎたためか、プレイヤー、NPCを問わず、多くの男性キャラクターは私を見ると目の色を変えたり、胸元を見て残念そうな顔をするということが多いのだが、このおじさんは初対面のときですら一切それらをしなかったのもポイントが高い。実に硬派である。


 リアルの顔や身体をじろじろ見られるならともかく、アバターなら別に見られても減るものではないし、男性はそういうものだと思っているので気にはしていないのだが。



「おじさんって結婚とかしてるんですか?」



 なんとなく気になり、だるそうに門に寄りかかっているおじさんを振り返って聞いてみた。



「あぁ? 突然なんだそりゃ」


「いえ、完全に興味本位なんですけど。言いたくなければ別に……」


「ちっ……してねえし恋人もいねえよ。悪いか」


「おっ、それじゃあ今度デートしますか?」


「ふざけんな、何が悲しくて自分のガキでもおかしくねえような年頃の奴とそんなことしなきゃならねえんだ。あと10年たってもう少し色気が出てから言いやがれ」


「ちぇー。ていうかやっぱりおじさんじゃないですか」


「ぐっ……! もういいだろ! さっさと行け!」


「はーい、おつかれさまでーす」


 しっしっとまるで野犬を追い払うかのごとく邪険な態度だが、おじさんに笑顔で手を振り返してやると、門にくくりつけられた灯りが照らし出すその顔はしっかりと赤く染まっていたのだった。

 くっくっくっ…かわいいやつめ。私の中のお気に入りポイントを加点しておこう。


 まぁ、残念ながら今回はふられてしまったようだし、アヴァオンが乙女ゲーとしても遊べるかもしれない説の検証はまた次回へ持ち越しである。



 さてさて、ふられたてほやほや傷心の女子こと私は、この胸の痛みを忘れるべく、無心でレベリングへと臨むことにした。


「んん……たしかにすこし暗いなぁ」


 とはいえここは背もそれほど高くない草原であり、視界は開けている。


 ホーンラビットはその名の通り、角の生えた大きなうさぎである。大型犬くらいの大きさがある上に丸々としているので、もし視界に入ればすぐに気づけるだろう。


 幸いというかなんというか、ピンクフロッグにはまだ遭遇したことがないのでわからないが、もし同じくらいの大きさがあるのであれば……せっかく教えてくれたモチリコちゃんには申し訳ないが、私は戦う前に逃走を選びたい。だってカエルだし。無理でしょ、カエル。


 どうかピンクフロッグには出会いませんように。


 そんなことを祈りながら歩いていると、視界の端で何かが動いた。


「お、いたいた」


 ホーンラビットである。

 距離は10メートルほどだろうか。まだこちらに気づいていないのか、ぼーっとしているホーンラビットの死角に回り込んだ私は、以前にこそこそとモンスターから隠れながら採集していたら覚えた「気配遮断1」のスキルを発動させてぎりぎりまで近づきながら、覚悟を決めて短剣を構え、一気に走りこむ。


「ぎー!」


 ほとんどゼロ距離となるあたりで、ようやくこちらに気づいて振り向いたホーンラビットが、妙にかわいくない鳴き声とともに頭の角を振りかぶった。


 私は足をとめず、強くにぎった短剣をすれ違いざまに振りぬく。


 やたらといい手ごたえに振り向けば、角を振りかぶった姿勢のままかたまっていたホーンラビットはぐらりと傾き、すぐに光の粒子となって消え去った。


「おお、一発じゃん」


 初めての戦いでもなんとかなるものである。モチリコちゃんから借りた武器の性能もあるのだろうけれど。


 同じように気配遮断を使い、腰を落として、できるだけ敵に気づかれないように近づき、背後から首根っこを一刺し、という戦い方であっさりと二匹目、三匹目と倒すことができたのだが、四匹目で初めて相手に先に発見されてしまった。


 大胆に突進してくるホーンラビットは、その角のせいかなかなかの迫力である。


「けど、意外と温情スピードかな」


 お腹のあたりすれすれを尖った角が掠めていくが、その程度は父に受けた()()()()に比べればどうということもない。

 見てから十分に避けられる程度のものであるし、基本的に一直線の突進なので、避ければ背後は隙だらけである。


「よっと」


 ホーンラビットが目前に迫ったところでステップを試み、側面から首筋に短剣をそわせるように押し付ける。

 あとは勝手に駆け抜けていったホーンラビット自身の力で十分な傷となり、そのまま振り返ることなくポリゴンの粒となって消えていった。


「ふー……これがVRMMOの戦闘かー」


 これはこれで運動をしているようでなかなか楽しいものだ。

 モチリコちゃんたち……というか大半のプレイヤーが狩りや冒険をメインにするのもわかる気がする。 


 気をよくした私は、ログアウトの時間まで戦いのための動き方の練習とレベリングを続けることにした。


 こっそり近づいてさくり、ひらりとかわしてさくり、と特に危なげもなく狩りを続けることしばらく……。



「ゲコッ」



 ……ん? 今なにか聞こえた?


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