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3.初めての王都と衝撃②

がやがやと人の声が絶えず行き交い、たくさんの人や物が通り過ぎていく。食べ物や潮の匂いが充満する中でほかに微かに香るのは焦げ臭い匂い。見慣れた山の景色は遙か後方で、見えるのは海沿いの都会だった。


日も落ちる頃、私はようやく王都に辿り着いた。


出発したあの後、山を越えて隣領へと着いた矢先に雨に降られ、一度宿に泊まることとなった。それから馬を帰し、湖を舟で渡り、馬車に乗ったり歩いたりして今ここにいる。なんだかんだで2日近くもかかってしまった。


王都に着いた後は入学前でも寮に住めることになっている。さっそく私は学院を探して歩き、今寮の前にいる。


さすが、王立学院の寮とでも言えばいいのか。本当にここは学生が住むところなのかと疑ってしまうほど豪華だった。


まず、入口がどこかのお城の城門のよう。真っ白な壁が続いたあと見つけた鉄門は閉ざされていて、入口の前には鎧を着た兵士らしき人が二人、両側にそれぞれ立っていた。


そこから見える中の景色だけでも建物がとても遠くて、いかに敷地が広いのかを思い知らされる。奥に佇む建物は本当にお城のようで、こんなに立派な建物はエルラントにはない。


私はとりあえず入ったらいいのかな。でも到着次第入寮と父様は連絡をもらったらしいから、あの門番らしき人に声をかければいいのよね?


手に提げていた大きな鞄を持ち直し、立派な城門に少し気圧されながら私は門番兵に近づいた。


「あの、すみません」


「どうされましたか?」


私が声をかけると、門番兵は私に向き直って返事をしてくれた。良かった、案外怖くはないみたい。なにせ格好が格好だから甲冑で顔も良く見えないし、威圧感がある。


「私はフィオナ・エルラントと申します。あの、ここは王立学院の寮ですよね?」


「はい、こちらは学院寮です。なにかご用でしょうか?」


「この秋から入寮することになっているのですが、どこから入ればいいのでしょう」


 聞いてみると、門番兵は少し困ったような顔をした、と思う。顔が見えないせいで、言動と雰囲気から勝手にそう判断するしかない。彼は少し首を傾げてうーんと呟いた。するともう一人の門番兵がやってきて、どうした、と声をかけた。


「新入寮生らしいのですが、この時期には珍しいもので・・・」


ああ、と後からやってきた門番兵は呟いた。そして私に向き直って言う。


「何か証明書などはお持ちですか?」


証明書、そう聞かれて私は父様に渡されていた書状を思い出す。そして上着のポケットから取り出して、門番兵に渡した。


お前の身分を証明するものだから大切にしなさい、と父様に言われていたものだ。なら、身につけておいた方がいいと思って内ポケットにしまっていた。王都には初めて来るのだから、顔を覚えられていることなどないと言っていいだろう。


「少々お待ち下さい」


門番兵は書状を持って、城門の中へと消えた。どうやら誰かを呼んで来てくれるらしい。初めに私が声をかけた門番兵と少し待つことになった。


「あなたがエルラント家のご息女だったんですね」


はじめの印象はどこへやら、この人はかなりフレンドリーなようで積極的に私に話しかけてくれる。甲冑の向こうでもにこやかな顔をしているのがわかる。なんというか、犬のようである。


「はい。といっても、エルラントは田舎ですけど」


「本当にそのようだね。付き人も付けずに王都までやってくるなんて」


どこかから男の声がした。とてもクリアな声で、明らかにこの門番兵の声ではない。


私と門番兵は声がした方を向いた。


するとそこには一人の男性がいた。


「あ、おかえりなさいませ、アルバート様」


門番兵はびしりと背筋を正し、敬礼をした。


アルバート。その名前を聞いた瞬間ズキンと頭が痛んだ。なんだろう、聞いたことがある名前だ。それに、この人どこかで見たことがある。


アルバートと呼ばれた人はとても整った容姿をしていた。


風に靡く太陽のような金色の髪と、鮮やかな海色の瞳。きりっとした印象の顔立ちとすらっとした長身を併せ持つ彼は、さらに輝くようなオーラをまとっていた。


そんな彼はどこか不遜な態度でこちらへ歩いてくる。


「田舎貴族が王都になんの用かな?」


ずいぶんと失礼なことを言いながら、アルバートは私を見定めるように上から下までじろりと眺めている。


まあ、田舎貴族と罵られることははじめからわかっていたし、なんなら自分でも田舎貴族と言ってしまっている。見た目も地味だと思うので、公爵令嬢というより針子の方が似合いそうだ。悪く言われることにさほどの驚きはないし、いつも馬や牛と生活していたから、ひょっとしたら力では私が勝ってしまうのではないか。


だめだめ、変な対応の仕方しちゃだめよね。よく父様も言っていたもの、さらっと気にせず流してしまえばいいって。


私が口を開こうとしたとき、さきほどの門番兵が誰かを連れて戻ってきた。


「おや、アルバート様。彼女とお知り合いですか?」


アルバートはまさか、と一言言って両手を上げる。


「物珍しい客人だから、少しお相手差し上げていただけだよ」


「最も、客人ではないがな」


門番兵と共にやってきた男性がアルバートの言葉を批判するように言った。


茶色の髪に優しげな翡翠の瞳をたたえた男性は、私に近づいてお辞儀をした。私もつられてお辞儀する。


「はじめまして。シェルクラーク王立学院へようこそ、フィオナ・エルラント嬢。俺はここの学生で、寮長をしているドエトル・ウィスタリアと申します。迎えが遅くなってごめんな」


男性もといドエトルは、最後は砕けたように笑って言った。


「いえ、こちらこそ到着が遅くなってしまってすみません。フィオナ・エルラントと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


ドエトルはアルバートよりも少し背が高くたくましい見た目の人物だったが、アルバートより優しそうだ。やっぱり、人は見た目によらないわよね。


「学生?しかも、エルラントの領主の娘ってこと?」


アルバートが私を指さして問うと、ドエトルは溜め息をついた。そしてアルバートに向かって吐き捨てるように言った。


「そうだよ、だからその態度はやめろよアルバート。俺と同等の立場のお嬢様なんだぜ」


そうか、ドエトルの名字はウィステリア。王都を除くとこの国内で1番大きな領地である。ひょっとしてそのウィステリアの跡継ぎなのだろうか。


「とは言っても所詮田舎貴族だろう?王立学院にはふさわしくないじゃないか」


・・・なんだろう、そんなにアルバートの態度は失礼に当たるのかな。いや、確かに少しむっとしてしまったけど、田舎なのは間違いないし別に弁明するつもりもない。それに私はエルラントで良かったと思っている。


それより、このドエトルという人も見たことがあるし、どこかで名前も聞いたことがある。考えはじめると、やっぱり頭が痛くなる。なにか、思い出しそうな・・・。


「まったく。そんなんで次期国王が務まるのかよ、アルバート王子?」


次期国王。王子。そんな言葉が聞こえてきて、つられるように頭の中にいくつもの映像が一気に広がった。



――やった!ついにアルバートのルートをクリアした!


誰かの声が聞こえる。


――これで全パートのスチルがそろったわ~!


そこには色んな“イベント”のイラストが描かれていて。誰かがそれを見て喜んでいる。


――あぁ~、明日も仕事、いやだなぁ。


歩いている女の子に、大きなトラックが近づいている。


――危ないっ!!


誰かの叫ぶ声と、つんざくような、そして引きずるような何かの音。


――痛い、苦しい。誰か、たすけて・・・


――私は、もうたすからないの・・・?


「・・・思い出したわ」


「・・・へ?」


今私がいるここは、ゲームの世界だ。だって、“私”はこのゲームをプレイしていたんだから知っている。でもあの日、突然目の前にトラックが飛び出してきて、いきなりのことで“私”は避けきれなくて・・・。


・・・それで、どうなった?


突然、目の前が真っ白になった。


「あ、おい!大丈夫か!?」


足元が覚束なくなって、私は意識を手放した。


最後に聞こえた誰かの声は、一体どこの世界の誰のもの・・・?



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