10.モチリコちゃん、クエストを語る
やっとユーザーページの使い方とかがなんとなくわかってきました。
本日3度目の更新となります。やっぱりお休み最高だなって。
脳内に響いた言葉を一瞬理解できず、私は念のためシステムログを確認する。
――特定の条件を満たしたため、ユニーククエスト「イルメナ防衛戦」が受注可能です。
――クエストを開始しますか?
……どうやら聞き間違いではなかったらしい。
隣をみると、同じようにシステムログを確認したのであろう、明らかに混乱している表情でインターフェースをいじっていたモチリコちゃんと目があった。
「ユニーククエストって……アレだよね?」
私には縁がないと思いろくに調べてはいないため詳しくはないが、たしかアレである。
「アレが何を指してるのかわかりませんけど、アレですねぇ」
私の非常にぼんやりとした問いかけに対して、同じようにぼんやりと答えてくれるモチリコちゃん。
「えーっと……どうしよっか?」
……まぁ、答えは決まっているようなものなのだが。
「はー! びっくりしましたー!」
叫びながらうつむけのままベッドに飛び込むモチリコちゃん。
こら、お行儀悪いから足をばたばたさせるんじゃないの。
正式に依頼を請け負うことを告げた私たちは、改めて深々と頭をさげる美人姉妹二人に見送られながら一度銀龍の鱗亭をお暇することにした。その後、お互いもう少し相談したいということで、手近な宿屋で一室を借りたのであった。
本当に申し訳ないことに私がこの体たらくである。まずは基本からということで、ベッドにつぶれたままのだらしないモチリコちゃんがクエストの種別と扱いについて説明をしてくれた。
まずアヴァオンにはそれこそ無限と思えるほどのクエストが用意されているというのが全プレイヤーの共通見解であるが、それらクエストには実はいくつかの種別が設定されている。
例えばそれぞれの条件を満たすことで誰でも同じクエストを受けることができ、その数も最も多いとされている通常クエスト。
また、主に運営によって直接発表され、期間や条件などを限定して行われる限定クエスト。
ほぼ全ユーザーを巻き込むことになるワールドクエストなどである。
実はほぼすべてのクエストはこれら三つのうちのどちらかに含まれるのだが、これらの共通点として、情報が発見されたものについては、基本的にプレイヤー間でシェアされているという点がある。
MMOあるあるらしいのだが、アヴァオンの世界もご多分に漏れず、個人で調べるには広すぎて限界がある。そのためそれぞれのプレイヤーが自分らしいプレイスタイルの中で楽しんだ結果、手に入れた情報をシェアすることで、ユーザー同士無理なく互助関係を築いているのだ。
そんな中、異彩を放っているのがこのユニーククエストである。
これについては基本的に情報がほとんど出回らない。
なぜかといえばユニーククエストはその名前の通り、ユニーク、つまり固有の要素が高いものだからだ。
ユニークの名が冠されたクエストに関しては、だれかがそのクエストをクリアしてしまった時点で、それ以降のプレイヤーの受注や達成が不可能になる。
ただしクリア前であれば複数のプレイヤーが受注すること自体は可能なため、未達成のユニークイベントの発生条件やヒントを広めることは、自分以外のライバルを増やすこととなってしまう。
VRMMOというジャンルにのめりこんでいるプレイヤーの中で、せっかく見つけた自分だけのシナリオや報酬を、見ず知らずの誰かに譲ろうという物好きはそうそういないだろう。
そのため、もしユニーククエストの情報が出回ることがあるとすれば、身内同士で融通したものか、その時点でほぼ間違いなく攻略済みのものだということである。
モチリコちゃんですら、ユニーククエストの情報はもちろん、クリアしたというプレイヤーを知らないらしい。
「いやぁ、まじですかー……。正直ー、話聞いてる途中でぇ、規模の大きさ的にワールドクエストのフラグひいちゃったかなーとまでは思ってたんですけど、まさかユニークに出会えるとは思っていませんでしたねぇ……」
「受けたはいいけど、私これ達成できるのかな……」
なんせ貫禄のレベル1である。
「そこは心配っちゃ心配ですけどぉ、別に今すぐにその敵を倒せってわけじゃないですしー。もちろんのんびりはしていられないですけどぉ、きっと対策はできるー……と思うんですよねぇ」
「さすがプロゲーマー」
「ふふーん、崇め奉れー。……まあ二人で一緒に受けられたのがお互いにとってラッキーでしたねー」
「え、なんで? そりゃ私は一人じゃ攻略できないだろうからモチリコちゃんがいてラッキーだけど、モチリコちゃんなら私がいてもいなくてもあんまり関係ないんじゃない?」
「うーん……これは想像なんですけど、これフラグ自体はミスカちゃんが立ててたんだと思うんですよねー。今まで何度もこのお店に通って、一杯お金使って、ソフィアさんと親密度上げて、みたいな。ほかにも細かいフラグはあるかもですけど。多分イルメナの食糧事情がある程度深刻になった段階で、特定のNPCと仲良くなってる、信用されてる、っていうのがクエストが生えるかどうかの重要な条件なんじゃないかなーって」
「なるほど……」
「私たちみたいな前線にいる攻略大好き組はとにかく人よりレベル上げたいとか、人より先に進みたいとか、私も含めてそんな連中ばっかりですからー。正直いってNPCとそこまで親密にお付き合いしてるプレイヤーなんてあんまりいないんですよねー。だからこのクエストも私一人じゃ一生見つけられなかったかなーって」
「えー、もったいないなぁ」
このゲームのNPCたちはとてもプログラムされた存在とは思えないほどに人間味にあふれているのだ。男性でも女性でも恋シミュ的に遊べる出会いが隠されていても全くおかしくない。そろそろ軽めの出会いイベントを探してみようかと本気で考え始めていたほどである。
……まぁ先日ふわっと考えてみた通り、真剣になるとちょっと重い展開になりそうな予感があるのが難しいところではあるのだが。
「私に言わせればこの広大な世界を冒険しないミスカちゃんのほうがよっぽどもったいなく見えますけどねぇ……」
「それを言われちゃうと弱いかも」
たしかにユニーククエストの問題だけではなく、かわいい妹から頼まれた大会という一大イベントも待っているのだ。
これを機に少しは冒険の世界へ足を踏み入れてみるのもいいのかもしれない。
まぁそれもこれも全てはこのユニーククエストを無事にクリアしてからの話だ。
「私はこれから一度ログアウトしてぇ、リアルのほうで情報探ってみまーす。ユニーククエストの情報はないでしょうけどぉ、街道を封鎖してるっていうモンスターについては何か出てくるかもしれませんしー」
「私はこのまま少しでもレベリングかなぁ……」
「そうですねぇ、もうギルドやってないので依頼を受けられないのがちょっともったいないですけど。えーっと、初期の経験値効率でいえば南の草原にいるホーンラビットかピンクフロッグあたりが狩りやすくておすすめですよー」
「フロッグ……カエル……? ピンクの……?」
「えぇ、まぁ。でもデフォルメされてますし、そんなキモくないからいけるいけるぅー」
「うぇぇ……」
がんばってくださーい、と気楽な応援を残してログアウトしていくモチリコちゃんを見送り、私は本当に今更ながら初めての狩りに行くため、重い腰を上げたのであった。