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俺の幼馴染は最高に美少女で性格も完璧だけど、たまに緑色の体液が漏れてる

作者: 榎本快晴

 俺――高村和彦には薔薇色の青春が約束されている。

 なぜなら、理想を絵に描いたような幼馴染がいるからだ。


 街を歩けばスカウトが押し寄せるほどに容姿端麗。

 誰にでも優しく、朗らかな笑みはあらゆる人を魅了する。


 こんな美少女とこの上なく親しい関係で、同じ高校に通えるのだから男冥利に尽きるというものである。


 ただ一点の問題は――


「ねえ和彦くん。さすがに私の秘密、もう気付いてるよね?」

「いや全然。何の話?」


 彼女には、決して触れてはならない大きな秘密があることだ。


 入学式へ向かう通学路の道中。

 幼馴染の美冬は、俺の隣を歩きながら不安げな表情を浮かべている。


「今まで何度も見られちゃってるよね? この前だって、私の脇腹から緑色の汁が漏れちゃってるところを……」

「そうだな。青汁を零してたな」

「違うよ……。青汁じゃありえないほど生臭い匂いがしてたでしょ? 魚介類みたいな……気付かなかったなんてありえないよ!」

「俺あの日、花粉症で鼻が詰まってたから」


 俺は一切の動揺を示さずに平然と返すが、美冬はなお怯えた猫のような顔のままだ。


「ほ、本当? 私に気を遣ってない?」

「気を遣うも何も。脇腹から緑の汁が出る理由なんて、服の下に持ち運んでた青汁パックが潰れた以外にありえないだろ」

「たとえば……私が地球上の大気に長時間晒されてると、一時的にああいうのが漏れちゃう体質とか思わない? 命に別状はないの。そう、和彦くんの花粉症みたいな……」

「俺、ちょっとそういう病気は聞いたことないから想定できない」


 俺が無表情で否定すると、露骨に美冬は安堵したような顔になった。


「そっか……そうだよね。和彦くんって鈍い上におっちょこちょいだもんね。女の子の秘密に気付くほど鋭くないか」

「なんだよその言い草。もしかして俺のことが好きなのか?」

「へっへーん。内緒!」


 両想いかどうかも大いに気になるところではあるが、現時点で俺の関心はそこにない。


「でもよかった、気付かれてなくて。これからは、ちゃんと異星大気反応抑制剤を飲み忘れないようにしないと……」

「最近のビタミン剤は商品名が長いんだな」

「あっ! 何でもないの! 今の薬品名は忘れて!」

「おう。もう忘れた」

「えへへ。やっぱり和彦くんが鈍くてよかった」


 許されることなら、俺がその薬の予備を持ち歩いて定刻通りしっかり服を促したい。なぜ飲み忘れたら致命的な事態となる薬に対し無頓着でいられるのか。


 おそらく、俺の知る限り月に一回くらいのペースで漏らしている。


 以前、授業中に美冬の制服が緑色に滲み出したときはもう終わりかと思ったが、俺がその場でゲロを吐くことで全生徒の注意を引きつけた。ついでに生臭さもごまかした。


「……でも、ごめんね。実は私、とっても大きな隠し事をしてるんだ。本当は今すぐにでも打ち明けたいけど、それはできない決まりなの。もしバレたら、関係者の記憶を綺麗さっぱり消して遠いところにバイバイしないといけないから……」

「おっ。飛行機雲が出てる。今日は雨が降るかもなあ」


 俺は空を眺めながら虚ろな目を浮かべてみせる。

 そして何も聞いていなかった素振りで美冬に向き直る。


「ん? 今、何か言ったか? すまん。よく聞いてなかった」

「う、ううん! 何でもないの」

「もしかして愛の告白だったりしたか?」

「そうだったら残念でした! 二回は言わないから!」


 あっかんべー、と美冬は楽しそうに舌を出してみせる美冬。

 この笑顔を今後も見続けるためなら、鈍感男を演じてしらばっくれることなど何の苦でもない。そうだ、美冬の秘密を守ることが俺の男としての使命なのだ。


 そのとき。


「……だよ」


 俺が決意とともに深く一人で頷いていると、小声で何かを呟いた。

 一人で盛り上がって集中していたせいで、あまりよく聞こえなかった。


「今、何か言ったか?」

「むー……。二回は言わないって言ったばっかりなのに。ほんっと、鈍感!」


 鈍感と呼ばれて俺はふっと微笑む。

 きっと、また何か聞いてはならない類のことを言ったのだろう。それならば甘んじて鈍感の誹りを受け容れよう。


 しかしその後、学校に着くまでずっと美冬は機嫌を斜めにしたままだった。


読んでくださりありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど笑
[一言] 読み返していると、ちょっと長編版が気になってきた。
[良い点] 主人公常時青汁持ち歩いとけよ!( ゜Д゜) あっすまん!で終わるだろ?(なお唐突に青汁ぶっかけ男と呼ばれるようになるのは仕方ないね…)
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