表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/50

9.秘密のお茶会

平和な日常を噛みしめていたら、夕方寮の部屋に帰ってきたアサヒが開口一番に爆弾を投下してきた。


「あのね、アルバートさんが友達になってくれるって!」


なんですって。あのアルバートがアサヒと友人に?


話をよく聞いてみると、やはりドエトルと会っていたときにアルバートがやってきて、話をしたのだという。アルバートはアサヒに興味を持っていたようで、話が弾み仲良くなったらしい。アサヒは楽しそうにすべてを語ってくれた。


ゲームのストーリーは絶対なのだろうか。ゲームとは違い二面性が浮き彫り立ち、そしておそらくエレーナ嬢と婚約関係にあるアルバートが、平民出のアサヒに興味を持った。私は少しそのことが恐ろしくなった。結局誰が何をしても世界はすべて彼女のために回るようになるのか。相変わらず私にはあまり直接関係がなさそうではあるけれど、それは誰かの思いが強制的に歪められるようで少し不愉快だ。


アサヒの言葉だけを信じてはいけないと思い、私はアルバートの方も確かめることに。


翌日、学院に向かうと、教室でアサヒが元気に挨拶する姿があった。


「おはよう、ドエトルさん、アルバートさん!」


「あぁ、おはよう」


「おはよ、アサヒはほんとに元気だよなー」


相手はドエトルとアルバートだった。二人ともにこやかにアサヒからの挨拶を返した。そこまではいい。挨拶をされれば誰だってきちんと返すものだしそれが礼儀だ。ましてやクラスメイトなら挨拶することになおさら違和感はない。だが、その後三人は楽しそうに笑談をしていた。それを見て、昨日アサヒが言っていたことは真実なのだと知る。二人が何を考えているかまではわからないけれど、少なくともアサヒを邪険に扱うような素振りは見られない。


貴族の世界で婚約者のいる異性に対して近づくことはマナー違反だとされている。とはいえ、アルバートとエレーナ嬢の婚約は公にされてないから私も憶測でしかものを言えないので、彼らが近づくことで周囲が抱く感情はきっと嫉妬程度に違いない。


まぁ、ある程度予想していた範疇なので、私は変わらず私の勉強をするだけだ。


そう思っていたのに、遠目に見えたある人物の顔が頭から離れなかった。




1日の講義が終わり、私はその人物の元に近づいてみた。決して自分から話しかけることはしないと決めていたのに、複雑そうな彼女の表情が忘れられない。


「あの、エレーナ様。大丈夫ですか」


教室を出てどこかへ向かおうとするエレーナ嬢の後を追い、人が少なくなったタイミングで私は彼女に声をかけた。エレーナ嬢は驚いた顔をしたあと、すぐさまいつもの凛とした表情に戻る。


「どういうことかしら。私は至って健康ですわよ」


そう言ってにこりと綺麗な笑顔を浮かべた。一切の隙のない彼女の完璧な笑顔に、私から言えることなどなにもないではないかと気づく。普段話もしない上に、一応公爵家令嬢同士といえど私は田舎者という意識があるのでなんだか彼女に対しては恐れ多い。いや、きっとゲームで悪役令嬢なんて肩書きを貼り付けられたことによって私が勝手に思っているだけかもしれない。とにかくなんの接点もない私がいきなりでしゃばってとやかく言うことではない。


「いえ、元気そうなら構いません」


でも、現段階では憶測でしかないことだけは確かめておきたい。


私は声を潜めて、エレーナ嬢に聞いた。


「エレーナ様は第一王子と婚約されていたりするのでしょうか?」


その瞬間、エレーナ嬢の翡翠色の目がきらりと光り、鋭い眼差しで私を見た。射貫かれる、とはこんなことを言うのだろうか。


「あなた、どこでそのことを?」


どうやらエレーナ嬢とアルバートは婚約関係にあるらしい。その返事だけで十分だった。


私は怪しまれないようにそれらしい言葉を並べて言い訳をした。こういうときは堂々とするのが一番である。実際これくらいなら誰だって予想できそうなものだったから。


「エレーナ様は公爵家のご令嬢ですし、王都の他の公爵家や貴族の方の中でも第一王子と年齢も近いわけですし。最もふさわしいと言えばあなたかなと思いまして」


エレーナ嬢はじっと私を見つめ、少しの間沈黙が下りた。


「・・・あなた、口は堅くていらっしゃって?」


怒られてしまうかもしれない。そう思っていたのに、エレーナ嬢は周囲を気にする素振りをした後そう私に聞くと、返事をする間もなく私の腕を引っ張って歩き出した。そのまま私を連れていつの間にか馬車に乗り、あれよあれよという内に馬車は学院の敷地を出て行く。どこに向かっているのですかと聞いても、彼女は一切口を開いてくれない。


私は諦めて大人しく馬車に揺られることにした。





そして私は今、豪華なお屋敷内の応接間と思われる場所で、エレーナ嬢と共にお茶の席についていた。一体なぜ、なにがどうしてこうなっているのか。エレーナ嬢はメイドたちを全員下がらせると、ようやく口を開いた。


「不思議そうな顔をしていらっしゃいますわね。ここは私の屋敷ですの」


なるほど。そういえばエレーナ嬢はここ王都の公爵家だったわね。ということは、実は寮には入らずここから学院に通っていたということかしら。・・・あの学院に来て2年目だというのに、寮でエレーナ嬢に会わない理由がこれだったと今更知った。そういえば、寮生はほとんどが王都外の出身の者ばかりな気がする。


「どうぞリラックスなさって?ジャムは何がお好みかしら、チェリー?それともブラックベリー?他にもたくさんありますわよ」


「あ、ありがとうございます。ではベリーで」


エレーナ嬢は流れるように綺麗な動作でもてなしてくれた。もてなされているというのに一口もつけないというのは失礼極まりないので、私は紅茶を飲む。程よい苦みと深いコクがふわりと口の中に広がり、思わず美味しい、と感想が零れた。これはアッサムだろうか。


「あの、なにかお話があるのです、よね?」


私に対して、秘密にできるかと前置きして、さらに自身の家にまで連れてくるほどなのだ。よほど誰にも聞かれたくない話なのだろう。なぜ、ほとんど接点のなかった私になのかまではわからないけれど。


エレーナ嬢は紅茶を一口飲むと、私をまっすぐ見つめた。


「まだ公にはしておりませんが、私がアルバートと婚約状態にあることは事実ですわ。公にしていないのは、私の我が儘ですの」


はて、どういうことだろう。婚約しているのならば、それもこの国の第一王子とであるならば、普通の令嬢は公にしたがるものじゃないだろうか。


それに、先ほどからのエレーナ嬢のメイドたちへの態度といい雰囲気といい、想像していた傲慢な公爵令嬢の影は微塵も見当たらない。隙がなさそうなところは想像通りだけど、美しく聡明で、人の良さそうなご令嬢に見えた。やはり、人々は皆、私の知っている人物たちとは別人となっているようだ。


「一言で申し上げますと、アルバートを試している、ということかしら?」


「試している?」


私が理解できずに首を傾げていると、エレーナ嬢は怪しく微笑んで頷いた。


「彼を咎める者がいない状態で現を抜かしているようでは、次期国王としてふさわしくありませんもの。私がふさわしくないと感じましたら、婚約者の座を辞退させていただく所存でございまして」


ふふ、とエレーナ嬢はどこか楽しそうに笑った。


まさかと思う回答がエレーナ嬢から得られて、私は困惑した。ちょっと頭の中を整理しよう。


エレーナ嬢とアルバートが婚約状態にあるのは事実で、でもエレーナ嬢がアルバートを試したい一心で公にはしていない。つまり、アルバートがエレーナ嬢に見限られれば、婚約が破棄されるということだろうか。


なんだか、ストーリーとは少し違う展開になってきているようね。エレーナ嬢が、アルバートと仲良くしているアサヒに嫉妬して嫌がらせをした結果、婚約は破棄され学院を追放されるというストーリーだったような気がするけど、このまま行くと捨てられるのはアルバートの方では・・・?普通に考えればエレーナ嬢は王都の由緒正しい公爵家のご令嬢だし、才色兼備、容姿端麗、ありとあらゆる褒め言葉が見合う女性だ。そんな女性を男性達が放っておくわけがない。


「まぁ、面白そうですから野放しにしておく、本音はそんなところかしら?」


そう言ってエレーナ嬢はまた紅茶を飲んだ。


なんだか余裕たっぷりだなぁ、と私は思った。優雅に紅茶を飲む姿も、アルバートを面白そうに眺める様子も、どこか自信があるように見える。確かに、今のところアルバートとアサヒは友人だと聞いているし、今後も友人で居続ける可能性だってある。


そこで私はふと、聞いてみたいことが頭に浮かんだ。少し野暮かもしれないけれど。


「あの、エレーナ様は第一王子のことをどう思っていらっしゃるのですか?」


エレーナ嬢は私の目をまっすぐ見ると、目を細めて笑う。


「手のかかる王子、でしょうか」


「・・・はぐらかしましたね」


私が声音を下げて言うと、エレーナ嬢はまた面白そうに、ふふふ、と笑った。


「では、私が呼ばれた理由をお聞きしても・・・?」


エレーナ嬢とアルバートの関係はなんとなく分かったけれど、ここまで聞いても私が呼ばれたわけが理解できなかった。何かをしてほしいとお願いされるわけでもなく、アサヒの態度について同室者としての責務を問われたわけでもない。エレーナ嬢に聞くと、彼女はそうね、と一言置いてから言った。


「誰かにこのことを聞いてもらいたかったのかもしれませんわね。それにあなた、アルバートに対して興味なさそうでしたもの」


まさか、そんな理由だったとは。


「え、じゃあ、今日の朝にあんな顔をされていたのは・・・?」


「どの顔かは存じませんが、あのときは単純にアルバートの乱雑な言葉使いと態度が気になりましたの。こんな方が将来国王になるのかと思うと複雑でして、つい」


エレーナ嬢はそう言って頬に手を当て、わざとらしく溜め息を吐く。


どうやら思っていた以上にこの人は面白いようである。そして、案外図太い。エレーナ嬢の回答に思わず笑いを零してしまい、慌てて謝罪をする。


「すみません」


「構いませんわ。あぁ、それより、これから私のことは是非エレーナとお呼びになって?私もあなたのことをフィオナと呼ばせていただきますわ」


「え、はい、わかりました」


急に距離を縮められてしまい、私はとりあえず頷いた。エレーナはそんな私を見て笑うと、そこで初めて私に対してお願いをしてきた。


「今後の動向のために、あなたから見たアルバートの様子を聞かせていただきたいの。もちろん、無理にとは言いませんけれど。・・・でも、時々こうしてあなたとお茶をするのも悪くないわね」


つまり、今後も定期的にここへ連れてこられるということ。ひっそりと誰にも見つからないように馬車に乗って、二人だけでエレーナのための会議を開く。ぶっちゃけ今までのエレーナと同じくらい接触のないアルバートの様子なんて語れることなどないに等しいのだが、私はエレーナに同意することにした。


つまり、アルバートのことは建前なのだ。


「それってなんだか、秘密の友人みたいですね」


「あら、私はそう申し上げているのだけれど?」


私たちはお互いに顔を見合わせ、そして笑った。この人がこんなにノリノリな人だなんて知らなかった。さっそく次のお茶会が楽しみになってしまったじゃないか。


「私、なぜ今までエレーナと話さなかったのかしら」


「それはこちらの台詞ですわ。では、紅茶のおかわりはいかが?」


その後私はエレーナと日が暮れるまでくだらないことで話し込み、遅く帰ってクレアとブラッドに大層心配されてしまうことになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ