第1話プロローグ
「遂に......遂に......完成したぁ!!」
高校生程の少年は快晴な空に地平線の見える草っ原でガッツポーズを掲げる。
その少年は風を、大地を、重力をも感じていた。
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『ここは超仮想空間《SVR》。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚すらも感じ、まるで現実のような世界を楽しむことが出来ます。』
太陽に照らされ神々しく光る金髪、白く健康的な肌に華奢で、麗しい容姿の二十代程の母性をやや感じる女性。
その目の前にはある少年が立っていた。
「管理者権限、ID【S219D-FR12Q-0MMG8-RKW5C-SG7RF】プロパティ展開。設定書き換え、NPC、容姿変更、ロリ、十才。」
少年は目の前の女性の台詞をガン無視して、ブツブツと唱え始める。
「上書き保存。終了。」
そう少年が言った瞬間の事だ。女性の姿がパラパラと光の粒となり、無に還ると共に新しく別の体が精製された。
「さあ、旅たちましょう!この世界は自由なのです!」
目の前には幼女。先程の彼女を女神と表すとすると天使と言ったところだろうか。あどけないその細い体に元気の良さ......それはとてもとてもーー
「......そそる!!やっぱり、サービス開始1分前に管理者権限、使ってでもログインした価値はあるぜ!」
「コラまてぃ!!何を変更加えてるんですか全く!?」
「おっとと......」
幼女を見て、眼福といった表情の彼の腹に蹴りを入れるが、それは避けられてしまう。
蹴りを入れた本人は黒く長いポニーテールを揺らして、それはもうプンプンに怒っている。
彼女の姿は黒髪、Tシャツに白ショートパンツといった様子であり、少年も同じような服装をしている。
「貴方のせいで今後の予定がグチャグチャじゃないですか!」
「よ、よ、よ、幼女。需要あるよ?ロリコン歓喜!利益倍増!」
凄く挙動不審になる少年は人と話す事が苦手なようで言うことが不安定な様子あった。
「貴方の勝手な変更で私達が何時間無駄にしたと思ってるんですか!?」
「か、会話はネット越し、か筆談で」
「全くもう、どれくらいの付き合いになるんですか!?」
少年は目の前に半透明のキーボードを取り出し、数秒で打ち込む。
『夢月ちゃんのアバター、眼鏡付けてないから、普段より可愛くないから違和感があって......ね?』
「はあ、際ですか。もう次やったら修正しますよ。女神のサーシャちゃんが次来るシナリオはまだ先ですし何とかできます。しかし、管理者権限はもう取りあげです。次、何かしたら殴りますよ?」
『了解です!夢月ちゃんマジ天使!あ、あとそのアバター情報、後で送ってください。フィギュアにして360°拝むので』
「キモイですよ、死んでください。あと、そのアバター使えなくしときますね」
『えぇ!?やだよ、俺、蒼い剣と黒い剣持って無双するんだ!』
「今すぐその妄想を止めなさい。とりあえず無理です。と言うか、楽しいですか?自分で知り尽くしたゲームをするの。」
『んんや、無双したいだけ』
「はぁ、それが動機なんですか?まあ、とりあえず、ログアウトさせますんで説教は現実で」
『ちょっとまってそれは一方的にぐちぐち言われるだk』
少年はキーボードでもう少しで打ち終わる所で切断されてしまい、両者は光の粒へと消えてしまった。
そう、この物語は開発者で世界を知り尽く、彼による知識チートによるMMO無双を果たす物語であった......
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「ああああぁ〜〜......機体は取り上げられるし、大量生産してるはずなのに何処も売り切れ......予約しても1ヶ月待ちとか生殺しかよぉおお!!」
ある少年。そう超仮想空間中に居た姿と同じの容姿をしている少年が現実のベットでゴロゴロと寝転がる。
「材料も高騰、俺に残す術はない......のか。」
現在、夏休み期間満喫中であるはずの高校生の彼は無残にも希望を失い掛けていた。
「なあ、妹よ。聞こえていないと思うが言っておこう。人の金でするゲームは楽しいか?......俺は今、無双しているはずのMMOが取り上げられているんだ......」
壁へと語り掛ける彼は病んでいるといっても過言では無い。彼が出来ること、それは時間を只ひたすらに、夢たる無双の実現を待つ事であった......
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿ーー」
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「あはははは......俺は新世界の神だァああああああ!!」
『ここは超仮想空間《SVR》。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚すらも感じ、まるで現実のような世界を楽しむことが出来ます。』
少年の目の前には勿論のようにこの1ヶ月で幼女と知り渡った女神サーシャが世界の説明をしてくれる。
『それではキャラメイクと行きましょう!』
「はいいいいいいい!!」
少年は跪いて、幼女に顔を合わせて台詞に合わせ返事をしていく。
「容姿はこのまま.....いや、二十歳ぐらいで」
『了解致しました。続いてはスキルです。お手元にステータス画面を表示致します。このステータスはーー』
少年はやはり幼女の話をスルーし、画面表示された瞬間から打ち込んでいる。
『ステータスを決定するには名前の記入が必要です。』
「ああ、そういえば、普通の名前だと使われてるもんな。」
少年は『ケイ』と打ち込む。
『それは使用されております。』
「やっぱり?」
『ケイン』
『それは使用されております。』
『K』
『それは使用されております。』
「KKKKKKKKKKK」
『使用可能です。その名前に致しますか?』
「いいえ」
『慶』
『それは使用されております。』
『ケ☆イ』
『それは使用されております。』
「いるのかよ、怖。と言うか俺、名前のセンスねえわ。ランダム出来る?よね。」
『はい可能です。ランダムにしますか?』
「はい」
『《ラムダ》となりました。』
「ギリシャ文字、まあ登録されてそうな名前だけど大丈夫だったか。それでいい」
『了解致しました。』
『ステータスは以下の通りになりました。職業称号は選んだスキルから自動的に検出します。』
「ああ。」
この会話で気付いたであろう。この少年の名前は慶という高校生。そして、これからこの世界でラムダと名乗る事となるであろう。そして彼、ラムダのステータスはこうなった。
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ステータス
名前:『ラムダ』
レベル:《Lv1》
職業称号:《採掘師》
《スキル》
Lv1【登る】
Lv1【採掘】
Lv1【経験値上昇】
Lv1【エンチャント】
Lv1【攻撃力増加】
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「うん、計画通り。」
『これでキャラメイクを終了致しますか?』
「ああ。」
そう簡素に答えたラムダの頭の中には既に某剣士を諦め、1ヶ月というハンデを覆し、最短でMVPプレイヤーとなるシナリオを立てていた。
『これより世界へと転送されます。それで宜しいですね?』
『ああ。』
『カウントダウンです。さん、にぃ、いち......ぜろ!』
女神サーシャのカウントにより、ラムダは光の粒を帯びた。